第壱号
――むせ返る様な木の匂いがして、我に返った。
見渡してみると、木と、見た事の無い植物ばかりが、あちこちに生えている。
そういえば、アタシは、森の中にいたみたいだ。
じゃあ、アタシは、さっきまで、どこにいたっけ?
ずっと、ここにいたの?
頭の奥の記憶を引っ張り出そうにも、まるで霧がかかってしまったかのように、ぼんやりしていて、思い出せない。
アタシ、誰?
なんか視界が狭いと思っていたら、何故か、頭に大きな笠を被っていたようだ。
くい、と笠を持ち上げてみると、急に視界が開けたので、少し驚く。
自分の着ている物に、注目してみると――。
とても、派手な柄――真っ赤な紅葉柄――の、着物を着ていた。
茶色の帯で、腰の辺りをキュッと締めている。着物と帯の色合いが、とても綺麗。
ふと、地面を見下ろす。
そこには、苔だらけの、ジメジメした土の上に乗っている、自分の足が見えた。
草臥れた、草鞋のような物を履いている。
よく見ると、足の指は、三本しか無かった。
それぞれの指は太く、どれも鋭い爪が生えている。
前までは、アタシの足の指は、確か五本くらいはあったような、無かったような…
どうにも、思い出せない。
あれ。
アタシ、なにか、持ってる?
お盆を、持っている。
その、お盆の上には、真四角の、瑞々しい、
豆腐が、乗っていた。
「――ちょっと、そこの、そこの――」
急に声がしたので、慌てて豆腐から目を離し、声の主を探す。
「ここだよ、ここ――」
漸く、アタシの目が、その声の主を捉えた。
あれは、人間だ。
反射的に、そう思った。
夜空を切り取って貼り付けたような、真っ黒い髪の毛。
余りにも黒いので、少し怖くなった。
「ちょっと、こっちへ来てごらん――」
相変わらず、人間が、アタシに呼びかけてくる。
他にする事も無いから、素直に、人間に従った。
ここから先、アタシの、自由でおかしくて気ままな私生活につき、ご了承下さい。
どうも、星里 天理という者です。
また新しい小説書いちゃいました。
…因みに、「豆腐小娘」なんてふざけた妖怪は、いませんからね?!;;
私が勝手に考えたんですよ?!;;
応援して下さると嬉しいd((殴