第7話:「新たな命と共に芽生える絆」
真夜中の電話で目を覚ました蒼太。飼育委員顧問の鷹取先生からだった。
「葛城、羊が出産しそうだ。詩音さんも呼んである。すぐに来てくれ」
急いで羊舎に向かう蒼太。到着すると、すでに詩音が待っていた。
「葛城くん!」
「詩音、大丈夫か?」
二人は羊舎に入った。産気づいた羊が苦しそうにしている。
「二人とも、落ち着いて」
深夜の羊舎は、静寂と緊張感に包まれていた。蒼太と詩音は、鷹取先生の指示に従い、産気づいた羊のそばに座った。羊の苦しそうな鳴き声が、時折静寂を破る。
「大丈夫、みんなで頑張ろうね」
鷹取先生が優しく羊に語りかける。その声には、何度も生命の誕生に立ち会ってきた経験が滲んでいた。
蒼太と詩音は、温かいタオルや水を用意し、羊の体を優しくマッサージする。生命の鼓動が、彼らの手のひらを通じて伝わってくる。
時が過ぎるにつれ、羊の呼吸が荒くなり、苦しそうな様子が強まる。詩音の顔に不安の色が浮かぶ。
「大丈夫かな……」
詩音の声が震える。
蒼太は、詩音の不安を感じ取り、思わず彼女の手を握った。
「大丈夫だよ。生き物は強いんだ。きっと乗り越えられる」
驚いた詩音だったが、すぐに蒼太の手に力を込め返す。彼女の目に決意の色が宿る。
「うん、頑張ろう」
二人は力を合わせ、羊を励まし続けた。鷹取先生の指示のもと、羊の体を支え、優しく声をかける。羊の苦しむ姿に心を痛めながらも、生まれてくる命への期待が彼らの心を支えていた。
夜が明けようとする頃、羊の呼吸がさらに激しくなる。蒼太と詩音は、羊の両脇を支えながら、励ましの言葉を掛け続けた。
そして、朝日が昇り始めた瞬間、小さな生命が姿を現した。
「来たぞ!」
鷹取先生の声が響く。
蒼太と詩音は、目の前で起こっている奇跡に息を呑む。小さな、しかし確かな命が、この世に生を受けた瞬間だった。
生まれたばかりの子羊は、まだ目も開いていない。しかし、その小さな体には既に生命の輝きが宿っていた。母羊が優しく子羊を舐め始める。その光景に、生命の神秘と母性の美しさが凝縮されていた。
「やった!」
蒼太と詩音は思わず抱き合った。
「あ、ご、ごめん」
慌てて離れる二人。顔を真っ赤にしている。
「いや、その……」
気まずい空気が流れる中、鷹取先生が声をかけた。
「おめでとう、二人とも。立派だったぞ」
先生の言葉に、二人は照れくさそうに笑い合った。
朝日が昇る中、蒼太と詩音は羊舎の前に立っていた。
「すごいね、命の誕生」
詩音の目には涙が光っている。蒼太もまた、感動で胸がいっぱいだった。
「ああ。俺たち、すごいものを見られたな」
二人は黙って朝日を見つめた。この経験が、二人の絆をさらに深めたことを感じていた。