部活話
いろんな活動に参加していないとはいったけれど,俺は部活動はしていた。
幽霊部員とか不真面目部員とかじゃなくまともに活動していた。
今のところサボりや休みが一日だってないくらいに。
もちろん練習メニューだって手を抜いていない。
俺は最低限のことは真面目にやる男なのだ。
と掃除すらできない男が言ってみる。
「陸先輩,今日は何するんですか?」
俺は同学年の友達より後輩と仲が良かった。
入部したてほやほやの新入生軍団にはまだ練習内容などよくわかっていなかったりする時期だ。
だから後輩たちは今日も俺にメニューを聞いてくる。
「今日のメニューなど知らん。キャプテンに聞いてくれ。ドリルまではきっといつもと一緒だろ」
俺は俺で無責任でわざと後輩にこんなふうに接していた。
それでも後輩に好かれるのは他に理由があるからなのだが。
「ドリルとか意味がわかりません」
「ドリルって男の股間についてるやん」
この下ネタ発言は後輩たちにどう受け止められるか。
これは初の試みだった。
普段水谷ぐらいとしかまともに下ネタのやり取りしないだけに俺も少し不安だった。
「陸先輩下ネタやめてくださいよ」
だが案外後輩たちの反応は悪くない。
さすが高校男子,こういうのもしっかり楽しめるようだ。
「じゃあ後輩諸君,なんでああいう動きをメニュー前に取り入れるか考えてみろよ」
実を言うと俺も俺でよく意味などわかっていない。
俺は部活内では熱心だが部活外では本を読んだりして精進はしないタイプだった。
だから先生や先輩伝いに聞いているだけで細かいことはよくわからないのだ。
ちなみにドリルというのは練習前の軸づくり,と先生から教わった。
その日の調子を確かめたりしてドリルの量を増やしたり減らしたりするものらしい。
学校によって様々なドリルの方法があり,腿上げなどもこれに含まれる。
「先輩,じゃあドリルがなんで重要なのかだけでも教えてください」
それって答えじゃんとか思うけれどなんせ高校一年生だからしょうがないのかもしれない。
いろんな動きをすることで体を慣らすって意味もあるんだと思うんだけれど。
とりあえず俺は親切に答えてやる。
「バスケは基本が大事!」
「先輩俺が入部したのは陸上部です!」
後輩もこのテンションについていけるくらいノリがいいやつばかりで正直俺は嬉しかった。
今年一年は楽しい年になりそうだ。
***
俺にもまだ一個上の先輩たちはいた。
男の先輩は二人いてキャプテンと情緒不安定先輩の二人だった。
俺が特に仲がいいのは情緒不安定先輩の方。
「おいチ○コ陸!」
そう,こういう発言をするのが情緒不安定先輩の特徴だった。
俺の名前の頭にチ○コだのウ○コだのと先輩の好きな単語をくっつけるのが最近の先輩の流行らしい。
俺は彼をT先輩と呼んでいた。
このTは別に頭文字ではない。
「なんすかT先輩,今メニュー中なんすけど」
100m5本を走るメニューの最中のことだった。
一年生は陸上初心者が多く,まだスパイクを持っていないので先輩等と俺の学年だけでメニューをこなしていた。
一年は先生による別メニュー。
「そんなことは知ってんだよバカ野郎!それより新入部員の女の子可愛くね?」
T先輩はバカ野郎とかが口癖でどんなときでもよくそう言う。
だから彼がバカ野郎と言ってももはや何も感じなくなってしまっている。
「みんな俺のタイプじゃないですね」
「あぁ!?お前何様のつもりだよ!」
そしてこういうことで軽くキレる情緒不安定先輩はおちょくるのがとても楽しかった。
だって何を言っても全然怖くない。
「おいお前ら!メニュー中だろ真剣にやれ!」
キャプテンだ。
まだ彼の方が怖い。
まだ。
「はーい」
適当に返事してメニューをこなす。
どうせあと一本で今日の練習は終わりなのだ。
走り終わってすぐキャプテンが口を開いた。
「おい陸,ところでお前は誰がかわいいと思うんだよ」
俺は知っていた。T先輩よりキャプテンの方がチャラいのを。
そしてこのキャプテンはサボるなサボるなと言いながら自分には甘いのだ。
「うちの学年の子のがかわいいです」
俺は素直に思ってることを口にした。
「そうだよな,お前には幼馴染の杏子ちゃんがいるもんな」
そういう意味ではないのだが・・・。
でも幼馴染の水川杏子は確かにかわいいっちゃかわいかった。
保育園から高校までずっとこれが腐れ縁だといわんでもないくらい同じとこに通ってきた子だ。
うちの学校の中ではかなり上位に入るんじゃないだろうか。
そして彼女は同じ陸上部。
キャプテンはわざとらしく大声で叫び始めた。
「陸が杏子ちゃんのことかわいいってさー!」
「!!!」
ちょっと離れたところにいる杏子がこれに反応している。
マジでカワイソス。
ちなみにこれは本当にかわいそうだ,という意味で使っている。
俺はキャプテンのこうしたところがあまり好きではなかった。
なんというかウザったい。
あとで杏子にちゃんと言っておこう。
誤解されても困る。
T先輩が俺の後ろで何か言っている。
「いいなー!オレも幼馴染の女の子が欲しい!」
先輩だからこういったら誠に失礼だがアホだこの人。
***
実は水谷も陸上部員である。
ただこいつは俺と違ってサボり魔だったりするが。
というわけで水谷は本日部活をしないで帰宅していた。
只今部活が終わってみんなのんびりしているところである。
いつもなら水谷も交えて後輩と談笑でもするところだが。
今日は杏子に一言言おうと思って早めに帰る支度をした。
「杏子,今日は一緒に帰ろうぜ」
そして勘違いさせられるような一言をぶちまける俺。
「先輩イチャイチャするのやめてください!」
「まだしてねーよ!」
「まだってことはするんですか!」
「んじゃもうしねーよ!」
「したことあったんですか!」
「驚くなよ!俺がイチャイチャしたことあってもいいだろ!」
実はしたことなどないけれど。
先輩の威厳を保つために敢えてこう言う。
・・・既に威厳などないものかもしれないが。
「陸先輩彼女いたことあったんですか」
ないけどここは黙って無視することにした。
「おい陸,あんまり遅くまでイチャイチャするんじゃねーぞ」
キャプテンの五月蝿い言葉も無視する。
「いーな陸!うらやましーな!」
T先輩の言葉に至ってはもうどうでもいい。
先輩たちのちょっかいをも聞こえないフリしているとようやく杏子が近づいてきた。
「そ,それじゃ明人,帰ろっか」
なんだか照れてる。
これは勘違いしているかもしれないぞ・・・。
***
杏子と俺の帰り道は途中まで同じだ。
だけど自転車に乗りながらではお互い会話が聞こえづらいので自転車を押しながらの会話になった。
「先輩たちの言うこと気にしないでな」
率直に言いたいことだけを言った。
とりあえずこれだけいえばかなり楽になる。
「あ,う,うん」
杏子は明らかに気にしている風だった。
「あれさ,先輩たちが新入部員の女の子で誰が可愛いって話になって」
面倒くさかったがしょうがないので一から説明することにした。
今日は誰かに会話について説明することが多い日だ。
「新入部員と比べたらうちの学年の女子のがかわいいって言っただけの話なんだよ」
「・・・なんだ,そういうことかー」
ちょっとがっかりした風である。
かわいそうな気もするがそれだけの話だったのである。
別に俺は杏子に気があるわけではない。
それに告白タイムだったら俺はもっとドギマギしている。
「でもでも,杏子のことはかわいいと思うよ」
あんまりに彼女を落ち込ませるのも悪いと思って俺はつい言ってしまった。
俺は決して軽い男ではないが,本当の本当に軽い男ではないと自負しているが,こういうことはサラッと言えるほうだ。
杏子は赤面していた。
でも杏子のことは心底かわいいとは思う。
ただ運動がそこまでできないのは俺の中ではマイナスポイント。
「明人ってそういうことをみんなに言ってるのかな・・・」
「俺女の子とあまり話さねーからみんなには言えないな」
「そっか」
杏子はこういうとこがめんどくさい女ではない。
めんどくさい女は他の子はどう思う?とか聞いてきそうなものだ。
だが杏子は素直で,俺のイメージでは純粋で優しい子なのだ。
イメージ内ですので中身はなんとも言えませんが。
保育園からの付き合いとはいえど会話なんか水谷よりしていない。
幼馴染なのにこの間知り合った水谷以下の会話量なのだ。
まぁ水谷よりはよっぽど中身を知っているつもりでいるけれども。
「明人はさ,新しいクラスにはもう慣れた?」
こうして他愛のない会話で俺の学校生活のきっかけとなる一日は終わっていった。