冒険の初日に
「俺の名はドトンパ! でも、ただのトンパじゃねぇ! ド級のトンパで、ドトンパだ!」
おっちゃんの古いネットミームか何は、『初級者の森』に響き渡った。
「ドトンパさん!? どうしたの? いきなり!?」
しかし、そうは言いながらも、隠しきれてない殺意にノンは身構える。……見た目に反して場数踏んでたり?
「いいねぇ! 実にいい、その反応! 滾るものが――」
もちろん最後まで言わせず『初心者の短剣』をドトンパの喉元に――
「――って!? なんだ、これ!? お、オーラって……やつか!?」
いつの間にやらドトンパの身体は、薄い光の膜で覆われていた!
「なんだ、このガキ!? まったくの素人じゃないのか!?
でも、残念だったな! 別ゲーか何かで経験を積んでたみたいだが……異能に目覚めてないお前たちの攻撃が、この俺様に通るものか!」
さらに反撃とばかり拳を繰り出してくる。
てんでなっちゃいないフォーム。でも、やはり光の膜が凝り集められていて――
おそらく、やばい!
受けるのは諦め、念の為に飛び退いて躱す。
「うへへ、勘が良いな。でも、いつまで避けられる? お前らの攻撃は俺に効かない。だがな? 俺の攻撃は掠るだけで致命傷だぜ!」
舌舐めずりしながらドトンパが攻撃を繰り出し続ける。もう躱すだけで精いっぱいだ。
「ど、どういうこと、ハルト?」
「ああ!? まだ分かんないのかよ!? こいつは『初狩り』――初心者をPKして悦に入る変態プレイヤーだよ!」
「そんな! 親切な人だと思ってたのに!」
ノンには青天の霹靂だったらしい。どうやら俺とは違い、本物の初心者か?
しかし、そうなると二人掛かりでも倒すのは難しそうだ。
「面倒臭いな。こうなったらノンだけでも最初の街へ逃がして――」と思いかけた瞬間、空気が激変する。
「お前が初心者狩りのドトンパか?」
誓って俺は油断していなかった。
なのに、いつ間にかドトンパの背後にジャージ姿な女がいて、その片手を捩じり上げている!
いや、違う! その一人だけじゃない! 何人もだ! 気付くと俺らは、思い思いな出で立ちの集団に取り囲まれていた!
そして制圧された場を睥睨するかのように、奥から黒いコート姿が進み出てくる。
……間違いない。この人物が、こいつらのリーダーだろう。しかし!?
背は高めで、黒いロングコートを羽織り、端正な顔つきの青年に見えて――
大きくはだけられた胸元が色々と裏切っている。
奇怪なことに、そこは豊満!
全体的に男性的なシルエットなのに、見紛うことなき女性の象徴が、不自然なまでに融和している。
この現身は男? それとも女か?
「ツイてねぇ……目覚めさせる者たちかよ……」
圧倒されながらもドトンパが小声で漏らす。こいつらのグループ名? ギルドとか、徒党だかの?
「そっちの坊やたちはゼロだから……きっと初心者ね」
包囲網を為す一人、パンツスーツ姿の女が不可解なことを告げる。
……俺やノンのステータスを覗き見た? そんな能力かスキルがある? でも、なんの数値を?
「あ、あの! 俺ら、この変なおっさんに――」
「黙れ。オレ達が喋れって言うまで、その口を塞いでいろ」
突然な真後ろからの声に戦慄しながらも、ゆっくりと両手を挙げる。もちろん黙って。
さりげなく後を探ってみれば、俺は和服姿の美少女に日本刀を向けられていた。
……いつの間にか背後をとられ、それを察知すらできなかったらしい。我ながら拙すぎだ。
それに、こいつらは正義の味方という訳でも――
「待ってくれ! 誤解だ! これは、あんたらを手伝ってるだけだし――」
止せばいいのにドトンパは、自由な方の手で――
なんと下穿きを下ろしやがった! 気でも狂ったか!?
いや、狂ったのではなく、狂っていたのか! なぜならドトンパの股間には男性器と、女性器のそれが両方共に!
「俺はアンタら目覚めた者を支持している!」
「お前、馬鹿。今は、その話をしてない」
やはり包囲網の一角を為す一人――黒ゴスロリファッションなのに、なぜかガスマスクを付けた美少女が嘲る。
「今日、僕らが――オレ達が話に来たのは、ドトンパさん、貴方の初心者狩りは迷惑だと伝えにです」
べつの目覚めさせる者たちが話を戻してくれたけれど、そいつは美少年が女装をしているかのようだった。それもフリルだらけでガーリーな服を。
「待ってくれ! でも! ちゃんと両性具有に改造した! 俺だって目覚めた者のはずだ! だから俺を的に懸けるのは――」
「勝手に仲間を――目覚めた者を名乗るんじゃねぇ!」
続いてドトンパの片腕が複雑に鈍い音を立てる。
……現身なら痛覚の調整も可能とはいえ、あれは痛そうだ。凄い脂汗だし。
「き、『帰還の翼』使用! 最初の街へ!」
それでもアイテムか何かの音声スイッチを押そうとしたあたり、意外とドトンパは熟練者だったのかもしれない。
……それが発動さえしていれば。
「馬鹿ね……人狩りするのにルールブレイク能力者を連れてない訳ないじゃない?」
パンツスーツ姿の女が諭すように煽る。
いや、そんなことより話を総合すると――
この姉さんにもついてる!? 目覚めた者らしいけど……なにに!?
さらにジャージ姿が――
「オレらは、ドトンパを分からせておく」
と黒ゴス女と連れ立って森の奥へと三人で消える。
……あの二人にも生えてるわけ!?
そして黒コートを羽織った胸がある青年と、女装した美少年が俺らに話し掛けてきたけど――
この二人も開いてるってこと!?
……もうナニが何だか、よく分からなくなってきた。