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Requiem  作者: 潤木一和
6/28

聖女と待ち人

 ………これはどういうことなのか?

 この今の状況をどう説明したら良いのかは僕にはわからない。ただ、言えることはここにいてはいけないはずの人がいるってことだけなのだ。

 今日一日の事を振り返ってみるとこにした。




 一時間ほど前に遡る。

 僕は任務の時と同じくここの制服に槍を持って10時ちょっと前にリノン君達をリーアを連れて迎えに行った。

 10時ぴったりに、二人は来た。

 一応この機関の制服である黒を基調としたジャケットを着ていたが、二人ともショートヘアと呼ぶにはちょっと長く。色が青みがかった黒のため真っ黒だから、ジャケットと合わせると真っ黒なのだ。

 そのあと、10時半まで事務室の方で二人にあれこれ事務について説明し、訓練所というか実習室に二人を案内した。


 すでにユウとスフィアが来ていた。仲良く対談していた。いや、仲良く喧嘩していた。言い争う元気がある事はいいことだと思う。


「二人共おはよう。」

『おはよー!』

「…おはようございます。」


 ユウ達はこちらに近寄って来た。


「おは!で!そちらの二人は誰?」


 首を傾げている。用心しているわけではなく、知らないこの双子に興味津々の様だ。

 じろじろ二人を見るユウ。ユウの隣にいるスフィアの方はじろじろと双子を見ているユウを軽蔑するように眺めている。

 とりあえず僕が説明した方が良さそうなのかな?

 リヨウくんじろじろ見られて困ってそうだし……。


「……はじめまして。リヨウって言います。これからこちらでお世話になるのでよろしくお願いいたします。」

「あっ、ご丁寧にどうも。見たところ同年代ぐらいだろうし、出来れば敬語なしで。俺はユークリットだ。ユウでいい。よろしくな。」


 ありがたいことにリヨウくんは自ら挨拶していた。

 ユウもふざけず真面目に会話できてるから問題はないだろう。


「…………リノンだ。」

「おう!よろしくな。」

「それにしてもそっくりですね。一卵性双生児ですかね?あっ、私はスフィアです。よろしくお願いします。」


 いつの間にかスフィアが会話に加わっていた……予想外。この双子がそっくりなのかは置いといて。


「そうらしい。あんまり詳しくは知らんが。」

「へー、一卵性初めて見ますね。性格は似てなさそうですが。」


 スフィアも問題無さそうな様子。これで双子がこの特攻隊において浮くことはないだろうと僕は安堵した。

 元よりユウたちが差別やいじめが出来るような冷めた性格をしているとは思えないが。


「それにしても…スティーク隊長は重役出勤になりそうだな……。」

『マスター。ちなみにスティークさんからのメッセージはゼロ件だよー』

「ああ、ありがとう。まぁ、来ないなら僕達だけでもやるか。」


 少し気が重い。自分が主となってなにかをするのは苦手だ。

 しかも、スティーク抜きでの訓練は危険な気もする。


「そうですね。ところでこの双子は武器とか有るのですか?」


 そういえば、この二人の武器を確認してない。

 もし、この国に入るときに預けたりしていたら、色々面倒なのだが、スティークが預かってたら面倒事はない。

 しかし、今はそのスティークが来ていない。

 隊長はいつもはきっちりしてるくせにこう言う時だけ、ルーズなんだよな。


「僕は何も聞いてないし、わからないや。来るまで待つか、どうするか………。」

「誰を待つのかなぁー?」


 見た目に似合わず揺ったりとした口調でそれを言う本人を待ってたとは言えないな。

 スティーク隊長は普段はのほほんとしているのだが、戦闘中のあの性格のが見た目にはあっている気がする。

 そんなスティーク隊長が二本の剣を持って来たから、僕の悩んでいたことは無事解決した。


「あぁ、俺の事を待っててくれたのか。ごめんねー、思いの外手続きに戸惑って…。」


 俺って言うのすらも似合ってない。

 そんなことは良いや。手続きとは何だろうか?

 昨日に今日でできる手続きとは?


「重役出勤すねー!」


 そろそろユウのKY具合が酷すぎて悲しくなってきた。

 いま言わなくてもいいんでは無いのか?むしろわざわざ今言った意味を聞きたいよ。

 呆れて本人にそれを告げるのもめんどくさい。


「仕方ないだろう?4時まで重要な話をしていて寝れたのが5時で起きたのが8時で国教会の方に所持許可証の発行をしてもらいに行って終わったのが10時…、ダッシュでここまで来たのにそれはひどくないかい?」

「わーお、お疲れ様です。」


 わざわざあの密会ぽいのの後に国教会な。それは疲れるわ。

 所持許可証。反乱、国内紛争、クーデターなどを防ぐため僕らの様な機関以外の一般市民とかには武器の所持が認められていない。この機関に勤めている人でさえ所持許可証を持っていないと処罰の対象になる。所持許可証の発行は国教会でしか行っていない。

 国教会から、この機関までは約30分かかる。


 よいしょとスティークは剣を置き。腰に手を置き、疲れたー労えとでも言いたげな顔で見てくる。まぁ、そんな顔で見られても言う気にはなりませんけれど。

 双子の剣も双子同様似通っている。レイピアよりは少し太いか。


「結構細いのか。」

「元々使っていたのよりは太いけれど……」

「これは元から使っていたのじゃなくて新しいのなのかな?」

「えーと、俺が勝手に買い換えてしまいましたー。この子たちの使ってたやつ、ぼろかったので新しい剣に……と知り合いの鍛冶屋の方に格安で切れ味重視で作ってもらいさらに言えばデザインも俺が勝手にー。」


 いい歳した大人が自慢げにダブルピース。てか、勝手にやりすぎてませんか?しかも、一日やそこらで出来ることじゃないから、かなり前からの話だな。

 つまり、この大人は僕らに事前に双子が来ることを知っていながら、教えず自分だけで、用意を着々と進めていたと……。

 どおりで、上手く進みすぎていておかしいなとは思っていたが、これで納得がいった。

 色々言いたいことはあるけれど今は問いただす時ではない気がする。

 僕がどれだけ不満を抱いていてもそこまで差支えなく、双子たちがいいならそれでいいのだろうな。


「えーと、ここまでしてもらちゃっていいんですか?」

「いいんだよ?こっちが勝手にやったと思ってくれれば。」

「そんな……そんなことしてもそちらにはメリットなんてないはずなのに、むしろデメリットばかりだ。」


 そんな事を言ったのはリヨウ君の方だった。

 ひねくれてる……いや、理論的過ぎると言うべきか?

 物事をメリット、デメリットで考えているのか。

 珍しいな。あんな考え方をしているなんて僕はともかくユウやスティークはそんな考え方はしないだろう。今まで過ごしていた環境とかが影響しているなら、どんな生活を送っていたのかは明確だ。


「メリットとか考える前に隊長からの入隊祝いとして有難く受け取ったらどうかな?」

「えー、僕らには勿体ない気がしますが……いただきます。ありがとうございます。」


 剣をもらいまじまじ見ている。リヨウ君に続いてリノン君ももらい見ている。

 リノン君が一言も発していない気もするが、元々口数が少なそうなので気にするほどのことでもなさそうだ。

 リーアがジャケットの裾を引っ張ってきた。なぜか珍しくしゅんっとしていた。


『マスター!僕待ちくたびれたよー。』

「何を待っていたのか分からないんだけど?」

『みんなで乱闘するんじゃないのー?』

「あの会話から、そんな物騒なこと考えたのか。一対一とか二対二とかで組手をするんだ。」

『う~い!』


 う、う~い?

 はーいとうんでうーいか?そうなのかな?訳がわからないよ。

 返事というか了解的な意味があると思うことにした。


 意味の分からないことを考えるより、時間を無駄にせず今後に役立つことを考えよう。

 とりあえず双子の武器は細剣よりの剣であることはわかった。つまり前衛だ。

 僕のは中距離向きの槍だ。前衛では槍の特徴がいかせない。

 スティークは銃剣。銃の状態と剣の状態を切り替えて戦うスタイルだから、あまり遠距離だとこの武器の長所が生かせない為遠距離向きじゃなくどちらかというと僕と同様に中距離向き。

 つまり何が言いたいかというと僕とスティーク以外前衛であり、全体的に前衛に偏ってしまっている。とてもバランスが取れているとは言い難い。しかし、特攻という意味的に考えると前衛に傾くのが自然であり、不自然なことではないのだが、自分的にはもう少しバランスがとれた方がいいと思うけれど………。


『ねーねー。』


 裾引っ張るの好きだよね。伸びるからやめてほしいな。

 話の途中で考え込んだ僕が悪いのか…。


「ごめん。なんだった?」

『もー!いつまでみんなでお話してるのー?』

「非番なんだしいいんじゃないかな?」

『組手するんじゃないの?』

「平和なら戦うことはないし、この隊は働かなくていいし、給料はもらえるし一石二鳥。」


 平和が一番。


『そういうのを給料泥棒っていうんだよ。』

「大丈夫。いつも給料以上のことをさせられてるから。」


 昨日のあれとか、通信機の試験運用とか。

 そんな話をしていたら、ユウ達と離れていた僕たちをスティークが呼んでいたのでユウ達の方に行く。


「さて、真面目な話をすると明後日に聖誕祭が迫ってるわけなんだけど、今回もこの隊は非番で自由に見て回れと言う予定だったのだけど、重大な任務を任されちゃいました。」


 聖誕祭。ここを創造したとされる聖女様の生まれた日に行われる祭り。

 防衛班には警備が任される。僕らの隊は何もしない一般客とともに祭りを楽しむ。

 つまりは非番なわけだ。なのに今回はちゃんと仕事があるらしい。


 スティーク隊長の態度的に彼の言う重大が本当に重大なのだった。

 スティーク隊長の話の途中、この部屋の扉が開いて誰か入ってきた。

 ……問題なのはここからなのである。


 ガチャっと扉を開けて入ってきたのが、金髪のスタイルの良い少女。彼女のような人とは面識があるがその面識のある彼女はここに来るなんてことはできないわけで多分、他人の空似だろう。

 まぁ、世界には似てる人が三人はいると言うし、それだと願いたい。


「こんにちは、明後日お世話になるエリスと言います。よろしくお願いします。」


 ……今に至る。

 驚愕で言葉の出ない僕に笑顔で手を振る彼女。そんな彼女に手を振り返すしかない。

 知り合いかよと隣からユウにつつかれ、正気に戻る。


「意外と早かったですね。」

「久々に同年代の子と会えるので嬉しくてつい。」

「まぁ、いつでも会えたら聖女としての格に影響してしまいますよ。」


 スティーク隊長。事情知ってるの隊長だけなのですから、事情を詳しく明確に教えて欲しいです。切実に。

 まず、双子は彼女が誰だかも知らないだろうし、ユウは今わかったようで口をパクパクさせてるし、スフィアは口に手を当てて驚いてるのと同時に嬉しそうだし、ちなみに僕は動揺しております。


「えーと、たいちょー。本当にあの美女と噂のほとんど公に出ない。あのエリス様なのですか?」


 切り込んたのはやはりユウであった。


「なぁ、ユウ本人を前にしてそれは失礼だと思うだけど。」


 呆れたようにスティーク隊長が応える。美女かぁーと彼女は微笑を含みつつ呟く。


「じゃぁ、改めて、私が6番目の聖女エリス。今回は聖誕祭の時護衛をこの隊がしてくれるということで挨拶にきました。」


 事情は把握した。つまり僕たちの隊は明後日彼女の護衛をすることになり、お世話になるからと僕たちに挨拶に来たと。

 唐突すぎだと思ったがよくよく考えたら、許可証を取りに行った時に国教会に頼まれたと考えたら仕方ないことだ。

 それにしても

「護衛ねー……。」


 考えてるだけだったのに口に出してしまった。問題のある言葉ではなかったのが幸い。


「うん。どうせなら同年代の人が護衛してくれた方が気が重くないし、ラルクの隊だって聞いたからね。お願いして急遽そうしてもらったんだけどダメかなぁー?」

「ダメじゃないんですが6人で護衛もどうかと思うのです。こんなにゾロゾロくついてても邪魔になると思うんです。」

「護衛のことはいいとしてなんで敬語なの?君には敬語を使われたくなかった。」

「流石にそれはまずいと思います。聖女様相手になれなれしくなんてそんな事は出来ません。」

「うう、ラルク。どうしてもダメ?」

「ダメです。」


 こちらとしても面識が、あるとはいえそれはダメだと思う。

 彼女は不機嫌そうに口を膨らませる。

 なんで僕と聖女様が仲がいいのか問い詰めたそうなユウとスフィア。

 おいおい話してあげないとなーそんなことを思った。


「聖女様ってそんな偉い方なのですか?」


 リヨウくんが好奇心からか聞いてきたがどう説明していいのかが正直わからない。

 こういう時にふと思う、語彙力くださいと。

 先程まで不機嫌そうにしていたエリスがリヨウくんを見るとともに近寄り、彼の両手を取り自分の両手で握る。


「可愛い!!」


 ……何をしだすかと思えば、本当何してるんですか。

 聖女ともあろうおかたが、そんなことしていいのですか。

 えっ?っと戸惑っていたリヨウくんが自分の手が握られてることの気づき、反射的だと思うが引き抜いてしまう。

 エリスは何がいけなかったのか分からず首をかしげた。


「あ、すいません。」

「こっちが悪かったよ。今度から気をつけるね。」


 エリスはシュンと若干悲しそうにしている。

 リヨウくんは自分の両手を見て何やら険しそうな顔をしている。僕が聞いていいものではなさそうなので声をかけてあげることもできない。

 そんなリヨウくんの頭を撫でるリノンくん。この前みたいに鬱陶しそうに払っている。


 こんな状況ではあるが時間が惜しいとスティークが言ったのでとりあえず護衛の話を進めることにした。

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