旅人は誘われ問われる
通りすがりの旅の人よ、あなたならご存知ではないか、あの魔方陣を。
ご覧なさい、あれこそが今を遡る事おおよそ二百年も昔、争乱で流された血を慰める為の魔術が込められたものだ。偉大なる魔法使い、その名は国にあまねく知れ渡り、数多の人がかの魔術を拝みに訪れた。
今はこの様に森に隠れ、沼に埋もれ、しかしその魔術は今も人に語り継がれ、誰もがその魔術を刻んだ魔法使いを称えたという。
さあ、ご覧になるといい。
……どうされた。
その魔術など見たくない? 早くここを去りたい?
一体どうして。
……その魔術は失われた血を慰めるのではなく、血を踏みつけて存在していると言われている?
天は作った者から罰として、その者の最も望んでいた事を奪った?
何を言うか。あの魔術を一度目の当たりにすればその様な愚考は消え失せ、その荘厳さに陶酔するだろう。
さあ、見るといい。
逃げるな、逃げるんじゃない。
せめて知っているだろう、教えてくれ。
いつまでも残らねばならないのだ。
あの魔術を創った、私の名前が。