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遅刻話

「完全に遅刻かなこりゃ」


只今朝の8時30分。

小テストの開始時刻である。


うちの高校では毎朝始業前に小テストが実施されている。

俺は,今学校の駐輪場で駐輪し終わったばかりであった。

陸上部で鍛えた足を活かして全力で教室まで駆ける。

途中で生活指導の先生がいたが話しかけられないくらいの速度で俺は教室を目指した。


ガラガラッ


教室に入るとみんな必死に15分間の小テストに取り組んでいた。

窓際にある自分の席に急いで付き,小テストの答えを今できる限りの最速で書き込み始めた。


***


「はい,隣の人の答え合わせをして後ろから小テストを集めてくださーい」


ちょうど最後の問題が終わった直後だった。

かなり心臓がバクバクしている。

これは走って呼吸が荒くなっているのが関係しているがそれだけじゃない。

とても焦っていた。

間に合わないと思っていたのだ。


適当に隣の子の小テストの答え合わせをして紙きれを前に渡す。

隣の男の子は10点中5点。


ようやく一息つけるというところで水谷が楽しそうな顔で近付いてきた。


「おい陸,いつものことだけどお前遅刻しすぎ」


いつものこと言われたらいつものことなので反論はできない。

俺は高1の時から毎朝遅刻ギリギリ・・・というか遅刻してくるのが日課になっていた。


「これが俺の精一杯なんだよ」


「どこがだよ」


笑いながら水谷は言う。

どんだけ先生に言われても俺の遅刻癖は治ることはなかった。

といっても朝一の授業前の連絡の時間に遅れることは一度だってなかったし,小テストも今のところすべてやっている。

遅刻といってもそんな酷い遅刻ではないのだ。

一限には必ず間に合っているし。


「俺のは成績に何も影響しない遅刻だからいいんだよ」


「いや,その理屈はおかしい」


水谷の言うこの何でもないようなフレーズもパソコン上だと「いや、そのりくつはおかしい」と書かれていたに違いない。

実はこの言葉もネットで得た知識からの用語だったりする。


「そういえば陸,お前昨日水川さんに告白したの?」


「ぶっ!!!!」


唐突だった。

大きい声で言うなよ馬鹿。


「んなはずねーだろ!」


絶対後輩の一人が連絡したに違いない。

アイツら覚えてろよ・・・。


「なんだつまんねー」


つまらなくて申し訳ないな!

俺は周りにこの会話が聞かれてないか様子を見る。

なんとか大丈夫そうだった。

生真面目な生徒たちは小テストの問題について語り合ったりしていた。


「おい水谷,次の授業五目並べやろうぜ」


昨日のことを説明するのもめんどくさくなって俺は水谷の話題をそらす。


「・・・あー,いいよ」


こいつも恋話が好きなんだから困る困る。

なんだって一々報告せにゃならんのだ。

察しが悪くないのはいいとこだけど。


***


英語の授業中,五目並べをしながら俺は神守さんを見ていた。

不思議な子である。

噂ではお嬢様,ということらしいが。

お嬢様って普通授業中に抜け出さないだろ。

てかみんな気が付いてないみたいだったし。

先生ですら黙認状態なのはどうしてだ。


一体どういう子なんだろう。

気になって仕方がなかった。

気になっていても普段自分から声すらかけられないのだが。


あの時は衝動で,たぶん珍しいものみたさかなんかで駆けよってしまった。

自分があんなことするっていうのも珍しかった。

目に見えて成績が悪くなりそうなことは極力避けている俺なのに。


「おい陸,早くしろよ・・・俺三つくったからな」


ボーっとしていると水谷に次の手を早く打てとせがまれた。

意外とこの局面も難しいんだよ馬鹿が。

と,言い訳してみる。


「ほい」


どうせ三止める手段が今のところ2パターンしかなかったので考えずに打って渡した。

深く考えてはいないが大丈夫だろう。

まだ始って間もないうちは勝負を決める手が少なかったりするものだ。


自分の手元に五目並べの紙がないのだから授業の様子をチェック。

すると次は神守さんが先生にあてられる番で,答えを発言するようであった。

大したことじゃないはずなのに神守さんの答えを気にする俺。


「じゃあ神守さん,ここの答えはなんだと思いますか」


「わかりません」


即答だった。

あまりに速すぎてビックリした。

少しは考えろよ。


ここで神守さんへの興味が少し削がれる。

もしかしてあんな賢そうな面しておバカさんなのか?

俺だったらこの程度の問題楽勝だ。


「じゃあ次の人はわかりますか」


先生が次の人へとどんどんあてていく。

誰か知らないがこの人なら解けるだろう。

俺はクラスメイト約40人のうち5人くらいしか名前を覚えていないのであった。


「わかりません」


なんだこいつもわからないのか。

でもここまではよくある風景だった。

偏差値50を切ってる県内下から2番目の進学校はこんなもんなのかもしれない。


「じゃあ次の人」


「わかりません」


お前ら少しは頭使え,と思ったがちょっとした英作文なのでもしかしたら難しい問題なのかもしれなかった。

もしかしたら答えを言うのが恥ずかしいのかもしれない。


「次の人」


「わかりません」


ここまできたらもはや言葉もない。

誰かテキトウでいいから答えろよ。


「次」


「わかりません」


水谷が五目並べの紙を俺に渡してきた。

ほほう,こういう手できたか。

しかし俺にはこっちの攻撃手段もあるんだよ・・・!


「じゃあ陸君」


!?

いきなりだった。

先生は何を考えているのだろう。


今まであたっていた奴ら,あててきた法則性が全く違った。

遠くあたりそうもない場所から急に指名されたもんだから驚く。

水谷から五目並べの紙をもらった直後ということもあって俺は焦っていた。


急いで五目の紙を隠して答える。


「えっ・・・と。It has been raining for five days since last Friday.」


「・・・はい,その通りですね」


ちょっと心臓をドキドキさせていた。

元々アガリ症なとこもあって答える時に声が震えることもある。

今は五目並べのことバレてないかのほうのドキドキだったりするけれど。


***


昼飯の時間になった。

弁当を広げて水谷と男二人寂しく弁当を食べ始める。


「なあ水谷,もしかして神守さんて頭弱いのか?」


水谷に聞いてみた。


「俺がそんなこと知るわけないだろ」


そうか,知らないのならしょうがない。

でもあの程度の問題解けそうな顔してるのにな。

表面だけで人を判断する俺なのであった。


すると横から男子が来た。

名前は・・・思い出せない。


「オレも一緒に飯食っていい?」


日本人は勝手に入ってくればいいものをこうやってわざわざ断り入れてくるあたり丁寧だ。

いいに決まっている。

ただ誰かわからないが。


「いーよ,一緒に食おう」


一応許可はするものの名前がわからないのだから名前を呼べない。

いつもこの辺を不便に思う。

顔はわかっても,名前を思い出せないのだからやりづらい。


「神守が頭いいとかどうとかさっき話してなかった?」


モブ男A,これは今俺が名前を付けたのだがこいつを内心こう呼ぶことに決めた。

A君は俺と水谷の会話を聞いてやってきたらしい。

俺は真っ先に食いつく。


「そうそう,あの人って見た目勉強できそうじゃん」


人間見た目と中身で差はあっても普通だ。

やたら不良っぽい外見していて口が悪いのに中身臆病で優しいT先輩みたいなのもいる。

それでも神守さんはそれじゃ気に食わなかった。


「できるよ」


A君はさも当たり前かのように言った。

じゃあさっきの授業のアレはなんだったんだ。


「だって神守ってうちの学校のトップじゃん」


どういうことだ。

うちの学校のトップ?

だったらうちのトップはあの問題すら解けないということか?


「神守ってさ,さっきみたいに解ける問題でも何故か答えないんだよ」


よくある話なのかもしれない。

めんどくさくて答えないとか。

俺だってたまにやるし。


だがトップならトップらしく堂々と答えればいいじゃないか。

俺が解けるんだからわからないはずもないだろう。

先生ももうちょっと考えてみようか,ぐらい言えばいい。


「で,後から答えていった奴らは神守が答えられないから釣られてわかりませんの連発だ」


ふざけるなと思った。

わかりゃ答えればいいじゃんと。

しかしよくよく考えるとそれはそれで授業が延びて悪くないのか?


A君は俺に様々な情報をくれて食い終わると他の男子たちに混ざっていった。

俺は俺で神守さんの面倒くさがり屋が甚だ疑問だった。

でも何か理由があってしていることなのかもしれない。


例えば,そうだ。

逆に簡単すぎて解く価値も見出せなかったとか。

・・・それにしたって普通に答えればいいじゃないか!


神守さんに一言いってやろうかと思ったが今そんな勇気がないらしく,結局俺は普段通りの生活を送った。

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