第4話:「七夕祭りの願い事」
七月七日、街は七夕祭りの賑わいに包まれていた。色とりどりの短冊が風に揺れる中、蒼太は友人たちと祭りを楽しんでいた。
「おい、蒼太! 願い事書いたか?」
陽翔の声に、蒼太は慌てて答えた。
「あ、まだだ。これから書くところ」
「へえ、何を書くんだ?」
蒼太は少し考え込んだ。正直、まだ決めていなかった。
「それは、秘密だ」
ごまかすように笑う蒼太に、陽翔は意味ありげな視線を送った。
「ふーん。詩音のことじゃないのか?」
「な、何言ってんだよ!」
思わず声が裏返る。顔が熱くなるのを感じた蒼太は、慌てて視線をそらした。
その時、人混みの中に見覚えのある姿を見つけた。詩音だ。彼女は友人の凛花と一緒に、短冊を眺めていた。
「お、詩音だ。俺、ちょっと行ってくる!」
陽翔の冷やかしの声を背中に受けながら、蒼太は詩音に駆け寄った。
「よう、詩音!」
声をかけられた詩音は、驚いたように振り返った。
「あ、葛城くん。こんばんは」
「こんばんは。祭り、楽しんでる?」
「うん。凛花と一緒に……」
詩音が言いかけたとき、凛花が急に立ち上がった。
「あ! 私、忘れ物しちゃった! 先に帰るね。ごめん、詩音!」
そう言って、凛花は笑顔で去っていった。詩音は困ったように凛花を見送る。
「あの、葛城くん」
「ん?」
「一緒に、短冊書く?」
詩音の声は小さかったが、蒼太の胸に響いた。
「ああ、もちろん!」
二人は並んで短冊を書き始めた。蒼太は何を書こうか迷っていたが、ふと思いついた。
(よし、これにしよう)
筆を走らせる。書き終えると、詩音の方をちらりと見た。彼女はまだ真剣な表情で短冊に向かっている。
「書けた?」
蒼太の声に、詩音は少し驚いたように顔を上げた。
「う、うん。書けたよ」
「じゃあ、一緒に飾ろう」
二人は短冊を持って、大きな笹の前に立った。
「せーの」
声を合わせて、短冊を枝に結びつける。風に揺られて、二人の短冊が寄り添うように揺れた。
「ねえ、葛城くん」
「ん?」
「願い事、叶うと思う?」
詩音の目には、少し不安そうな色が浮かんでいた。蒼太は力強く頷いた。
「絶対叶うさ! 俺たちが頑張れば、どんな願いだって叶うはずだ」
詩音は少し驚いたような顔をしたが、すぐに柔らかな笑顔を見せた。
「うん。そうだね」
二人の視線が重なる。そこには、まだ言葉にできない想いが浮かんでいた。
夜空に輝く星々の下、二人の短冊が風に揺れている。蒼太の短冊には「詩音ともっと仲良くなれますように」、詩音の短冊には「葛城くんと一緒にいられますように」と書かれていた。
でも、それはまだ二人だけの秘密だった。