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16話 家が入れ替わる


「ん? こんなところでなにをしてるの?」


 生活指導の先生が入ってきた。

 目が合うと、斎藤先生は眉をひそめる。


「あなた、一年の相沢くんね?」


 言い訳を考える前に、先生の顔が頷いた。


「ああ、朽木さんもいたのね」


 振り向くと、先輩が僕の背後からすっと姿を見せた。


「だめよ、勝手に入っちゃ。古い校舎なんだから。怪我でもしたら大変でしょ?」


 先生はどこか他人事のように注意しながら、図書室の絵を見上げる。


 そのとき、朽木先輩が僕の袖を引いた。

 小声で、「ねえ。もうわかったでしょ?」と言う。


 頷くのも忘れて、僕は先生を見つめた。

 前にここで会ったときと、同じ会話だった。

 違うのは、朽木さんと一緒だったの、と言ったこと。

 それは多分、僕がこの世界に……。


「行こう」


 先輩は僕の袖を引いて、教室を後にした。


 しばらく行くと、先輩が振り向いた。


「戻れないよ」


 その一言に、血の気が引く。

 そんな僕を見て、先輩は再び「行こう」と言った。

 再び歩き出す先輩の背姿に、僕は遅れないように少しだけ速く歩いた。


 裏門まで来ると、先輩はポケットから鍵を取り出した。


「これ、相沢くんが持ってて。無いと困るから」

「なんの鍵ですか?」


 受け取った鍵は二つ。

 どちらも違う形状をしていた。スペアキーじゃないらしい。


「一つは、ここの鍵」


 先輩は裏門を指さす。


「もう一つは?」


 見たことがあるような、それでいて思い出せない。

 しばらく眺めていると、頭の中にすっと入ってきた。


「……うそだ」


 呼吸が早くなる。

 口の中が渇き、上手く喋れない。

 代りに先輩が口を開いた。


「相沢くんの家の鍵だよ」


 僕の手から鍵の束がするりと落ちた。


 その後のことは断片的にしか覚えていない。

 いつの間にか、裏門の鍵を閉め、先輩が自転車を押していた。


 そして、家に着いた。


「ここは……」


 玄関に入り、僕は気づいた。


 爪切り暖簾。

 先輩の家。


「違う……違う」


 けれど、頭の奥では『僕の家』だと知っていた。


「そ、そんな」


 違和感しかないのに、否定できなかった。

 僕が住む家。

 爪切り暖簾も、家具のない部屋も。


「全部、僕の家……だ」


 つい口に出した。

 それが嫌で、逃げだしそうになるが、次の瞬間、逃げる場所などないことに気づく。


「落ち着いて、相沢くん」


 先輩は震える僕の肩に手を置いて、リビングへ向かう。


 清潔な、整えられた空間。

 音のない部屋で、僕は膝から崩れ落ちた。


「今から話すから、ちゃんと聞いて」


 先輩は僕の前に座ると、


「私もいつまで覚えていられるか分からない」

「なんですかそれ……」

「私も初めてなの。なにが起きるのか、私にもわからない」


 彼女は僕の目を真っ直ぐに見て、話し始めた。


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