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【書籍 1/5発売!】人工衛星サニーの冒険 ~転生した〝元〟気象衛星がお天気令嬢になるまで~  作者: mafork(真安 一)『人工衛星サニー』ほか書籍発売中!
第4章:魔科アンサンブル予報

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4-8:魔科アンサンブル予報

 実験室(アトリエ)の机に、峠守の錫杖が置かれていた。収穫祭の儀式で使われたもので、天気予報のためのアンテナでもある。

 机には、そのほかに子爵領近郊の地図に、方位を示すコンパス、それにさまざまな計算結果――嵐の移動速度、中心気圧、空気塊の温位、想定されるエネルギー――が記された紙。

 午後、サニーとアルバートは立ったままそれらを見下ろし、互いに頷きあった。

 2人一緒に振り返るのは、窓際の椅子にいるセシル。


「……どうなの?」


 膝に手を置いた少年に、サニーは人差し指を立てる。


「当たりです。セシル様は今回行った探知でも、遠くの嵐を探し当てていました」


 収穫祭で、セシルは遠くの低気圧を探知した。古い伝承『峠守』とよく似た力である。


 原理が不明。でも、有用。


 そういう現象を見た時に技術者が行うのは、『検証』だ。

 過去の悔いを克服したセシルは、その後も低気圧の探知を試みる。そして、抜け出し騒動から1週間後の一昨日――また低気圧を探知した。

 サニーは紙に起こされた複雑な計算結果を指でなぞり、顎に左手を当てる。


「セシル様が感じた嵐は、2日目の今日、サニーが探知できる距離に入りました。嵐の移動速度から逆算すると、セシル様が探知した時、嵐は1400キロ先――サニーの探知限界の4倍近い距離にあったのだと思います」


 ちなみにすでに勢力を弱め、雨雲の塊になっている。領地上空の寒気団、そして高気圧に押され、この付近には来れない見込みだ。


「以上から、セシル様が(アンテナ)で遠くの嵐を探知できるのは確かでしょう」


 前世の日本で例えると、東京からフィリピン沖を探知できるような距離。赤道付近の台風にはちょっと不足だが、東シナ海の温帯低気圧や、高緯度地域における寒冷渦には十分通用する。


「ただ、制限もありますね」


 こくりと頷くセシル。

 実験室(アトリエ)には、授業用の小黒板が持ち込まれている。

 サニーはそこに、白チョークで文字を書き始めた。


「推測ですが、探知可能なのは『遠くに嵐ができた』ことだけ。サニーのように、周りの気象状況が細かくわかるわけではありません。しかも――」


 セシルは口を尖らせた。


「うん。目の奥に、嵐のイメージが浮かぶんだ。でも、半日も経つと消えちゃう」


 つまり、嵐を常に監視できるわけではない。

 サニーは黒板に『セシル様の力でわかること』と書き、その下に『①嵐ができたこと』、『②その方角』、『③おおまかな距離』と記す。

 アルバートが唸った。


「いまだに信じられん。サニー、君がいう考えは……」

「広域の『気象レーダー』ですね。距離はサニーより長いですが、おそらく探知できるのは『嵐の発生』だけなのでしょう」


 人工衛星のように、広域の地図に雲や等圧線をプロットすることはできない。

 わかるのは、『○○の方角に嵐ができた』――それだけ。

 力が抜けるほど非常に限定された力だ。

 おそらく峠守は、他にも色々な予報技術を組み合わせて運用したのだろう。低気圧の発生がわかれば、少なくとも警戒はできる。実際、クライン子爵領には峠守時代から予報ノウハウの蓄積があり、サニーが来る以前からある程度の精度があった。

 

「収穫祭の儀式や像をみると、峠守さんは気象レーダーと同じことをやっていました。ご本人が原理に気づいていたかは、わかりませんけど」


 サニーはチョークを置き、代わりに机から杖を取る。


「『レーダー』は、2つの部品で成り立ちます。電磁波――ええと、空中を進んでくる力を受ける『アンテナ』。そして、アンテナで受信された電磁波や電波を感知し、強弱や頻度を処理する『感知器(センサー)』です」


 天井にぶつけないよう気を付けながら、杖を儀式のように掲げてみる。

 若様は整った顔をしかめ、銀髪を掴んだ。


「待て、いきなり未来知識に移るな。つまり――そうだな、君の世界のレーダーは、アンテナでなにかを受ける。船の帆が風を受けるように、これは『受け止める』イメージでいいかね?」

「そうですね。まさに、受け止める、です」

「うむ。『受け止めた』ものを、強さや、方角などの情報整理するのが、『センサー』ということか? 船乗りが膨らんだ帆の形や方角で、風向きや強さを計るように」


 サニーは驚きながらも顎を引いた。やっぱり、若様の理解力はすごい。


「峠守も、あの高台で『(アンテナ)』を掲げ、遠くの嵐から何かを感知していた――ということだが」


 アルバートは質問を重ねる。


「そんなことが可能なのかね? サニー、君でも無理な距離だろう?」

「わからない、というのが正直なところです。でも嵐は、もの凄いエネルギーなんです。それが巨大な渦巻きを作るわけですから……魔力というものが空中にあるなら、その中でどんな事象が起こるかわかりません」


 台風の総運動エネルギーは、ジュールで表すと10の18乗。一つの台風が始まってから終わるまで、マグニチュード8の地震に相当するエネルギーが発散される。

 そのどこかの段階で、『感知』に優れた人たちが、遠くからなんらかの変化を感じ取る――。


(正直、魔法のことはぜんぜんわからないです)


 ただ、『ありえない』と切って捨てるべきでもない。


「天候が変わると、空気中の魔力にも変化が起きるって、アルバート様は調べてましたね?」

「あ、ああ。魔導銀を使った測定器を、改良した」


 以前、気圧計で水銀の代用とした魔導銀。

 本来は、空気中の魔力を測定するためにアルバートが発明した素材である。


「嵐が発生する時、つまり低気圧の渦が生まれる時、魔力の変化は特に激しく進むのかもしれません。洗濯ものみたいに、雲や風が巻き込まれて、ぶつかり合うわけですから」


 サニーは、黒板に『ぐるぐる』と渦巻を書く。


「む、むう……」

「私達の声は遠くまで響きませんけど、鐘の音は違いますよね?」

「激しい変化だと、魔力の変化が遠くまで伝わる――か」

「まだ推論、ですけど」


 ドキドキした。前世の気象知識ではなく、完全に未知のことを仮定で話している。

 探求していた。

 これこそ論文にすべきではないだろうか。


「リンデンの聖堂でも、峠守さんのように、天気を当てた人の碑文が残ってました」

「……うむ。峠守以外の予報者だな?」


 頷くアルバートに、さらなる推論を明かす。


「もしかすると、ですけど。特殊な杖を掲げる――『アンテナ』に気づいていた人は少数でも、遠くの嵐を感知した人はもっといたのではないでしょうか?」


 原理的には、アンテナは感知器(センサー)に信号を送る補助具だ。アンテナを高く伸ばせば――峠守のように特殊な杖を高く掲げれば――魔力を受信しやすくなる。が、アンテナがないと、感知力のすべてが失われるわけではない。

 『感知』はこの世界の人にそもそも備わった力なのだから。


「強い嵐なら、『感知』の優れた人に自然と察知されたかもしれません。それが教会に残る予報者や、杖がない状態で嵐に気づいた時のセシル様……」


 若様は目を見開き、椅子に腰を落とす。両手を組み合わせて、額に当てた。


「――整理させてくれ。この世界の人には、『魔法』という力がある。魔力を感じるのは『感知』という魔法の力」


 ぶつぶつと呟く若様。


「……『天気を当てる』のは、有用な力だ。優れた魔法の力は、親から子に伝わる。速く飛ぶ鳥が生き残るように、一部の動物に特異な力があるように、『天気を当てる力』は有用な形質として子孫に伝わったのか……?」


 この力が人に宿った経緯は、サニーにもわからない。おそらく『魔法』があるこの世界で起きた、特別な進化や遺伝だろう。

 若様は銀髪ごと頭を振った。


「……ええい、わからん! 君が転移者と信じた時と、同じ方法をとろう」

「え?」

「今は君の話が正しいと仮定する! 便宜的にだ」


 若様は咳払いした。


「教会の碑文をみるに、魔法にある『感知』――魔力を感じる力で、遠くの嵐を当てる者は確かにいたのだろう。そして峠守は、杖を掲げる、君のいうアンテナの仕組みに気づいた。だから特に優れた予報者となった。この仮説は成立する」


 しかし、と緑の目を鋭くする。


「ひとつ、奇妙だ。奇妙な点はたくさんがあるが、まずは1つ。このように嵐が予測できるなら、なぜこの方法が広まっていない? 峠守ももっと積極的にこの方法を残すべきだ」


 その議論には、答えがすぐ浮かんだ。


「『当たらない』からです」

「……当たらないだと?」

「嵐は、発生しても、どの方角に進むかはまちまちなんです。今回、セシルさんが見た2つの嵐も、子爵領には来ていません。進路が逸れたり、高気圧で上陸できなかったり」


 日本の場合、南方で発生した台風でも、実際に上陸するのは1割程度。年平均すると25個の台風が発生、上陸の平均値は3個ほど。


「前世の言葉ですけど――『記録に残るのは、当たった予言だけ』」


 教会は、聖女、聖人の記録として当たった予報を集めている。

 ただしその裏には、予言したものの嵐が来なかった――オオカミ少年のようになった予言者がきっとたくさんいた。


「――なるほど。嵐の発生がわかっても、有用な予報とはならないのか」

「峠守さんは、他の予報技術と組み合わせたのだと思いますよ。だから、子爵領に天気予報のノウハウが残ってたんです」


 実際、天体観測や、日常的な天気予報についてはしっかり残っていた。それがクライン子爵領の、天気予報の原型。

 容易に説明できる部分については、残る。


「峠守さんは、特別な杖をアンテナにしていましたが、多分自分の力や『原理』を説明できなかったのではないかと……」


 本人でさえ説明できなかった魔法の力は、やがて失われ、儀式や伝承にのみ留まった。最初、天気予報が抱えた問題に似る。『原理』が不明だから、信用されず、やがておとぎ話のようになってしまった。

 セシルが椅子から口を開く。


義兄(にい)さん、サニーさん」


 赤みを帯びた目を泳がせたが、すぐに胸に手を当てた。


「ボク、研究も予報も手伝うよ。もう無理はしないけどさ、この力を解析したら『お役に立てる』、でしょ?」

「セシルさん……」

「そうだな」


 アルバートは少年に歩み寄ると、腰をかがめて目を合わす。


「だが、そうそうセシルの力は明かせない。サニーと同じだな。もしかしたら攫ってまで研究したり、天気予報をさせたりする連中が出るかもしれない」

「でも」

「だからこそ、錬金術師だ」


 アルバートは微笑み、立つと机に載った杖や書類を見渡した。


「聞いての通り、サニーの世界には『レーダー』なるものがあったらしい。遠くの気象を、地上から探知するアンテナと、感知器(センサー)だろう? 同じものを作るのが技術者の使命だ」


 強い瞳に、サニーも胸がいっぱいになった。


「人の素養に頼った仕組みでは、どのみち後代に残せまい。現に、峠守は優秀な予報者だったが、やり方は失われていた」

「アルバート様……」


 アルバートは黒板に近寄ると、サニーとまとめた記録紙を側に置き、見比べた。


「鍵は、やはり『魔導銀』だな。液体金属で加工しやすいし、魔力を検知して、表面に複雑な波形を生む。遠くに発生する嵐から魔力が飛んでくるなら、魔導銀にうまく当てれば感知器(センサー)代わりになりそうだ」

「原理的にはそうですけど……おそらく、その魔力は微弱でしょう。発生時は物凄くても、長い距離を飛んでくるわけですし」

「減衰か、道理だな」


 だから、魔力への『感知』が特別鋭いセシルが、アンテナの補助を得ないとわからない。


「ひとまず、これが魔導銀だ」


 若様は、実験室(アトリエ)奥の棚から、ガラス瓶を持ってくる。

 中身は銀色の液体で、アルバートが指でつつくと、赤、緑、青の様々な波形を生んだ。


「……こんな風になるんですね」

「ここまで長かった」


 目を細めて空を見上げる若様。

 ほとんど水銀と変わらなかった半年前から、相当に改良したようである。


(お疲れ様です――)


 サニーは瓶を覗き込む。心電図にも似た、色とりどりの波形。それが複雑に絡み合っている。原始的なAスコープレーダーに見えなくもない。


「アンテナにも工夫が要りますね。嵐から届く微弱な魔力を、キャッチして、魔導銀にあてるわけですね」

「峠守の杖には、魔力を宿しやすい宝石があったな。あれも嵐から出る魔力を捉えるためだが……人と魔導銀、感知器(センサー)が違うから同じといくかどうか」


 かなり気の長い検証作業だが、アルバートはすでにスケッチ用紙に手を伸ばしていた。


「いくつか設計しよう。君の世界にはどんな種類のアンテナが?」

「ええとですね、回転するものや、お椀みたいなパラボラアンテナ、それに――」


 2人で話し始めると、セシルが椅子で足をブラブラさせていた。


「……でも、どうしてボクだけ峠守の力が宿ったんだろ? だって、お父様もお母様も、魔力はあっても普通じゃない」

「うむ。それは確かに――」


 サニーも頷きかけて、ふと気づいた。

 少年の、赤い目。

 赤い目は魔力を感知しやすい、という。


(目と言えば――)


 転生した時、サニーは青い目をもらった。水晶体は、人間が持つセンサーの一つだ。


「――アンテナの本質は、電波などを感知しやすくする補助具です。たとえば、お椀型のパラボラアンテナは、電波を反射させて受信機に電波を集中させます。弱い電波を、一点に集中させて、感知しやすく――」


 獣が大きな耳を持つのと、同じ原理だ。音の反射を鼓膜に集中させることで、小さな音でも聞き取りやすくなる。


「サニー、どうした?」


 思い付きを、うまく言葉にできないのがもどかしい。サニーは右手で自分の目を指さし、アルバートに顔をぐいと近づけた。

 セシルが椅子で頬を染める。


「わっ! サニーさん、大胆――!」

「ち、ちがっ!? こ、これですよ……!」


 固まっていたアルバートだが、吸い込まれそうな青い目に気づく。


「――! ()()()か!」


 目にある水晶体と網膜もまた、感知器(センサー)といえる。

 水晶体とは、レンズのこと。

 人間の目とは、光を集めて網膜というセンサーに投影する、光学センサーなのである。


「大きなレンズで、魔力を魔導銀に集めることはできないでしょうか? 虫メガネで、太陽光を集めるみたいに!」


 瞳の色は、水晶体――レンズの周りにある虹彩の色。

 セシルの赤い目が魔力を感じやすいのは、魔力をレンズのように一点に集め、網膜で感じるからかもしれない。


「1点に集められる魔力は、レンズの大きさに比例しますので、大きなレンズが要りますけど……!」


 ふっとアルバートは頬を緩めた。


「試してみよう。幸い――レンズは得意なんだよ」


 アルバートは天井を仰ぐ。

 彼が王立学会から追放された理由こそ、錬金術でのレンズ製法を発明したことだった。


「まったく……君の世界にこの言い回しがあるかは知らないが、『失敗は成功の母』だ」


 机に置いたスケッチ用紙で、羽ペンが軽やかに動き出した。



     ◆



 研究は、進む。

 検証は仮説に。仮説は実証に。

 実証は、実機に。


 大きな嵐が起きる時、大気に巨大な渦巻きができる。

 その結果、雨で『水』の魔力が増えたり、気温低下で『火』の魔力が減ったり、気圧低下で『風』の魔力が減ったり――そうした魔力の変化が空中で急激に進み、離れた場所にも影響を及ぼす。

 具体的にいうと、『土』以外の『水』『火』『風』の魔力がくっついて遠くまで飛んでいく。この時、魔力は粒子の性質もあるが、電波のように波動の性質も持つ。

 粒子と波の性質を併せ持っているのは、光にも似ており、だから光と同じく人間の光学センサー――瞳で感知されるのかもしれない。


 アルバートは、レンズと魔導銀を基本とした、この世界初の気象レーダーの開発に着手する。レーダーといっても、遠くから飛んでくる魔力をキャッチして、嵐の発生『だけ』を予想できるという、初歩も初歩のレーダーだが。


 先の収穫祭は、秋の終わりだ。

 冬が始まり、2人の研究時間も増える。峠は往来がぐっと少なくなり、若様の執務も減るのだ。農閑期になって、サニーのお手伝いもない。今は気象に集中だ。


 今、この世界には3つの予報がある。

 

 ひとつ。

 人工衛星サニーの予報。非常に高精度だが、半径300キロ程度の天気図のため範囲が狭い。


 ふたつ。

 セシルのような魔力感知による予報。気象レーダーがうまく動作すれば、半径1500キロで嵐の発生だけを探知できる。


 みっつ。

 アルバートの協力者達が行う、『百葉箱』による予報。気圧を主なデータとして予報しているが、性質上、ごく短期の降雨予報しかできない。ただし、誰でも使えるし量産できる。


 実験室(アトリエ)で、若様と2人で論文をやっつけながら、サニーはふと顔を上げた。


「たとえば、アルバート様の気象レーダーで嵐を探知しますよね? その後、沿岸の研究者たちの気圧計で、嵐の接近を探知してもらえば――」

「なるほど。かなり正確な予報になるだろうな」


 嵐の探知しかできないレーダー。

 けれども、それだけわかれば十分ということもある。

 ベアトリスが晴雨計を提案してくれたように、大きな嵐の発生はそれだけで警戒すべき情報になるからだ。その上で、沿岸の気圧計を読めば、出航を見合わせたりできるだろう。

 実際――日本の初期の暴風警報は、そのようなものだった。

 台風の発生が全国に電報で伝わった後、沿岸部で気圧計が読まれて嵐の接近を探知したのだ。


「ゆくゆくは、ですけど……暴風警報――いけるのでは」

「ふむ」


 アルバートは羽ペンを止め、唸った。


「……その予報。論文に書くには、名前をつけねばならんな」

「え!? いきなり、名前ですか?」

「『気象レーダー』も、それを活かした予報も、この世界にはない。新たな概念には名前がないと伝わらない。これも、読み手への配慮だよ」


 頭にふと言葉が過ぎる。


「――アンサンブル予報という考え方があります」

「アンサンブル――合奏という意味か」

「はい。どんな予報でも、完璧ではありません。未来のことですからね。だから色々な予報を組み合わせて、精度や使いやすさを上げるんです」


 前世では、前提条件を変えた複数の予報をコンピューターで統合、精度を上げていた。

 異世界では、超おおざっぱな気象レーダーを、沿岸気圧の観測者で補正する。

 レーダーと観測者の合奏(アンサンブル)だ。

 それは異世界の知識と、前世の知識の合奏(アンサンブル)でもあり、サニーとアルバートの合奏(アンサンブル)でもある。


「こちらの世界には、魔法がある。サニー、君の世界では、魔法がない代わりに別のものが発達したというが――」


 頭に言葉が閃いた。


「それは、科学といいます」

「では、科学と魔法の合奏(アンサンブル)


 アルバートは、裏紙に羽ペンで記して見せた。


「これはどうだろう?」


 ――魔科アンサンブル予報。


 この名前は、後代まで長く残る。もっとも今の2人には、知る由もないが。

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