12話 誰よりも早く
期末試験が近づいていた。
今年の集大成になるだろうテストに、皆、色めき立っていた。
散漫な授業も、聞こえてくるのはシャーペンの擦れる音とノック音だけ。
放課後になっても、運動部の掛け声や吹奏楽部の演奏、すべてが最初からなかったかのように静まり返っていた。
文化祭の鳥の絵も、話題にはならなかった。
ただ時間を消費するだけの日常。
いつしか僕も流されて、気づけば、あの旧校舎の匂いも思い出せなくなっていた。
五日に渡る期末試験が終わり、いつもの騒がしいクラスが戻ってきた。
明日から冬休みが始まる。
ホームルーム。
そこに現れた、先輩二人。
僕は知らず、手を握っていた。
「はい。明日から冬休みですが、その前に来年の文化祭について話があります」
担任の先生が声を上げる。
えっ、もう来年の文化祭の話をするの?
二か月前に終わったばかりなのに?
僕以外に、そう感じたクラスメイトが、抗議の声を上がるかと思ったが、誰もがそれを受け入れた。
ざわめきは収まり、椅子を引く音だけが教室に響く。
「それでは、二年の先輩方に説明をしてもらいます」
先生は、二人を教壇の前に立たせると後ろに下がった。
見知らぬ先輩と、朽木先輩。
「では、来年の文化祭について説明します」
僕は、朽木先輩だけを見ていた。説明をする先輩の話は、耳に入ってこなかった。
淡々と続く説明が終わり、
「一部準備が必要なイラストになるのですが、詳細は朽木さんに教えてもらってください」
そのとき、隣に座るクラスメイトが囁いた。
「朽木先輩って、影があるっていうか。大人って感じだよな」
「わかるわ。俺、タイプかも」
手を上げようかな、と。
僕は前を向いたままだった。朽木先輩は目も合わせない。
まるで僕がここにいないみたいだった。
他のクラスメイトと同じ、誰でも良い、と言っているように見えた。
僕は、「気づく人」じゃないのか?
旧校舎の帰り道。先輩は僕にそう言った。
あれはなんだったんだ。
「来年の実行委員は、望月さんにお願いします。あとは、イラストを作成する者を選ぶぞ。立候補はないか?」
背後から先生の声が響く。
握った拳が上がりかけて止まる。
僕はどうしたい?
不意に椅子が引かれる音がして、僕は黙ったまま、誰よりも早く手を上げていた。
その日の夜。
僕はベッドの中で眠れずにいた。
最後まで朽木先輩は、僕を見なかった。
空白が増えるのが嫌だった。
朽木のためでも、次の新入生のためでもない。
結局僕は、なにがしたかったのか。
繰り返される思考のループ。
何度目かの寝返りの後、アラームを止める音だけが、やけに大きかった。




