出会い話
いつものように掃除時間にブラブラしていた。
あまり人と接触したくないので校庭の裏の林の方へ向かって行った。
本当は校内で履くスリッパのままだと外に出てはいけないらしいのだが誰にも目撃されるつもりはないので気にしない。
林は途中から急な下り坂になっており危ない様子。
坂になっていないギリギリのところで座ることにした。
しかし掃除時間はあとまだ12分も残っている。
一人で過ごす時間としては長すぎる。
だけど,この時間を一人でボーっとして過ごそうと思う。
人にかかわると掃除しなきゃいけない気がするし。
ザクッザクッ
足音が近づくのが聞こえてくる。
これは・・・まずい。
「なーにやってんだお前?」
先生?
ヤバい,こんなとこで見つかったら反省文に違いない!
なんて書こう,掃除サボってすみませんでした?
ああこれじゃ自分の罪を暴露するだけじゃねーか!
でももうバレてるわけだから逃げたらもっとめんどくさいことになる。
意を決して冷静に謝ることにした。
くそぅ,スリッパくらい脱いでくるんだった。
俺は狡賢いのかもしれない。
瞬間的に言い訳を思いついた。
これは最低の言い訳の部類に入るだろうが・・・。
思いつめていたことにしよう。
元々友達が少ない俺だからこそありうる。
友達関係に悩んでいたことにするんだ。
そう決めて見上げるとそこにいたのは・・・
***
「キミ,特進の陸君だろ?」
「そうです」
「こんなとこで何やってたんだ」
「ちょっと思いつめていたんです」
「それで掃除をサボっていいとでも?」
「ごめんなさい」
「ボクに見つかったからまだラッキーだったけど」
「・・・」
「生活指導の先生近くにいるんだよ?」
「マジっすか」
「ここならまあ見つからないけどね,危ないとこだし」
目の前にいたのは先生ではなく女の子だった。
見た目女の子っぽいのにボクとか言ってるから中身男の子かもしれない。
でも制服は女子生徒用のものなので体は女の子に違いない。
差し詰め,男の娘の逆バージョンか。
「キミ今失礼なこと考えてなかったかい?」
「いえ」
思っていることが顔に出ていたか。
しまったな。
俺のことを知っていることと態度から同学年以上だと思われる。
なんとなく年上には思えないけれど。
「サボっていたこと,内緒にしてあげるよ」
「あ,ありがとうございます」
「素直でよろしい」
彼女は笑っている。
機嫌がいいのだろうか。
名前ぐらい聞いておくべきだろうかとは思うが名前を聞くのが苦手だ。
困ったことにこういう時に口下手なんだ。
「そうだ。陸君って神守サンと仲いい?」
・・・?
「や,全然よくないです」
「そうか。じゃあいいや」
どういう意味だ。
神守さんに何か用事でもあったのだろうか。
「んじゃさ。陸君って神守サンのこと好きか?」
・・・ハァ?
どういう質問だそりゃ。
俺にそんな噂でもあるのか?
「そんなことないですけどどうして」
「ならいいんだ」
こっちの話聞けよ。
食い気味に言われたもんだからちょっとムッとくる。
何がいいんだよ。
「俺にそういう噂でもあるんすか」
「いや?聞いたことないな」
この反応にさらにカチンときた。
じゃあなんで聞いたんだよ!
この,おとこおんな!
男がみんなああいうのが好きだと思うなよ!
「思っていいことと悪いことがあるよね」
今のはどういう意味だ。
おとこおんなっつったことか?
え,でも口に出してねーじゃん。
もしかして思ってることほとんどバレてたりするのか?
「俺の思ってることわかってるつもりですか?」
「なんとなくね」
なんだとこの野郎。
んじゃ今から俺が思うことを読んで見やがれ。
と,そこで自分の中で怒り状態でも変態視点を持ち合わせてることに驚く。
有効に今活用することにしよう。
もし相手が本当に俺の考えていることがわかるとしたら,俺のしていることは明らかなセクシャルハラスメントである。
「んじゃ今俺が思ってることわかりますか?」
「・・・陸君ってスケベだね」
まだ完全にイメージしていない時点だった。
ある意味よかったのかもしれない。
普段はここまで露骨な変態ではないと思う。
何かの弾みでこうなってしまった。
というか行動に出してないし,口にも出してないから法的にはセーフだ,よな。
女子に対して俺はいったい何をしているんだ。
あ,女子じゃないか。
「こうさせるほうが悪いです」
「犯罪者の言い訳かな?」
「何も犯罪は犯していません。というか人の考えてること読むほうが犯罪に近いんじゃ」
そうだ。
エロいこと考えるのが男ってものなのにそれを読まれたら個人情報の問題になりそうじゃないか。
そう思うと俺は急に強気になれた。
てか人の考えていることがわかるってどういうことだよ。
「ただ単にキミの考えそうなことをなんとなく言い当てれただけだよ」
人の考えてることを完璧に読める人間なんていない。
他人の100%思想を読むなんてできっこないのだ。
この間自分がプレイしたゲームのキャラクターはそうだったが,現実世界にこのタイプの人間は存在しない・・・と思う。
だって非科学的すぎる。
どこをどう化学反応したらこうなるんだ。
じゃあこの人がしたのは全て偶然か?
しかし何か違和感がある。
何かおかしい。
頭に思い描いただけでこの人は確かに反応していた。
顔や態度には出していないのに。
どういうことなんだ・・・
「ありがとう陸君。楽しかったよ,じゃあね」
気がつけばもう掃除は終わる時間になっていた。
不思議なおとこおんなと出会った掃除時間。
黙ってればまぁ,ちっとはかわいい女の子だったかもしれない。
***
教室に戻ってすぐに俺はこの学校の人物に詳しそうなモブ男A君のところへ言った。
こいつの名前はちょこちょこ耳に入るのだが5分もしたらもう忘れてしまう。
俺の記憶障害は結構な重症のようだ。
「なぁ,この学校の女子で自分のことボクって言うやつ知ってる?」
とりあえずあの,おとこおんなの名前と学年を調べようと思っていた。
「学校全体じゃわからんけどうちの学年だけだったら一人心当たりがあるよ」
「マジか」
やっぱりこいつは頼りになる。
同じクラスのモブ男A君。
俺は君のこと忘れない。
「何,陸ってボクっ子が好みなの?」
「違うけど,そういうやつとさっき会ったから」
名前は一生覚えないかもしれないけどな。
すまんなE君。アレAだっけ。
「文系のクラスの早月だと思う。早月小春」
なるほど同い年だったか。
敬語なんて使うんじゃなかった。
あいつのどこにも敬うところなんてありゃしなかったのに。
「どんな奴かわかる?」
「んーとね,男っぽい」
やっぱりか。
見た目だけならどっちかというと女の子っぽいのに。
「そいつ人の考え読めるとか聞いたことは?」
「ないけど・・・」
それだけで満足だった。
別にこれから接触しようとか思ってはいないが,もし次に会うことがあったら何かされたとは思ってないが仕返ししたい気分だった。
なんかやられっぱなしみたいで俺の気分がよくない。
***
部活に行こうと思っていた矢先,教室で意外な人たちに捕まった。
モブ女A,B,Cらだ。
「ねー陸君,ちょっとだけ勉強教えてくれない?」
保健体育のだったら。
と男子にしか通じない下ネタを頭に浮かべる。
おとこおんながいたら危ないとこだったかもしれない。
「俺部活あるから・・・」
「一問でいいからお願い!」
かわいいと言えるのはモブ女Bだけか。
といってもそのモブ女Bもそんなにタイプではない。
もしかすると俺にとってかわいくないだけで世間ではかわいいといわれるのかもしれないが。
「何の問題?」
「数学のこれなんだけど」
見てみると3分もいらないような問題である。
この時間なら先生に聞けばいいじゃないか。
何故に俺。
ちゃちゃっと解いて解き方と合わせて丁寧に汚い字で解説を書く。
「ほい,これだけ」
「ありがとう陸君」
早く部活に行かないとアップに間に合わず練習メニューができなくなる。
時間の都合はわかっているが気になることがある。
「何で俺だったの?」
「今日神守さん帰っちゃって。いつも神守さんが教えてくれるんだけどね,今日は用事があったらしいから」
俺も俺の中では大切な部活という用事があってだな。
「それで,陸君はほら,英語とか数学の授業でよく先生に聞かれても答えられているから・・・」
うちのアンポンタン学校の頭では「わかりません」が定番だからな。
答える俺は珍しいタイプか。
自ら挙手とか発言は絶対しないんだけどな。
「そか。んじゃ申し訳ないが部活行ってくるわ」
本当は女子たちはまだ聞きたい問題があるのだろう。
態度と,付箋のしてあるページからなんとなくそう思う。
それでも俺にとって部活の方が大事な用事だった。
それにしても神守さん,結構頼られているものである。
勉強を教えられるほどできるのに授業中回答しないあたりよくわからないのだけれど。
とにかく悪い人じゃないのはわかった。
性格はよくわからないけど。
彼女は勉強を教えるために放課後の教室にいることが多いのだろうか。
人に教えるためだけにわざわざ貴重な青春の時間を割くなんてよほどの善人なのだろうか。
俺も同じ穴のムジナという気がしないでもないけど。