コンビ結成
街の復活地点でステータス画面を確認し、結論を下す。
「たぶん、死亡回数だな。それで俺らを区別したんだ。ゼロなら、まだ会ってない確実な証拠……探し出しては、一にして回っているようだったし」
だが、相手の死亡回数だけを覗き見るスキルやアイテムが実装されているとは思えない。
つまり、より全体的なプレイヤー情報を探れる鑑定系のスキルやアイテムを使われたか――
プレイヤー情報の収集に特化させた異能が習得可能?
どころかアイテムやスキルの無効化や阻害すら習得できそうだったから、この異能力MMOは思っていたより奥が深いのかもしれない。
「……よく分かんないや、ハルトの言ってること。
でも、不親切な人ばっかりだね、このゲーム! 誰に何を聞いても『チュートリアルをやれ』か『初心者用クエストが終わってから話し掛けてくれ』だもん」
「MMOだと、そう珍しい反応でもないんだぜ。無料期間中だとか、まだキャラの作り直しが簡単な最初期は、あまり真摯に対応してもらえない。ようするに観光客や通りすがりに近いし――
かなりの高確率で俺らは、いなくなるとも思われてる」
「……なんで?」
「ドトンパは兎も角、あいつら――目覚めさせる者たちに遭遇したのは、たぶん洗礼や通過儀礼に近い。おそらく時間の問題だった」
「えぇっ!? あの人達、ボクらみたいな……えっと……死亡回数ゼロのプレイヤーを探しては、仲間に誘いながら殺して回ってるの!?」
「廃人プレイヤーにとってPK一回程度、チェックリストに丸と大差ないぜ?」
「仲間になれって言いながら酷いことするなんて! それにゲームで嫌がらせを優先とか……ちょっと意味不明過ぎるよ!」
「もしかしてMMOは初めてか? いうなれば裏エンドコンテンツに『世界支配』ってのがあるんだ。ほとんどのタイトルでマジに。
それに目覚めさせる者たちが挑戦中と考えたら、それほどおかしくはない。あの主義主張や方法論は……あー……ちょっと高尚過ぎだけどな」
「いままでVR格ゲーばっかり――というか『路上レジェンド』だけ遊んでた。知ってる、『ろじょレジェ』?」
なるほど。それでMMO慣れしてないのに、動きは良かったのか。
そして賭けてもいいけどノンは、だけゲープレイヤーだろう。狭く深くというか……まるで呪われているかの如く、一つのゲームだけを偏愛なタイプの。
「『ろじょレジェ』な。懐いけど、一応知ってるぜ。遊んだこともあるし。『タカシーっ』だろ!?」
「な、なんでそれなの!? 知っててくれて嬉しいけど、チョイスが変だよ!?
で、どうしてボクらは、いなくなるかもって思われているの?」
雑談で誤魔化せなかったらしく、かなりの不満顔だ。
「いや、それは住人の奴らが当たり前で、ノンの方が……あー……重く受け取り過ぎてる。
もっと気楽に考えようぜ? これはゲーム――たんなる娯楽に過ぎない。なにか気にいらないことがあったら、それを理由に止めていいんだ。
……ドトンパや目覚めさせる者たちが、滅茶苦茶やってんのと同じでな。
それにあいつらみたいなのが不快だったら別サーバーや別ゲーはもちろん、NonPKサーバーだって用意されてる。
ある意味で正しく自由の担保された姿なんだぜ?」
ただ思ってたより過疎サーバーな理由は厳しそうだった。おそらくサーバー内抗争の激化が原因だろう。
となればNonPKサーバーに日和るまではなくても、別サーバーで再スタートもなしじゃ――
「だけど、それじゃ! せっかくハルトとも友達になれたのに!
あと! やられっぱなしは性に合わない! ハルトは悔しくないの? ボクは悔しいよ、ハルト!」
と、友達!? えっ!? そ、そうなの!? 俺ら、今日会ったばかりじゃ!? 正直、心の準備が!? 皆に噂されると恥ずかしいし!
また目覚めさせる者たちの勧誘方法にも、一理くらいはありそうだから驚きだ。
「あのさぁ、ノン? そんな風に自分から目覚めさせる者たちと縁を深めるの、良くないと思うぜ? とくにノンみたいなタイプは?」
「ど、どうしてさぁ!」
「何度かの接触を経て、あいつらがノンに興味を惹かれるだとか……分析を終えただとかするぜ? で、あいつらの誰かが申し込んでくるんだよ。『決闘だ! オレ達が勝ったらノンは仲間に。負けたら謝る』とかな」
あろうことかこれを聞いてノンの奴は、満面の笑みだ。
思わず、それに指を刺してしまった。……物理的に。
「アホか! 俺らは今日始めた初心者! あいつらは『世界支配』に取り掛かるような廃人! どこに勝ち目があるんだよ!」
さすがに分かってくれたものの、それで涙目にもさせてしまった。
「……一発な。一発だけ。あいつらに一回だけでもギャフンといわせるとか……いいのを一発いれるとか……とにかく、そういった俺らでも出来そうな仕返しを目指す。それで、どうだ?」
いま鳴いた鴉がもう笑うじゃないけれど、大喜びしかけたノンの頬っぺたを再び突く。……これ柔らかくて気持ちいいぞ!?
「それだって出来るかどうか分からないからな! あいつらの強さどころか――
異能の習得方法すら知らないんだぞ、俺らは! 異能力MMOだっていうのに!」
「ど、どうしよう!? どうしたらいい、ハルト!?」
……懐かれた。間違いない。うちのポチも仔犬の頃、こんな表情をしてたし。
「だからぁ! まずはチュートリアルをクリアする。それで基本的な情報が分かるだろうし、サーバーの住人も相手してくれるようになる……と思う。
それと重複するかもしれないけど、異能力の習得方法を探る! 最後に強くなる方法の模索だ!」
尻尾があったら振り回しているだろうノンの頬を、また突く。……どういう素材なんだ、これ?
「でも、これだけは約束しろ!
全く望みないと判明したり、あいつらが想像以上にヤバいと分かったら撤退な。
まあ、そん時は世界移住にも付き合うし、大人しく諦めてくれよ?」
MMOで後発プレイヤーが先行プレイヤーより強くなるのは難しい。
そして相手も同じだけ時間投資が可能な前提だと、レベルの追い抜きなんて不可能に近かった。
しかし、それでも何処かで均衡化――団栗の背比べとなったりもする。
例えばレベル九十九とレベル百五十を比べたら、強さは大差ないなどと。
ただ、その数字が奈辺にあるか不明な上、あるとも限らないのが厳しい。
もしかしたら俺は、まったく希望のないプランを、何も知らない初心者に――
「あーっ! でも、それ迄どうしよう!?」
「……それ迄って?」
「強くなる為の修行中! その間だけでも目覚めさせる者たちの要求に従ってないと駄目かな?」
「なんだ、そんなことか。吃驚させるなよ。あんなのは無視だ、無視!」
「でも――」
「バッカだなぁ。そもそも、どうやって確認すんだよ? 俺らが従ってるかどうか。
というか死亡回数が一になった今、あいつらは俺らを探しもしないと思う。プレイヤーネームを控えられたかすら疑問だぜ?」
が、なぜかノンは、もじもじと恥ずかしそうにしている。どうしたんだ?
「そっか……よかった。てっきりボクは……しばらくの間……ぉチン……チンをつけてなきゃいけないのかと」
ないのがそっちということは……ノン、お前…………女の子だったのか。