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女神が俺を笑わせようと必死過ぎる   作者: みたむら けいすけ
3/11

どうなってんの

「………………………………………………………」


 あっ、ヤバイ。ただの電波だ、この女だ。

 そう判断すると速攻で靴を履き、振り向きもせず外に出る。

 音速で一階まで下りて、管理人室のドアを叩く。

 

「管理人さん! 管理人さん!! 助けてください! 助けてください!」


 ドンドンドン! と我ながら迷惑行為一歩手前である事を自覚しながらもそれでも叩き続ける。


「はい? どうかしたの佐々木くん?」


 先程別れたばかりの管理人さんが部屋から顔を出す。


「聞いてください管理人さん! 俺の部屋に変なコスプレをした電波な女が居座ってるんです!」 

「お、落ち着いて佐々木くん。落ち着いて事情を説明しなさい」


 俺が混乱しつつも事情を説明すると、管理人さんは理解してくれたようで、遠い目をした。


「春は頭のアレがアレな感じになっちゃってアレな人がアレな頻度で出るっていうからねぇ……」


 と、同情の視線を送られた。

 そしてよしわかったと言って何故か管理人室に掛けてある竹箒を手に持った。


「佐々木くん任せなさい、あたしの箒捌きを見してあげる……!」


「お、お願いします」


 何故だか目が燃えている。ふふふっ、あたしゃあ竹箒でB29を撃ち落とした女だよとか呟いていてなんか別の意味で心配になってきたが大丈夫だろうか。

 とにかく俺の部屋の前に行き、俺と管理人さんは特殊部隊員のように壁に張り付く。

 そして指と顔で合図して、俺がドアを開き――


「きえええええええい!!」


 という奇声と共におばさんが部屋に突入し、俺もそれに続いて部屋に突入した……のだが。


「……あれ? 佐々木くん、その人は……?」

「……あ……れ……?」


 なんと、先程までいたあのとんでもない美人が、部屋から消えていたのだ。


「そんなはずは……」


 言いながらも、部屋中をかき回して探す。

 ベットの下、クローゼットの中、果てはトイレやバスタブの中さえも見たが、まるでさっきまでの光景が幻の様にどこにもいない。


「いない……ですね……」


 どうやら……どうやら先程のは、俺の見間違い……あるいは夢か何か……だったらしい。

 いやあんなリアルな見間違いなんてあるもんか、と思うが実際にいないものはいないのだからそうとしか考えられない。


「すみません、管理人さん。俺の見間違いだった……みたいです……本当にすみません……」


 俺はそう結論付け、申し訳なさそうにそう言うと、おばさんは一瞬キョトンとした後、ガハハハハと笑った。


「何で佐々木くんがそんな申し訳なさそうなのさ。いないならいないで全然いいって。見間違いとか誰にだってあるし。それよりも何か無くなった物が無いか確認しときな」

「はい、ありがとうございます」


 そう言って、ポンポンと肩を優しく叩いた。その優しさが痛い。

 でもありがたかった。

 どうやら俺も、ちょっと疲れているらしい。

 確かにさっき言われた通り、ここ最近まともにご飯など食べていなかった。それが原因かもしれない。

 ……ふぅ、とりあえず一通り確認したが、特に取られているものなどはなかった。


「管理人さん、もう大丈夫です。取られているものなどないみたいですから」

「そう? ならよかった。んじゃ、戸締り気をつけるんだよ」

「はい、迷惑をかけてすみま――あぁぁぁぁ!?」


 いた。

 さっきまでのこの部屋にいた女が、いた。

 それも、


「か、管理人さん! 後ろ後ろ!」


 管理人さんのすぐ後ろに、だ。

 柔和な笑みを浮かべて、俺の方を見ている。


「へっ? どこ?」


 そう言って管理人さんも振り向く。

 そうやって笑っていられるのも今の内だ、と俺は思う。管理人さんの箒のサビになるがいい……! とも思った。

 ところが。


「……佐々木くん? あたしをからかってるのかい? いないけど」


 管理人さんの口からは、そんな言葉が飛び出した。


「なっ、なに言ってるんですか! いるじゃないですか! すぐそこに!」


 思ったままの事を口に出し、その女の方を指さす。管理人さんも俺が指差す方向を向いてくれた。

 だが、管理人さんは怪訝な顔をして、俺の方を見て……。


「……佐々木くん、その……熱でもあるのかい?」


 と言った。

 ……は?

 どうやら、ふざけている様子はない。

 それどころか、俺の事を親身に心配している口ぶりだ。

 ……まさか……俺以外には、見えていないのか……?

 あり得ない事だ、と思う。

 なにしろ19年間生きてきて、そういう心霊体験とか超常現象など、一切起きた事のない身だ。

 当然霊感などもないし、どちらかと言うとそういうもの全般を胡散臭いと思っていた側だというのに。


「か、管理人さん、マジで……見えないんですか……?」


 もう一度、念押しの意を込めて聞くが、


「う、うーん……あたしには……み、見えないかなぁ……」

「あっ……」


 察した。

 どうやら、本当に管理人さんにはあの女が見えないらしい。

 ……マジかよ……。

 とうとう本格的に俺の脳みそはイカれてしまったらしい。

 俺が明日朝イチで病院に行くか、それとも今から病院に行くか思案し始めると、その女がこちらに近づいてきた。


 しかも、宙に浮きながら、管理人さんの体をすり抜けて。


「……………………………………………」


 もはや、驚きすぎて声を出す余裕すらない。 

 ……どうやらこいつは……マジモンらしいな……。

 様々な事が立て続けに起こりすぎて、フリーズしている俺に女は声を掛けてきた。 

 

「健人さん。あの、落ち着いてお話したいのですが、大丈夫です?

あと、すみません、埒が開かないので、思考を読み取らせて頂きました。

私は健人さんが考えるような者ではないですし、健人さんの頭も正常そのものです。

どうか安心してください!」


 男だったら、それだけで脳みそが蕩けてしまうのではないかというくらい魅力的な笑みを浮かべてそう言った。

 ……ああ、と黙って頷く。

 俺はようやくこの事態が理解出来始めて来た。

    

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