15話 最後のピース
僕は一呼吸置いてから、爪切りを受け取った。
使い古された爪切り。
カバー付きの赤い爪切り。
これで三つになった。
最初に貰った白い爪切り、図書室で握らされた爪切り、そして今。
「うん。それは預かっておいて。今は使わないから」
朽木先輩の言い方は、いちいち謎めいている。
先輩は窓際へ向かう。
そこには布がかけられたキャンバスが、床に直置きされている。
布を取ると見覚えのある絵が現れた。
文化祭に飾られていた、先輩の家にあった絵だ。
「これを付けると、完成する」
指先に、小さな爪があった。
「それって」
ゴクリと唾を飲む。
見覚えがある形だった。
先輩の家で切られた……僕の爪。
「最後のピース。これで完成する」
翼の先端。
空白の部分にはめ込んだ。
遠目でも僕には分かる。
違和感がなくなったから。
「完成したんだ」
自分で言っておいて、それが何を意味するのか知らない。
その直後、先輩との距離が少しだけ縮まった気がした。
「戻れないよ。この世界から」
「この世界って?」
「そう、世界。ううん、文化かな」
先輩はそれだけ言うと、絵を持って教室のドアに向かう。
ちょうどその上が、空白だった。
「ねえ、手伝ってくれる?」
「あ、はい」
僕は急いで絵を受け取り、背伸びをして腕を伸ばした。
ドアの上の壁にある小さな突起に、そっとキャンバスを掛ける。
「これで、相沢くんと繋がった」
「えっ? 繋がって?」
先輩は鳥の絵を見上げながら、「時間」とだけ言った。
「でも、やっぱり、色はズレたままなんだ」
見えない色がある。
僕はそう思いながら、先輩の視線を追うように見上げる。
空白が、なくなっていた。
「今日から相沢くんの家は、私の家になったから」
「突然、なにを言い出すんですか?」
見上げる先輩の横顔に、疑問をぶつける。
「すぐに分かるよ。ほら、来た」
意味が分からない。
次の瞬間、廊下の先から足音が聞こえてきて、教室の前でピタリと止まった。




