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序章
――ひどい雨の夜だった。
闇と雨が弾け、木々に降り注ぐ音のみが、森の中にこだましている。
暗雲は月を覆い隠し、さらなる闇を呼び寄せる。
そんな森の中を、男は歩いていた。
金色の髪に、中性的な顔立ち。そして、黒い革製のジャンパー。
背中の長刀は、何故か抜刀出来ないように、布で固定されている。
夜の森を歩くには、いささか不似合だ。
不意に、獣の声が響いた。
男は、ぴたりと足を止める。
雨が止んだ。
「――獣、か」
男は呟き、夜空を仰いだ。
「はたまた、幻想の獣か」
黒い雲の隙間から、白い月が顔を覗かせていた。