第6話:「黄金色の稲穂と、実る想い」
秋の柔らかな日差しが、黄金色に輝く稲穂を照らしていた。蒼太は鎌を手に、どうやって稲を刈ればいいのか戸惑っていた。朝早くから集合し、バスで田んぼまでやってきたものの、実際に作業を始めると途端に緊張してしまった。
(うわ、思ったより難しそうだな…)
そう思いながら周りを見渡すと、隣で詩音が器用に稲を刈っている姿が目に入った。その姿に見とれていると、ふと詩音と目が合った。
「あ、えっと…」
蒼太は慌てて視線をそらした。詩音は少し微笑むと、優しく声をかけてきた。
「葛城くん、こうやってやるんだよ」
詩音は丁寧に稲の刈り方を説明してくれた。その仕草に、蒼太は思わずどきりとした。
(詩音って、こんなに優しかったんだな…)
蒼太は真剣な表情で聞き入った。詩音の説明を聞きながら、彼女の横顔に目が釘付けになる。秋の陽射しに照らされた詩音の横顔が、とても綺麗に見えた。
「なるほど! ありがとう、詩音」
蒼太は感謝の言葉を述べると、意気込んで稲刈りに挑戦した。最初はぎこちない動きだったが、徐々にコツをつかんでいく。
二人で協力しながら稲刈りを進める。汗だくになりながらも、時折視線を交わし、小さな笑顔を交換する。蒼太は詩音と一緒に作業できることが嬉しくて仕方がなかった。
「よいしょ」と掛け声をかけながら稲を刈る蒼太。その横で詩音も黙々と作業を続けている。二人の息はだんだんと合っていき、まるで長年一緒に農作業をしてきたかのようだった。
休憩時間になり、二人は田んぼの畔に腰を下ろした。蒼太は水筒を取り出し、詩音に差し出した。
「はい、詩音。喉乾いただろ?」
「あ、ありがとう」
詩音は少し照れたように水筒を受け取った。その指が触れ合った瞬間、二人とも小さく息を呑んだ。
蒼太は詩音の横顔をちらりと見た。汗で少し濡れた前髪が頬にくっついている。思わず手を伸ばしそうになったが、ぎこちなく腕を下ろした。
「詩音、すごいな。慣れてるみたいだけど」
蒼太は話題を変えようと声をかけた。詩音は少し驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかな表情になった。
「うん、おばあちゃんの家が田舎にあるから、毎年手伝いに行ってたんだ」
「へえ、そうだったんだ」
蒼太は感心したように詩音を見つめた。詩音の意外な一面を知れて、なんだかうれしくなった。
「なあ詩音、将来のこととか考えたことある?」
突然の質問に、詩音は少し驚いたような顔をした。蒼太は自分でも唐突な質問をしたことに気づき、少し後悔した。でも、詩音の考えを知りたいという気持ちが抑えられなかった。
「うーん、まだあんまり…。葛城くんは?」
詩音は少し考え込むように俯いた。その仕草が愛らしくて、蒼太は思わずどきりとした。
「俺もまだだな。でも、」
蒼太は遠くを見つめながら続けた。心の中にある漠然とした思いを、言葉にしようと努めた。
「この町で、みんなのために何かできたらいいなって思うんだ」
詩音の目が輝いた。その瞳に映る自分の姿を見て、蒼太は胸が高鳴るのを感じた。
「わかる。私も、この町が大好き」
詩音の言葉に、蒼太は嬉しくなった。二人の視線が重なる。その瞬間、何か特別なものを共有したような気がした。言葉にはできないけれど、確かに二人の間に通じ合うものがあった。
風が吹き、稲穂がさらさらと音を立てる。二人はしばらくの間、その音に耳を傾けていた。
「よし、もう少し頑張ろう!」
蒼太が立ち上がると、詩音も笑顔で頷いた。その笑顔に、蒼太は思わず見とれてしまった。
午後の作業が始まり、二人は再び稲刈りに励んだ。時折、他のクラスメイトと冗談を交わしながらも、なぜか二人の間には特別な空気が流れていた。
夕暮れ時、稲刈りを終えた二人は帰り道を歩いていた。オレンジ色に染まった空を見上げながら、蒼太は今日一日を振り返っていた。
「ねえ、葛城くん」
詩音の声に、蒼太はハッとした。
「ん?」
「私も、この町で何かしたい。一緒に、考えてもいい?」
詩音の言葉に、蒼太の心臓が大きく跳ねた。彼女の真剣な眼差しに、言葉を失いそうになる。
蒼太は嬉しそうに笑った。その笑顔には、照れくささと喜びが混ざっていた。
「ああ、もちろん! 一緒に考えよう、俺たちの未来」
「俺たちの未来」という言葉を口にした瞬間、蒼太は自分の言葉に驚いた。でも、それは本当に心からの言葉だった。
詩音の頬が薄っすらと赤くなる。二人の影が長く伸びる中、蒼太は詩音の隣を歩くことが特別に思えた。
これから始まる新しい物語の予感に、胸が高鳴った。まだ恋とは言えないかもしれない。でも、確かに二人の間に芽生えた何かがあった。それは、これからゆっくりと育っていくのだろう。
帰り道、二人はほとんど言葉を交わさなかった。でも、その沈黙は心地よいものだった。時折、そっと視線を交わし、小さく微笑み合う。その瞬間、二人の心は確かに通じ合っていた。
バス停に着くと、詩音が小さな声で言った。
「今日は、楽しかった」
その言葉に、蒼太の心は跳ねた。
「ああ、俺も。また一緒に何かできたらいいな」
詩音はうなずき、優しく微笑んだ。その笑顔が、夕陽に照らされてとても綺麗だった。
バスが来て、二人は別々の席に座った。でも、時折後ろを振り返る蒼太と、そっと前を見る詩音。二人の心は、まだ繋がったままだった。
この日の体験が、二人の関係に新しい芽を吹かせたことは間違いなかった。それは、これからゆっくりと、でも確実に育っていくのだろう。蒼太と詩音の物語は、まだ始まったばかりだった。




