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Requiem  作者: 潤木一和
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報告書と技術部

「終わらねー!報告書うわぁぁぁぁ!!」

「煩い。」


 無機質な事務室の中、報告書を仕上げようと隣で頑張ってる同僚の嘆きを一言で切り捨てる。

 そんな暇有るなら手を動かせ手をと思ってしまう。


 同僚である茶髪スポーツ刈の青年。スティークが置いてきてしまったため迷子になってしまった内の一人。


 隣で机に突っ伏している同僚が突っ伏した状態でこちらを見た。

 なんだよ。忙しいんだよ……


「なぁーなぁー」

「………」

「なぁー」

「なんだよユウ、煩いな」

「終わりそうになくね?」

「………手を動かせよ。」

「冷たいなぁー…」


 体を起こし渋々ペンを持ち報告書に記入していく。

 ユウこと、ユークリットはペンを持って事務仕事をするより、体を動かしたりした方が好きなため、こういう事務的な事を好き好んでやれない。


 報告書を仕上げるために机に向かっていると、机にお茶が置かれた。

 ユウと自分しかいないと思っていたラルクは置かれた直後後ろを見る。

 おぼんを持った水色の髪の女子がいた。


「あっ、スフィアか。ありがとう。」

「いえいえ!ラルクさん、速く報告書仕上げたい気持ちはわかりますが、休憩も大切ですよ?」

「後、少しだから…大丈夫だ。ありがとう。」

「いえ!」


 そう言ってスフィアは嬉しそうに微笑む。

 この人もまたスティークが置いてきて迷子になってしまった人だ。

 わざわざお茶を配ってくれるように、気配り上手でいい子という印象が強い。


「スフィアーオレにはー?」


 頭をスフィアの方に向け、問いかける。


「ユウには無しです。」

「ええ!?何でだよー?頑張ってるじゃねーか!!」

「そういうこと言うから、だめなんですよ。」


 毎日のように繰り広げられるスフィアとユウの口論………いや、口喧嘩。

 喧嘩するほど仲が良いとは、まさにこのことだなと毎回思う。

 自分にはこういう友達はいないな。うらやましいなと思いつつ報告書を書き進める。


 スフィアにはユウにお茶を持ってくる気はさらさら無いようなので二人が口喧嘩してる間に報告書を出せる形にし、仕方なくユウのためにコップをとり、お茶を淹れてやる。


 ユウの机の上にコップを置く。

 ユウはラルクに背を向けてスフィアと口喧嘩をしているので置かれたことに気づいていない。

 スフィアの方からははっきり見えているだろう。


「ユウ。ラルクさんがあなたのために淹れてくださったのにお礼も言えないのですか?」


 言葉に毒を含みながらスフィアは告げた。


「えっ?あっ、本当だ。ラルク、サンキュー!」


 こちらを向きお茶を確めつつ軽くラルクにお礼をいい。お茶を口に含む。


「ん。スフィア、隊長は?」

「隊長は………確か、今日国境付近に出掛けましたよ?

 なんでも古い友人がどうとかって言ってました。」

「じゃあ、報告書急いで仕上げなくても良かったんじゃん。」


 なんだなんだとユウはコップを置き椅子から立つ。


「でも、隊長が、今日中には俺の机の上に置いといてって言ってましたよ。」

「えぇー、やっぱり今日中?」

「はい。今日中です。」


 とりあえず、報告書はスティーク隊長の机に置いとけば良さそうなので二つある報告書の内スティーク隊長に出すやつをとり、隊長の机に置く。


「えー。ラルクもう終わったのかよー!?」

「ああ、半日もかければこれくらい終わるよ。」

「うっそ。オレは終わってねーんだけど?」

「お前が無駄なことばっかりしてるからだよ。」

「………そうっすね。さーせん。」


 落ち込み椅子に座るユウ。落ち込みつつもちゃんと動いている手。


 ラルクはもう一つの報告書を持ち、ドアを開ける。


「技術部の方に行ってくる。」


 事務室を出て技術部に向かう。




 わざわざ技術部に向かう理由は2つ、無線の調子が悪いので修理してもらうため、報告書に悪い部分、使った月日、使い方などを明記し担当者に提示するため。

 報告書は自分がどんな仕事をしたか明確にするために書くことが義務づけされており、この機関ではそれを国教会にまとめて提出しなければならない。


 今回はラルクの報告書を元にして修理を行いそれをした事を担当者が報告書をまとめて提出という形になる。


 まず、ラルク達は聖女を称え支持する宗教国家エゼルスールの防衛などをしている機関で働いている。


 その機関での分担は市民を防衛するのは防衛班。機械などの開発、修復をしているのは技術部。防衛班が対応出来ない事態に陥った時に対応するのがラルク達、特攻隊。そしてそれをまとめるのはデスクワークが主な幹部達。


 今回用が有るのは技術部。技術部は地下に有るため下らねばならない。

 ラルクがいるのは5階、目的の階は地下2階。結構下る。エレベーターが一応有るものの技術部が試作程度に作った物で安全性はあまりなく、よく止まるため使うものは少ない。


「………諦めて使うか。」


 ラルクはエレベーターを使う覚悟を決め、エレベーターの方に向かう。


 エレベーターまではそう遠くない。事務室を出て左に真っ直ぐ行った突き当たりだ。


 エレベーターについた。デカイボタンをおす。ガコンッと動き始めた。

 金属の擦れる音が耳に響く、重しが落ちていき徐々にコンテナらしき物が上がってくる。


 扉……と言うかフェンスが開き恐る恐る中に入り、ボタンを押す。


 ガコンッと動きゆっくり下に動いてるのがわかる。


「なんて言うか怖い………」


 正直それだ。上から下に行くのも下から上に行くにもいつか落ちるのではないかと心配になる。


 ガタッ、少し止まった。


「……止まった……」


 動き出した。ラルクはビクッと上を見るがいつも通り正常に動いていた。


「このエレベーターどうにかして欲しい………」


 そんなことを思っていると地下二階についた。

 フェンスが開いてコンテナから降りる。


 手に持った報告書を届けるには届け先の人に会い行かなきゃならないがその人が自室にいない場合面倒なことに研究室巡りをしなければならなくなる。


 一応、その人の自室に向かう。


 幸いエレベーターに近いため、直ぐにつく。

 そもそも、エレベーターを作ったのが届け先の人なので近くなきゃすぐ直せないから近くなのだろう。


 その人の部屋のドアをノックする。

 はーいとゆったりとした返事がした。どうやら研究室巡りをせずに済みそうだ。


 ドアを開けて中にはいる。


「お邪魔します。」

「はーい。もうちょっとで終わるから待っててー。」


 机に向かい何かしている白衣を着た白髪の女性。

 ラルクは机に近づく。


「………今回はどんな物騒な物を造っているんだ?」

「失礼だよーちゃんと実用性が有るものを造ってるのよー?」

「………ロミカ、貴女が造った物は大体壊れるんだけど?」

「実用性は有るでしょー?」

「安全性と耐久性を要求する。」

「あー、うん。無線の件はごめんなさいね。」


 ロミカの横から机を覗く。 黄色の丸くてヘッドフォン的なのを付けててっぺんからアンテナらしきものもがついてるマスコットの様な物をいじっている。


 作業が終わったのかドライバーを置き、ラルクの方を向く、なぜかキラキラさせて黄色の目がこちらを捕らえる。


 まるで聞いて欲しそうだ。彼女は二十歳越えなのに子供っぽくて可愛らしい一面をよく見る。


「何を造ってたんだ?」

「よくぞ、聞いてくれました!!ラルクちゃんの無線機が壊れたと言うことで!代わりになるような機械を造らせていただきました!」


 黄いマスコットを見せながら、満面の笑みで告げられた。


 無線機壊れたのは貴女の作り方がダメだからです。耐久性重視でお願いしますよ。と言いたいのを抑える。

 ラルクちゃんと呼ぶ数少ない友人である彼女が、こんな嬉しそうに話すのもいつものことなのでさらりとスルーする。


「へー、あっこれ、報告書と使えない無線機。」

「あぁーどーも。って違う!この機械に対する感想をちょうだいよー………。」

「それが機械………本当に?」


 ロミカは無線機と報告書を机に置き、黄色のマスコット的なのを手に取った。

 手のひらにそれを乗せラルクに見せつける。


「うん!開発コードはてーでんくん。だよ。まだ、試作段階だけども使えそうなのでテストも兼ねてラルクちゃんに使ってもらおうかと思ってね。」

「開発コードネームのネーミングの悪さ。」

「可愛いでしょー!無線通信はもちろん、話し相手、遊び相手になる優れもの!最新式のAIを搭載してあり、人間に近い感情表現!」


 テンションが上がると他人の言葉が聞こえなくなる、ロミカ。とりあえず、このマスコットに無駄な機能が多いことが発覚した。

 無線以外に使える機能はないのか。


「ほう。それを僕に使えと?」

「うん!」

「で、これを使ってどうやって無線を使うの?」

「キャッチした電波を人に分かるようにしててーでんくん。が、話してくれるし、ラルクちゃんが発信してほしいときも言えば発信してくれるよ!」

「………なんとも間接的な無線機能……まぁ、無線使えないし仕方ない。」

「使ってくれるのね?」


 また、キラキラした目で見られる。

 ラルクは無言で頷く。


「よーし。じゃあーてーでんくん。始動するわね!」


 手のひらに乗っけていたてーでんくん。をいじると、ジッジッっと音がして、てーでんくん。の閉じてた目が開いた。

 座っていたのからちょこんと立った。しなぁーってなってたアンテナ?らしきものも立ったアンテナらしきものの先っぽにオレンジ色の球体がついていた。


『おはようございます。ぼくは試作型のてーでんくん。です。お好きな名前を付けてください。』

「………マスコットキャラっぽいのに話し方固っ苦しい。」

『砕けた口調のがよろしければそうしますよ?』

「………マスコットキャラなのだから砕けた口調のが合うよ?でも、無理にとは言わないから。」

『りょーかいです、ぼく、かっくるしい口調苦手なんだよー。』

「ラルクちゃん!とりあえず名前を決めてあげてよ。」


 このマスコットキャラで球体に手足が生えておしゃれにヘッドフォンなんかしてる開発コードてーでんくん。に名前かぁーと悩む。

 あっと、何か思い付いたのか口を開く。


「………リーアとか?………」

『可愛い名前だねーぼくは気に入ったよー』


 ロミカの手のひらから離れ、ふわふわ空中で楽しそうにしているてーでんくん。ことリーア。

 何で飛ぶ事が出来ているのかは理解しがたいけれど、ロミカに聞いたら長い話になりそうなのでスルーする。


「でも、何でリーアなの?」

「アゼリアのリアでなんとなく伸ばしたんだ。」

「ほー。」


 てーでんくん。は嬉しそうにふわふわ漂い。ラルクの肩に乗っかった。

 案外重量はない。色々便利な機能があるらしいから、もっとずっしりしているのかと思っていたラルクは拍子抜けした。


『ところでぼくはあなた様を何でよんだらいいの?』

「ラルクって普通に呼んでくれれば良いけど?」

『出来ればもっと親しみを込めた呼び方がしたいんだよ。』

「………好きに呼べばいい。」

『じゃあーマスターって呼ぶねー!』


 リーアがラルクの頬に頬でグリグリとしてくる。意外にリーアの頬はぷにぷにしていた。


 頬杖をついてラルク達を傍観しているロミカの方をむく。


「僕はリーアを預かればいいのかな?」

「うん。正常に動くかテストしたいしラルクちゃんに任せておけば報告書はちゃんとくれるし、不調が出ればすぐ持ってきてくれるから私は安心なのよねー。」

「了解。じゃあ、これからよろしく。」

『マスターよろしくねー。』


 肩から離れ再びふわふわ漂い始めた。


「用事は済んだし僕帰るよ。」

「うん。報告書と無線機をありがとうね。」


 ロミカに手を振り、扉を開け廊下に出る。

 後ろからリーアがふわふわ付いてきた。


『マスターの部屋に行くの?』

「いや事務室。」

『お仕事する部屋だねー。ぼく、マスターのお仕事サポートするよー!』

「今日の仕事は終わったから、また今度頼むよ。」

『そうなの!?じゃあ、何で今から行くの?』

「リーアの事を皆に伝えるため。」

『なるほど!』


 行きと同様帰りもエレベーターを使い事務室に帰る。

 エレベーターに恐る恐る乗る。


 一人でいるより、リーアがいる方がいいかもな。と思いつつエレベーターが壊れないのかなと不安にかられている。

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