表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

結ぶ想い、繋がる心

草を生やす=wを並べて笑いを表現する。

といった表記が度々現れますので苦手な方はご注意ください。

「……気に入ったのか」


ある夜、自室にて陛下に尋ねられました。

何の事だろうと思えば、彼は私の胸元のそれを指差します。

先日、陛下より直々に頂いたブローチを。


そう彼が伺ったのはおそらく、

私が片時も肌身離さず身につけているからでしょう。

他の装飾品を付ける時でも、私はこれを外せないのです。


「はい、とても」


私の言葉に陛下は淡々と返事を。

でも唇がほころんでいるのを見る限り、喜んでいただけているみたい。


陛下の指先がブローチに触れます。

洗練された動作のせいでしょうか。

なぞる手の動きすら芸術品のようです。


「……美しいな」


ふっと陛下が微笑みました。

おそらくブローチに向かっておっしゃっているのでしょうけれど、

私にしてみれば陛下の方がお美しいです!

最早嫌味に聞こえるなぐらいには!


「俺の……ェは」

「え?」


陛下にしては珍しくどもった物言い。

途中がごにょごにょと潰れてしまった発言は私の耳には届きません。

もう一度とお伺いすれば、何でも無いと。

あまり聞かれたくない事なのでしょうか。


悩んでいれば、ブローチに触れていた手が私の顎に。

持ち上げられたなら私はぎゅっと目を瞑ります。

それを見計らって陛下は私に唇を寄せました。


気のせいでしょうか。

最近、口付けをする回数が増えたような。

前は行為の合図を告げるようなものしかなさらなかったのに。

嫌じゃないです、むしろ嬉しいです。ただ心臓に悪いなあと。


一度されるだけで胸が張り裂けそうな程、跳ね上がるのです。

なのに続けて何度も口付けるものですから。

今日も離れたと思えば、すぐに深いものに移って。

頬が熱い。無意識に陛下の服へ指が縋ります。


口付けが終わると同時、抱きしめられました。

私に負けないぐらい、陛下の体も熱いです。

ああ、このまま溶けて一つになってしまえばいい。


(そしたら)


もうこの報われぬ恋で胸を痛めずに済むのに。




と、前述のよう、

どう見てもバカップルです、本当にありがt(ry

にも関わらず、陛下と王妃の勘違いはまだ続いておりました。


あのブローチの一件があってからというもの、

陛下はよりアプローチするものの、所詮はヘタレです。

「好き」と肝心な一言が言えない為、全力ですれ違っておりました。


王妃も度の過ぎた鈍感だった故に

『嫌われていないが好かれてもいない』と思い込んでいるのです。

謙虚なのは悪い事ではありませんが、

いったい彼女にとって寵姫の認識はどうなっているのでしょうか?

彼女は世界中の寵姫が嫉妬なレベルで愛されているというのに。


見かねた宰相がやんわりと陛下に

「己の気持ちに正直になってみてはいかがでしょう?」

と進言したものの、


「己の身勝手な感情で王妃を戸惑わせたくない」

澄んだ瞳で返され、

『なら我々の焦りも感じてください……』

とさめざめ嘆きつつ、宰相は撃沈したのでした。


ただ確実に想いは育んでいるようで。

『まあどうにかなるだろう』と、

心配する者達は成り行きに任せる事に。

この国の民は基本に楽観的なのでした。


ただここ最近、

この平和なラドゥガに不穏な噂が流れ始めていたのです。




「なあ、お前さ、あの噂聞いたか?」

「あの噂って?」


お城で門番をする兵士AとBがこっそり話あっておりました。

え?何で名前がないのか?残念ながら脇役ですから。

と作者の戯れ言は置いといて、

二人の会話を盗聴げふんげふん……聞き耳を立てましょう。


「陛下が側室を迎えるって」


さあーて早速とんでもない発言をぶちかましてくれました。

王宮恋愛ファンタジーにありがちな『側室の登場』

恋愛物の王道というべきライバルですね。

同時に二人の仲を引き裂く障害にもなるのですが。


この噂を流した犯人は言うまでもないでしょう。

前回登場したツルッパゲもといTHEエロスこと大臣です。

ただまだ陛下の想い人がわからない(※リーチェです)段階だったので、

陛下や王妃の耳に届かぬよう、ただ多くの人に広まるよう、

有能な彼は暗躍しておりました。

その噂に対して、人々はこう語ります。


「ねwえwよwwwwww」

「だよなwwwwwwww」


完全否定、そして大爆笑。

人々の間では単なる笑い話で終わっています。

兵士らに至っては盛大に草を生やしてました。田植え職人も真っ青です。

腹を抱えてひーひー言っていた二人ですが、

息を整え語り合い始めました。


「側室とかないわーホントないわー。

 だってさー王妃様、見るからに愛されてるもん。

 見てるだけで火傷しそうだよ」

「あんまりに熱々なもんだから、

 もうこの国冬来ねえんじゃねって思ったわ、俺。

 他国でも知れ渡ってるもんな、二人の睦まじさ。

 アレで両片思いってのがマジ信じられねえ、なんなのあのピュアピュア。

 純愛が裸足で逃げ出すじれったさ……」

「事実、あの二人が主人公の恋愛小説できてるんだよなー。

 嫁さんから聞いた話では違う作者で五つ位出てたよ…。

 もう生きる伝説だよ、あの人達」

「そういえば伝説っていえばよ、

 この間、王妃様の祖国が狙われた時のあれじゃね?」

「ああー陛下が一人で乗り込んで、

 相手の王族に土下座させたヤツ?」

「そうそうそれ、アレさー、その国でめっちゃくちゃ話題になったんだよ。

 麗しき蒼の王があの暴君王子を跪かせたって。

 また台詞が決まる決まる、さすが陛下」

「跪くどころか土下座だけどな。王子(笑)涙目ww

 『その醜い顔を地に付けて詫びろ』だっけ?

 陛下に言われたら俺でも泣くわ」

「アホだよなーその王子(笑)も。

 王妃様が溺愛されてるのも、

 陛下が一夜で大陸制覇できる魔力の持ち主なのも知ってるだろうに。

 王妃様の事になると陛下マジ怖いもん、そんだけ愛してらっしゃるからだけど」


などと一向に人々は噂を否定し、

陛下達のラッブラブぶりについて話題を変えるのでした。

それを見て、大臣は悔しさの余りハンカチを噛むばかり。

こうなったらと彼はついに奥の手を使う事にしました。




今の時間帯、陛下は執務を行っています、

だから私は侍女達とお茶を楽しんでおりました。


「あの、王妃様すみません……。

 王妃様にお会いしたいとおっしゃる方が」


入ってきたもう一人の侍女がおずおず切り出します。

他国の姫だった私には来客は殆ど訪れません。

兄や父がやってくる日とはまだ遠いはず。

お相手を聞いてみれば伯爵令嬢……大臣の娘さんとの事。

これは丁重にお迎えしなければと侍女に招く準備を促しました。



お招きし、無事に自己紹介が終わった所でお茶に付く。

伯爵令嬢ことアマンダ様はとても美しい方だった。

緩く波打つ金の髪、湖水色の瞳、手足もすらーっと長くて。

きりっとした顔立ちや身長からすると、

きっと陛下の隣に立ったら、私と違ってとてもお似合いだろうなと。

思わず顔を俯けてしまいました。


「……負けましたわ、王妃様」

「え?」


カップを置いて、彼女が私に言い放ちます。

何か勝負していたのですか?

トランプもチェスもしていないのですが…。


「陛下が溺愛なさる方だと聞いていたから、

 どれ程の方と思えば……まさかここまで愛らしい方だとは。

 陛下も夢中になるはずですわ。

 恋愛小説もあながち嘘ではないのですね」


彼女の発言に私は何一つついて行く事ができていないのでした。

何だか接続語が不適切なような気がします。

そこは普通罵倒がくるのではないでしょうか。


「ふわふわの紅髪、くりっとした瞳、もちもちの肌、

 そして何よりこの小動物のような愛くるしい大きさ!

 くっ、完敗ですわ……! 

 小説でも一番お気に入りのキャラでしたけれど、

 実物を見てもっとファンになりましたわ、サインください」

「あ、ありがとうございます……?」


たぶん褒めて下さっているようなので、

戸惑いながらも色紙を受け取りました。

小説とは何の事でしょうか。

そして私は何故うっかりサインを渡しているのでしょう。

更にどうしてそれに彼女は嬉しそうなのですか。


「サインも頂いた事ですし、

 本題の方、お話させていただきますわ」


はたまた突然、彼女が毅然とした態度となる。

つられて私も背筋を伸ばして、きちんとした姿勢に。

精一杯体勢を保ちながら彼女の言葉を待つ。


「陛下が私を側室に娶るというお話です」

「……え?」


側室、その一言に血の気が引いていく。

寒くもないのに指先が震えて、かちかちと持ったカップが音を立てた。

呼吸をする度、喉の奥が潰されるように痛む。

心臓が軋む感覚。目の前が真っ暗になった。


「まあ勝手に父が言っているだけで、

 私は陛下みたいにカッコイイ殿方より可愛らしい方が好みですの。

 陛下も王妃様にメッロメロですしね。


 それに先程申し上げました通り、

 私は『ラドゥガ国恋愛譚』の大ファンです。

 陛下×王妃に日々悶えておりますわ。

 お二方が仲睦まじくしていただいている話を聞く度、

 友人と共に夜通し語り合ってますの!


 だから物語を盛り上げる当て馬や相談役は大歓迎ですけれど、

 邪魔する気は全くありません。

 そんな事をして新刊が出なくなったら私悲しみのあまり、

 お父様の残り少ない髪の毛を全部千切ってしまいますわ。


 (以下ひたすら二人への応援が続く)


 という訳で、

 私は二人の障害をぜひ取り除くお手伝いをいたしますから、

 どうか末永く慈しんで下さいませ。

 

 ……って王妃様、どうしましたの?!お顔が真っ青ですわ!」


肩を掴まれ、彷徨っていた意識が戻ってくる。

私はそんなに顔色が悪いのか。彼女も血色を無くしている。

それをどこか私は他人事のように眺めていた。

冷や水を被せられたように身震いが止まらない。

彼女が侍女を大慌てで呼ぶところで私は気を失った。




頭を撫でる手。その大きな掌が誰か、私は知っている。

もう目覚めてはいたけれど、その感覚があまりに心地良くて。

私はそのまま寝たふりを続ける。


「……リーチェ」


やっぱり陛下だ。その呼び声に枕元の人を確定する。

体の横にあった手を取られ、ぎゅっと強く握られた。

何故かその手はやけに震えていて。

どうしたんだろうか。気になってゆっくり目を開く。


「っ、具合は?!」


目覚めるや否や問いかけられる。

その気迫に若干怯えながらも大丈夫です、と。

ただその声は細々と頼り気無い、説得力皆無だ。


「何があったのだ、どこか痛むのか?」


おろおろと陛下が目に見えるほど狼狽えていた。

不謹慎だと思う。けれど私が原因なのだとひどく嬉しくなった。

陛下のお心が私によって動かされているのだと。


「胸が痛い、です」


彼を見つめて言い放つ。

すぐさま医者を呼ぼうとする彼を制止した。

リーチェ?と伸びてきた手を握りしめる。


「……陛下でないと、治せません」

「俺が、何を」

「私がラドゥガの王妃である以上、

 国の繁栄を、陛下のことを一番に考えるべき事は存じております」


でも、と言い訳がましく私は拙い言葉を口にする。

陛下を困らせたくない。けれど、抑えられなかった。

王妃ではなく、リーチェそのものの気持ちを。


「……側妃を迎えないでください」

「え?」

「陛下が、アルが、好きなんです……!

 お願いです、どうか他の方を好きにならないで。

 私、何でもします、だから、だからっ」


抱きついて、必死に訴える。

みっともないことは分かっていました。

だけども抑えられない。この気持ちを隠す真似ができなかった。


「……側妃とは何の事だ」

「え、あの、アマンダ様を迎えられるんですよね?」

「何故そんな事に……ああ、またあの狸じじいか」


陛下から下った思わぬ問い。

誤魔化されているのかと思えば本気で覚えが無いようだった。

それにさっき聞いた話で返せば、

陛下が物凄い形相で舌打ちしてるんですが。

その鬼神のような顔につい離れて隅の方で怯えてしまいました。


そんな私に気付いた陛下はいつもの表情に戻ります。

急いで涙目を拭っていれば、ぎしりと寝台が軋みました。

私の体を包む腕。陛下の匂い、温もりが伝わってきました。


「それより……先程の言葉は誠か?」

「?」

「俺を好きだと」


勢い任せに告げたはいいが後の事を全く考えてなかった。

顔が髪色と同じになってくる。

こんな顔を見られたくなくて陛下の胸に埋めた。


「……本当です」


くぐもった声で返せば、頬を陛下の手が添えられる。

太陽にも負けない位、紅く熱くなった顔を上向かされた。

そこにあったのは機嫌を損ねた表情でも困り顔でもなく。


「俺も愛してる、リーチェ」


優しい微笑みで。

思わず見とれていれば唇が重ねられる。

瞑っていた瞳をうっすらと開く。

陛下の海のような髪色と同じ睫が揺れて、

細く見せた瞳と目があった。

合わせた肌から、服越しでも伝わってしまいそうなぐらい胸が高鳴る。

腰を引き寄せられ、甘い口付けがより深くなった。


「一目見た時から、俺は貴方の虜だ」

「陛下」

「名前で呼んでくれ、リーチェ」

「……アル」

「良い子だ」


耳元で何度も愛を囁かれます。

私もできる限り答えますが、どうしても恥じらいが出てきて。

代わりに陛下の背に腕を回しました。


「俺が愛する人はリーチェだけだ」

「私がお慕いするのもアルだけです」


これをきっかけに、

無口だと思っていた陛下が実は照れ屋さんなだけとか、

陛下も娘がいっぱい欲しいと思っている事や、

……実はずっと両思いだったと知ることになるのでした。




「大臣、お前か、あの噂を流したのは」


リーチェと結ばれご機嫌だったが、これとそれは別だ。

後日、王座にてとびっきりの笑顔で聞いてやれば、

周囲の者達が一斉に固まった。

名指しされた大臣に至っては泡を吹きかねない勢いで怯えている。

それもそうだろう。何たって俺の手には大剣が握られているのだから。


「いや、その私は」

「言い訳はいらぬ、したかどうかだ」

「……や、やりました」

「ほう、そうか」


もはや青を通り越し、顔色が緑になっている大臣。

だが許さない、絶対にだ。


ひとまず剣をしまう。

いつの間にか、大臣は正座していた。

自分の状況を弁えているのは好ましい。


「正直さに免じて選ばせてやろう。

 首が飛ぶのと頸を刎ねるのどちらがいい?」

「す、すみません、陛下、それだけは!」

「選べ」

「すみませんすみませんすみません!!」


床にぶつける勢いで頭を下げる大臣。

結局未遂と言う事もあり、

周りの仲裁が入って今回はお咎め無しに。

これで一応懲りただろう。次の際は容赦しないが。



「リーチェ、セラ」

「おかえりなさいませ、アル」


執務を終え、いつものように自室へ戻る。

ちょうどあやすところだったらしい。

リーチェがセラを抱えていた。


「随分大きくなったな、セラ」


リーチェからセラを受け取り、高い高いと。

きゃっきゃと嬉しそうにセラは笑う。

素直な良い子だ、さすがリーチェの子。


「日々愛らしさが増してくる、父親としては心配だ」

「ふふ、アルは心配性ですね」


のほほんとリーチェが微笑む。

セラも可愛いがやはりリーチェも可愛い。

嫁バカ娘バカ?上等だ。何とでも言え。


「どうしましたか?」


あまりに凝視していたせいか。

不思議そうにリーチェが俺を見つめてくる。

上目遣いなのは気付いていないんだろう。

無意識だろうと俺を誘うには十分だ。


たまらなくなって口付ければ、驚いてはいたものの、

俺の服に縋っていつものように受け入れてくれる。

ちゃんと娘の目は覆っているから問題あるまい。


「……幸せだな」

「……幸せですね」


この唇を離すのは名残惜しいが、

娘を抱きかかえているから口付けはそれなりにして。

こつんと額を合わせる。

ふと思った事を口にすれば、彼女もすぐに答えてくれた。


「これからもたくさん幸せになりましょうね」

「……ああ」


もう一度軽くキスをして、

俺は彼女で愛し合えた僥倖を噛みしめた。




以上、陛下と王妃の恋愛譚はどうでしたか。

ラドゥガで最も有名な話だけあって、

何ともありふれた平凡なお話だったでしょう?


この後の二人は言うまでも幸せになって、

後々の王女様の物語に続いていく訳ですが。


長々とお付き合い下さり、

ありがとうございましたとお伝えしようにも、

こういったお話には蛇足が付きものです。

どうやら二人の物語も例外ではなく……。

良ければもう少し、お付き合い下さいませ。

若い頃の陛下と王妃の物語はこれでおしまい。

一年以上かかってようやく恋は叶ったのでした。

次話は五人の王女が舞台になってからの二人のお話。

完全な蛇足となりますのでお好みで閲覧下さいませ。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ