第9話:「未来図を描く、君とのふたり占い」
秋も深まり、学校では進路希望調査の時期を迎えていた。教室で配られた用紙を前に、蒼太は眉間にしわを寄せている。
「うーん、どうしよう」
隣の席の詩音も、同じように悩んでいる様子。蒼太は詩音の横顔を見つめ、ふと声をかけた。
「詩音も決まらない?」
「うん……」
詩音は小さく頷き、不安そうな目で蒼太を見た。その眼差しに、蒼太の心臓が高鳴る。
二人は休み時間、誰もいない校庭のベンチで話をすることにした。秋の柔らかな日差しが二人を包み込む。
「なあ詩音、将来どうしたい?」
蒼太が優しく尋ねる。詩音は少し考え込んでから、小さな声で答えた。
「私は……この町で、動物に関わる仕事がしたいな。獣医さんとか、動物園の飼育員さんとか……」
詩音の目が輝いていた。蒼太はその表情に見とれてしまう。
「へえ、いいじゃないか! 詩音なら、絶対できると思う」
蒼太の言葉に、詩音の頬が赤くなる。
「ありがとう……葛城くんは?」
「俺は……」
蒼太は空を見上げた。雲が流れていく様子を見つめながら、言葉を探す。
「まだよくわからないんだ。でも、この町で、みんなの役に立てる仕事がしたいな。町おこしとか、地域の伝統を守る仕事とか……」
詩音はうなずいた。その表情に、理解と共感の色が浮かぶ。
「わかる気がする。私も、この町が大好きだから」
二人の視線が重なる。そこには互いへの信頼と、何か特別な感情が宿っていた。
「なあ詩音、一緒に考えないか?」
「え?」
「俺たちの未来、この町での未来を。一人じゃ不安だけど、二人なら何か見つかるかもしれない」
詩音の目が潤んだ。その瞳に、感動と喜びが溢れている。
「うん、一緒に考えよう。私も、葛城くんと一緒なら……」
言葉は途切れたが、二人の心は通じ合っていた。その瞬間、確かな絆が生まれたのを感じる。まだ恋とは言えないかもしれない。でも、大切な何かが芽生えたのは間違いなかった。
「よし、頑張ろう!」
蒼太が立ち上がると、詩音も笑顔で頷いた。二人は肩を並べて歩き出した。
その後の数日間、二人は放課後に図書室で進路について調べたり、町の様々な仕事について話し合ったりした。互いの夢を語り合う中で、二人の距離はどんどん近づいていく。
ある日、蒼太は決意したように詩音に言った。
「俺、町の観光協会で働くのもいいかなって思うんだ。この町の良さを多くの人に知ってもらいたいし」
詩音は嬉しそうに微笑んだ。
「素敵だね。私は、町の動物病院で働けたらいいな」
「お互い、夢に向かって頑張ろうな」
蒼太が差し出した小指に、詩音も自分の小指を絡ませた。
「うん、約束だよ」
二人の間に流れる空気は、もはや友情とは呼べないものに変わっていた。でも、まだ言葉にはできない。そんな初々しい感情が、二人の心を温かく包んでいた。