第10話:「除夜の鐘と共に、響く愛の告白」
除夜の鐘が鳴り響く中、蒼太と詩音は地元の神社に向かっていた。凍てつく夜空に、二人の吐く息が白く浮かぶ。
「寒いね」
詩音の声が震えている。蒼太は思わず詩音の手を取った。
「大丈夫か?」
詩音の手が冷たい。蒼太は両手で詩音の手を包み込む。
「う、うん……ありがとう」
詩音の頬が赤くなる。寒さのせいだけじゃない。蒼太も、自分がした行動に照れている。
(詩音の手、小さいな……)
(葛城くんの手、温かい……)
二人とも、相手のことで頭がいっぱいだった。
神社に着くと、大勢の人で賑わっていた。初詣の列に並ぶ人々、屋台の明かり、どこか華やいだ雰囲気が漂う。
「詩音、離れないようにな」
蒼太は詩音の手をしっかりと握る。
「うん」
詩音も蒼太の手を握り返す。二人の手は、もう離れる気配がない。
参拝の列に並びながら、二人は今年一年を振り返る。
「なあ詩音、今年はいろんなことがあったな」
「うん……楽しいこともたくさんあったね」
羊の世話、七夕祭り、夏の飼育当番、稲刈り、秋祭り……思い出が走馬灯のように駆け巡る。
「葛城くんと過ごした時間、全部大切な思い出」
詩音の言葉に、蒼太の心臓が高鳴る。
「俺も……詩音といると、毎日が特別な気がするんだ」
照れくさそうに言う蒼太。詩音は嬉しさで胸がいっぱいになる。
ようやく順番が回ってきた。鈴を鳴らし、二人で深々と一礼する。
(今年こそ、詩音に気持ちを伝えられますように)
(葛城くんと、もっと近づけますように)
それぞれの思いを胸に秘めて祈る二人。神様は、きっとその純粋な想いを聞いてくれているはずだ。
参拝を終えて、二人は境内の隅に立った。周りの喧騒が少し遠くなったような静けさの中、二人は向き合う。
「なあ詩音」
「うん?」
「今年の目標、ある?」
詩音は少し考え込んだ。瞳に決意の色が宿る。
「うーん、もっと自分に正直になりたいな。言いたいことを、ちゃんと言えるように……」
その言葉に、蒼太の心臓が高鳴る。
「へえ、いいじゃないか。俺も……似たようなことを考えてた」
「葛城くんは?」
蒼太は空を見上げた。満天の星が、二人を見守っているかのよう。
「俺は……勇気を出すことかな」
「勇気?」
「ああ。大切なことを、ちゃんと伝える勇気」
詩音の目が蒼太を見つめる。その瞳に、期待と不安が交錯している。
「その、大切なことって?」
蒼太は深呼吸をした。今まで感じていた気持ち、でもなかなか言葉にできなかった想い。全てを込めて、詩音に向き合う。
「詩音」
「うん」
「俺、お前のことが……」
その時、花火が打ち上がった。
驚いて空を見上げる二人。色とりどりの花火が、夜空を彩る。
「きれい……」
詩音の目に花火が映る。蒼太は、その横顔に見とれていた。花火の光に照らされた詩音の表情が、今までで一番美しく見えた。
「詩音」
「うん?」
蒼太は、もう迷わなかった。
「好きだ」
詩音の目が大きく見開かれた。その瞳に、驚きと喜びの涙が光る。
「私も……葛城くんが好き。ずっと前から……」
詩音の声は震えていたが、その目はまっすぐ蒼太を見つめていた。二人の手が、そっと繋がる。
「ごめん、気づくのが遅くて」
蒼太は申し訳なさそうに言った。
「ううん、私も……言い出せなくて」
詩音は小さく首を振る。二人の間に流れる空気が、急に温かくなったような気がした。
新年の空に、最後の大きな花火が打ち上がった。それは、二人の新しい物語の始まりを祝福しているかのようだった。
「なあ、詩音」
「うん?」
「これからも一緒にいてくれるか?」
蒼太の声には、少し緊張と期待が混ざっていた。詩音は優しく微笑んだ。
「うん、ずっと一緒にいたい」
二人はゆっくりと顔を近づけた。そして、柔らかく唇が触れ合う。初めてのキスは、ぎこちなくも愛おしいものだった。
キスを終えた二人は、顔を真っ赤にしながらも幸せそうに笑い合った。
「あけましておめでとう、詩音」
「あけましておめでとう、蒼太くん」
初めて名前で呼び合う二人。その瞬間、新しい関係の扉が開いた気がした。
帰り道、二人は手を繋いで歩く。まだ少し照れくさそうだが、確かな絆で結ばれている。
「なあ、詩音」
「うん?」
「明日から、また頑張ろうな。二人で、夢に向かって」
「うん!一緒なら、きっと頑張れる」
まだ子供じゃないけど、大人にもなりきれていない。でも、互いを想う気持ちは、確かに本物だった。
蒼太と詩音の純愛物語は、ここから新たな章を迎える。まだまだ続く、かけがえのない日々の始まりだった。
星空の下、二人の影が寄り添うように伸びている。これから始まる未来に、期待と希望が満ちていた。
「来年の初詣も、一緒に来ようね」
「うん、約束だよ」
新しい年の幕開けと共に、二人の恋も、ゆっくりと、でも確実に育っていく。それは、周りの人々にも、温かく見守られるはずだ。
蒼太と詩音の純愛は、これからどんな花を咲かせるのだろうか。それは、まだ誰にも分からない。でも、きっと美しいものになるはず。そう信じて、二人は歩み続ける。
新年の夜空に、最後の花火が消えていった。でも、二人の心に灯った光は、これからもずっと輝き続けるだろう。