異次元への移動
「…ここはどこだ?真っ暗じゃないか。おーいおーい誰かいないか!返事してくれー」
……返事は返ってこない。男は今うつ伏せになっていて、なにか狭い空間に挟まれている。
「なんで俺はこんな所にいるんだ?俺はこれまでなにをしてたんだろうか?………んーだめだ思い出せない」
…男は酒を飲みすぎたのかこの変な空間に来る前の記憶が全くない。
「まずこの寝返りも出来ない身動きが取れない状況を抜け出さないとな……」
…男はちょっと体を横に動かしたら簡単にその挟まれている所から抜け出せた
「はぁ良かった、これでなんとか身動きは自由に取れる。…それにしてもなんだこの奇妙な空間は。ちょっと怖いけどこのままじっとしてるわけにもいかないだろう」
男はあたりを探り始めた。携帯の電池も切れていて光がないためはっきりは分からないが、軟らかいクッションのようなものとその上にある窓のようなものを発見した。
「なんだこれはベッドか?ベッドにしては横幅が小さすぎる。ん?でもこの上に丸い輪っかがいっぱいついている。あ、そうかこれはきっとカーテンレールだな。本来ここにカーテンがかかっていてこの細長いベッドを覆っているのだろう。」
……と男はだんだんその空間の様子が付かめてきた。だがまだ自分が置かれている状況は理解出来ていない。「それにしてもなんで俺はここにいるのだろうか。異次元にでも迷い込んだ気分だ。前の方にはドアがある。あのドアを開ければ見た事もない生物がいるかもしれない。今からなにか武器などを作って置いたほうが良いだろう」
男はもっていたハサミでベッドの様な物の表面を切り、怪我をしたときのためのガーゼになるようにした。
またその上にあるガラスを怪我をしないように慎重に割り武器を作った。
また、酸素が薄くなるとイケないと思い、そこら中のガラスは全部割り、空気が通るようにした。
「…ふぅ…これでいろんな武器も出来たし風もとおり涼しくなってきた。こうしてみるとアドベンチャーゲームの主人公になったみたいだ。……おっと、そんな呑気な事いってる暇ではない。明日には見た事もない生物が現れるかもしれないのだ。しかし真っ暗な所で戦うのは分が悪い。異次元でも朝と夜くらいあるんじゃないか?明日になったら夜が開けるかもしれん。今日の所はこの細長いベッドで寝よう。」
男は念のために武器を持ちながら寝る事にした。
〜翌日〜
男は起きたがなにかの足音に気付いた。
「…なにか足音が聞こえる。異次元の生物かもしれない…まともに戦ったら勝てないかもしれん。死んだフリをして襲いかかるしかあるまい。 」
足音はこくこくと近付いてきた…そして男の前で止まった。
「お客さん、お客さん、大丈夫ですか?」
「おらっくらえ!」
男はその生物の肩の部分にブスリとガラスをさした。その生物は倒れた。
「どうだまいったか!」
「な、なにするんですかいきなり!私は駅員です!怪しいものではありません!」「……へ?」
「ここは千葉駅の電車庫ですよ!私は朝の電車内チェックをしていただけです。そしたらあなたが寝ていたから声をおかけしたのですよ!」
……男は今すべてを理解した。自分は前日大量に酒を飲み、寝過ごしてしまった事と、自分が挟まれていたのは異次元ではなく座席の下だった事を。
JRの巡回ミスによる事件だったため恨まれこそしなかったが、駅員の肩は思ったより重症で、ある程度の治療を要した。それに窓を全部割り座席の布を切りまくってしまった。
そう…これから男は恐ろしい生物ではなく恐ろしい賠償金と戦っていかなくてはいけないのである。