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Requiem  作者: 潤木一和
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森の中。Ⅰ

 街外れの木が繁る森の中。いつもならば小鳥がさえずる様な穏やかな森である。しかし、今日はいつもとは違っている。立ち込めている濃霧が森を一変させていた。小鳥はさえずる事すらなく、むしろバタバタと慌ただしく飛んでいく。

 一変してしまった森の中を気を掻き分け進む人の姿がある。

 黒い上着をはおり、小さな子供ほどの背丈は有ろうかという武器が入っていると思われる茶色い塗装のケースを背負いながら、軽快に荒れ果てた森の中を進んでいる。

 背丈的には成人男性くらいだろうか、白髪に背中に背負っている物が武器とは思えない位細身。コートの厚さを考えると細心と言えど、健康体ではあるようだ。


「……どこに行けば良いのやら……霧のせいで前見えないし……。」


 整った顔立ちを少し崩し、立ち止まり左耳に手を当てる。左耳にはイヤホンが嵌められており、そこからは、耳障りの悪い雑音しか聞こえてこない。そのイヤホンはどうやら機能していない無線機の一部のようだ。


「雑音しか聞こえないし、何の為の無線なんだか……」


 連絡手段である無線から、聞こえるのは雑音のみ。襟にあるマイクの機能をなしているバッチに話かけてはいるが応答がない。向こうに届いているかも定かではない。


「無線は改良の余地ありと……」


  誰に言ったわけでもなく、独り言が口から漏れる。はぁーとため息をつき、近くの倒れた大木の上に腰を下ろし、疲れたなぁと空を仰ぐ。

 あたりを見渡しているとキーーンと耳鳴りして、それと共に無線から意味のある音が聞こえる。咄嗟に手をイヤホンに当て、無線の方に集中する。


「タイミングが、悪い……!」


 生憎、耳鳴りのせいで集中できず聞き取れない。しかし、断片的に言葉が聞こええてくる。内容までは詳しく聞き取れない。

 しばらくすると酷かった耳鳴りが止み、これで集中できると無線に耳を傾けるが、やはり雑音が多くて聞こえない。


「あぁ!もう、聞こえないよ!」


 思わず叫んでしまう。すると、後ろの茂みから何かが動く音が聞こえた。反射的に立ち上がり振り返り、ケースを手に持ち静止する。

 息をひそめて待機してみると茂みの中から、ゆっくりと姿を現したのは黒い毛皮を纏った、人間ほどのでかさの獅子だ。

 のっそりと歩きながら、こちらの存在に気づいたらしく、黒獅子の赤い目とかち合う。赤い目は威圧感を漂わせていて、ひるみこそするが恐れれば、今にも噛み付かれそうだ。

 いきなりは仕掛けては来ないらしく、睨みつけてくるばかりだ。

 タイミングを計ったのか、ザッと無線からやっと意味のある音が聞こえた。


『ラルク、今どこにいる?目標と思われるコアらしき反応を見つけたが、逃げられた。黒獅子の姿をしている周りには十分気をつけろ。』


 無線からは淡々とした落ちついた声が聞こえてきた。この落ち着きすぎた声は安心感をもたらした。

 知らせは遅すぎていたけれど、目標とわかっただけ、いい知らせだ。襟につけられているマイクを触る。

「こちらラルク、只今その黒獅子と対峙中。」


 それだけを無線の相手に告げ。相手と目をそらすことなく、ケースのチャックを開けてその中から槍を取り出し、黒獅子に向ける。


「……さぁて、相手をしてあげますか!」

 黒獅子はその声に答えるよう、開始を知らせるゴングのように叫んだ。

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