第参号
その〝だいじゅさま〟とかいうやつの所に連れて行ってもらっている間、印が説明してくれた。
「大樹様はね、この零咲森の守り神みたいなもん。大きいって書いて、難しい方の樹って書くの。
なんとなく、みんな『様』ってつけて呼んでる。」
「へーえ、大樹様、ねえ…なんだか、怖そう」
「まさか!」
今度は、月太くんが答えてくれた。
「大樹様は、全然怖くなんかないよ!とっても優しくて、物知りなんだ!」
ニコニコ笑いながら月太くんは言うけど、それでもアタシはいまいち緊張を拭いきれない。
…!?
な、なんだか、誰かに、ジーッと見つめられているような…
なんだかもっと怖くなって、印の方をチラリと見る。
「っ、わわわ、ど、どうしたの、印?!」
視線の正体は、印だった!びっくりするなあ、もう…
印は、真剣な眼差しで、アタシをずーっと見てる。
ど、どうしたの?アタシ、なんかおかしい?
「ん、…まあ、おかしいっちゃあ、おかしいねえ。」
印は、普通の顔に戻ると、困った感じでそう言った。
「そ、そんな、アタシのどこが…」
おかしいの?!と、反射的に言いかけて、気付いた。
…アタシ、確かにめちゃめちゃおかしい。
だって、こんな大きな笠被って、手には何故かお豆腐。
…これを「おかしい」と言わずして、一体何だって言うんだろ…
「いや、そうじゃあないの。」
慌てた様子で、印が言う。
「実をいうと、この零咲森にね、既にあんたと似た格好の奴がいるの。」
……え?
「いや、だから、この森に、あんたと似たような…」
「え~~~~~っ?!」
思わず、叫んでしまった。
だって、ありえないもん!
こんなへんてこりんな恰好をしたのがまだいるなんて、ありえない…
「それが、ありえちゃうんだなあ」
いたずらっぽく、月太くんが言った。
そして、とても楽しそうに、説明を始める。
「この零咲森にはねえ、おいらと同じような、異形のもの…つまり妖怪が、たくさん集まりやすいんだ。
そいでね、そのたくさんの妖怪の中に、〝豆腐小僧〟っていう種族のやつがいるの。」
…豆腐小僧って、さっき、印が言ってた…?
「そうそう、それそれ。そいつもね、あんたと同じような、こう、大きな笠被って、お豆腐持ってて…
似たような、っていうかほぼ同じ恰好してるの。」
そうか、それで、さっき、印は「あんた、豆腐小僧の親戚かなにか?」って言ったのか…
「それはいいんだけどさ…」
印が、呟いた。
「…私が知ってる限り、『豆腐小僧』ってのはね、馬鹿で、マヌケで、お人好しな、
そんな妖怪なんだけど――」
へえ、そうなんだ。
「まあね、あんたは、確かに、そんな雰囲気だよ。でも…」
ちょ、ちょっと。何気に失礼な事言わないでよ。
「ああ、ごめん。でもさ、あんた、さっき、私が「零咲森」と「大樹様」の字を説明した時、
ちゃんと理解できたでしょ?」
うん、もちろん。今なら、他の人にも教えられるよ。
「…そこが、おかしいんだよ。」
深刻そうな表情で、印が言った。
…え?どういうこと?
「ほら、さっき印が言ってた、豆腐小僧の性格、もう忘れたの?」
な、なによ、月太くんまで。アタシはまだボケてなんかいません!
「覚えてるって。えっと、豆腐小僧っていうのは、馬鹿で、マヌケで、お人好しで――」
…あれ?なんか、おかしい…
「ね、気づいた?矛盾してるでしょう」
月太くんが言った。た、確かに、おかしい…
「それにね、豆助のヤツは…あ、零咲森の豆腐小僧、『豆助』っていうんだけど…」
そう前置きしてから、印は、零咲森の豆腐小僧、豆助くんについて教えてくれた。
本来、滑稽であるはずの豆腐小僧なのに、豆助くんは、とても暗いらしい。
口数も少なくて、頭がとても良いんだけど、大きな笠を、必要以上に深く被っていて、
絶対外さないから、どんな顔なのかさえも、分からない。
謎が多い妖怪なんだそうだ。
「おいらもねえ、仲良しになりたいんだけど…」
寂しそうに、月太くんが呟いた。
月太くんのこんな顔、初めて見たかも…
「あ、ほら、大樹様が見えてきたよ!」
重い雰囲気を打ち破るかのように、印が大きな声を出す。
印が指差したその先には、とっても大きな、古そうな木――大樹様が、いた。
多分誰も読んでないと思うけど、更新できました!
…これ、どんな話になるのかな…
とか思ってる今日この頃。