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王妃様は陛下に恋してる

『謳われぬ末姫』『騎士姫の初恋』と微妙にリンクしてますが、

見て無くてもたぶん行けるかと思います。

あと主人公が子持ちです。恋愛対象との子供です。

それでもよければ。少しでも楽しんでいただけますように。

さてさて末姫様に続き、一の姫のお話を語らせていただきましたが、

次は少し寄り道にお付き合い下さいませ。

今回は王様と王妃様のお話を。


今でこそ理想を通り越して、娘達に呆れた視線を送られるほど、

仲睦まじい二人ですが、実は政略結婚でありました。

しかも言い方は悪いですが、

王様が王妃様の祖国に対し弱みに付け込んだ、という何とも乱暴な。


というと何だかロマンチックな展開が始まりそうですが、

残念ながらごくごく普通の、

ありふれた物語を始めるといたしましょう。




「子を産め。それ以外、貴方に望む気は無い」


初めて陛下と夜を過ごす直前、

私はそう彼より告げられました。


小国の娘である私にはそれぐらいしか価値がないのでしょう。

私はまだ十代の健やかな娘で、家は多産系でしたから。

でもそれだけならもっと彼に釣り合う方の中でも居たはずです。


それなのに彼は何故、益どころか損だけの婚姻を選んだのか。

私には陛下のお心がわかりません。知りえる日も来る訳がない。

自分の身分を考えれば、聞くのはあまりにおこがましいから。

だから私はただ与えられた役に答える為、彼の唇を受け入れました。




あれから1年、私と彼の間には王女が生まれました。

私はとても嬉しかったです、でも同時に申し訳無くもありました。

彼は早く世継ぎが欲しかったのでしょう。

なんせ、毎夜私を抱いていた位ですから。

でも私が産んだのは王女。彼の期待には応えられなかった。


私の祖国は狭く弱い、存在が危ぶまれるような小国でした。

王家や貴族関係無く節約に励みましたが、

不作が続き、財政は傾く一方。

もはや限界かと思われたその時でした。


ラドゥガ、この大陸で最大の勢力を誇る大国から縁談が来たのは。

それも妾ではなく正妃として。

手紙には姫をもらい受けると記されていましたが、祖国の姫は私だけです。

私が王妃となれば、祖国に援助すると約束されていました。

祖国にとってはこれ以上の救いの手は無いでしょう。


でも父や母は無理に嫁ぐ事はないと言ってくださいました。

けれど私は食料を食いつぶすだけの自分が嫌で、

謹んでその話に乗り、今、ラドゥガの王妃として生きています。



噂では聞いておりましたが、

陛下はぞっとするような美しい顔立ちの方で。

高い身長のせいか、とても威圧感がありました。

無駄話がお嫌いなのでしょう、その寡黙さも私の恐怖心を煽り。

加えてあの命が下されたのです。

歩み寄る気がないと知り、尚更恐ろしく感じました。


最初、失礼ながら、

私は陛下が怖くて怖くて仕方ありませんでした。

理由は先程述べたとおりです。

でも今では心よりお慕いしているのです。


仮にも私が王妃だからなのでしょうか。

言葉はありません。名も呼んでくれません。

でも彼は泣いてばかりの私に、

いつも優しくしてくださいました。

大切にされていると、自分でもひしひし感じるのです。

気付けば、彼に惹かれる私がいました。




「……セラフィナール」


娘のまあるい薔薇色の頬を優しく撫でます。

くすぐったかったのでしょうか、

陛下と同じ長い青色のまつげがふるりと震えました。


まだ赤子ですが、陛下によく似ている事はわかります。

きっと大きくなったら、とても美しい女の子になるのでしょう。

これだけ綺麗で、その上、愛しい人が授けてくれた子なのです。

愛さずに、慈しまずにはいられない。


王子でなく、陛下はさぞかしがっかりしてらっしゃるはずです。

でも彼は娘であるセラを可愛がってくださっています。

彼の乳母に聞いたところ、陛下は子供好きとの事。

娘でこれなら、もし王子を産んだ時は、

どれほど喜んでいただけるのでしょうか。


「……」


それにしても本当に可愛らしい。

小さな手に指を当てれば、娘はきゅうと握り返します。

思わず私の中の何かが湧き上がるのがわかりました。

これが母性というものなのでしょうか。


「……どうせならいっぱい欲しいなあ、赤ちゃん」


本能赴くまま、うっかり口から漏らした時でした。

ゴン、と何かがぶつかるような音。

思わず体が跳ねます。残念な事に侍女や兵士方は部屋の外。

音が聞こえたのも扉の向こうです。


何か落としたのでしょうか。

気のせいか、外が騒がしい気がします。

どうもへいかーへいかー!と叫んでいるような……

もしかして陛下の身に何かあったのでしょうか。


確かめようにも私は固まってしまいました。

動けません。硬直してどれほど経ったでしょうか。

扉がゆっくりと開かれました。



「陛下……あの、どうなさったのですか」

「何がだ」


執務を終え、足を運んでくださったのだろう。

ならばまず最初に労りの言葉を告げるべき。

でもその異様な顔に私はつい危ぶんでしまった。


顔が真っ赤なのだ、特におでこ。

腫れて膨らんだ額に手を伸ばす。


「こぶになってます……」


顔面強打でもしたんでしょうか。

私も祖国にいた頃はよく顔から転んで、

あんな風に痛々しい状態になったものだけど…。

陛下みたいに耳まではさすがになかったです。


「へ、陛下?」


さすっていた手を強く掴まれました。

そのままずるずる引かれ、

背にはやわらかな寝台の感触、覆い被さるは陛下。

いつの間にか私は彼の下で横たわっていました。


「王妃……」


ゆっくりと陛下の唇が開かれます。

でも私はそれをまともに理解できそうもありません。


まるで今にも唇が触れてしまいそうな距離に、

陛下の端正な顔があるものですから。

あたふたしてしまいました。混乱しすぎて卒倒するかと。

いくら日頃眺めていてもときめかずにはいられません!


「……貴方は」


陛下はそれ以上に何も言わず。

心なし熱い視線を向けられながら口付けを交わしたのでした。

セラが眠っていていたのを幸いと、その後はなだれ込んだままに。


陛下との夜は更けていきました。

セラの言葉足らずはお父さんからの遺伝です。

次はおそらく陛下視点で。

ここまでお付き合いくださりありがとうございました!

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