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#プロローグ

それなりに整った部屋に足を踏み入れる。ここが私たちの新しい家だ。先生の協力のおかげで私たちは苦労することなく暮らすことができる。

「わ~!光音、光音、すごいよこの部屋。広いし、キレイ。」

 隣で優音ちゃんがはしゃいでいる。この子は年の割に言動が少し幼い。けれど、家事などはしっかりできるから頼りにはなる。一緒にいて不快にはならない、今日からの同居人だ。

「うん、そうだね。先生が家具とか用意してくれたって。優音ちゃんの部屋、優音ちゃんが好きな色のカーテンになってるらしいよ。」

「え、本当?うれしい!見てくるね。」

 とたとた、と優音ちゃんが隣の部屋へ走っていく様子を眺める。楽しいんだろうな、多分。

 私には、『楽しい』は分からないけれど。

 私たちは少し前まで同じ孤児院で過ごしていた。私たちは最年長ではあるものの、入ってからあまり時間が経っていなかった。けれど、優しい先生と親しみやすい子達のおかげですぐに馴染むことができた。

 この部屋を探して整えてくれた先生には感謝をしてもしきれない。多分。この気持ちは多分『感謝』になるんだろうというのは最近知った。

 ただ、あの孤児院は普通の孤児院ではない。私に『感情』がほとんどないのもそこから来るものだ。

 私たちには記憶がない。生まれてから孤児院に入るまで。細かく言えば、孤児院で目が覚めるまでの記憶がない。

 目が覚めた後、先生は私たちに起こったことを説明してくれた。

 私たちは何らかの事情があり、耐え難いような過去を背負っていた。それこそ、生きていくのが難しいくらいの、重いもの。先生は私たちの頭からその記憶を消す薬を使い私たちを救ってくれた。

 怪しい話だと思うだろう。私もはじめはそうだった。しかし、事前に私たちから許可を取っていること、その証拠にサインもあること、その名前も筆跡も私本人のものだったこともあって、信じることができた。

 何よりも、なんだか心が軽くなったような気がした。

 先生は私に『感情』がほとんどないことに対して、

「今まで心にたくさんの負担がかかっていたから、急にそれがなくなって、びっくりしちゃっているんだよ。いつか絶対に普通の人と同じような生活ができるようになるから、安心してね。」

 と、言っていた。

 だから、私はあまり気にしていない。

 優音ちゃんの精神年齢が少し幼いのも同じ原理らしい。

「光音?何してるの?光音の部屋もかわいくなってるよ、見てみて~。」

 優音ちゃんが自慢げに教えてくれる。自分がやったわけじゃないのにな。

「分かった。見る。優音ちゃんも一緒に来て。案内してよ。」

「わかった!来て来て~」

 優音ちゃんに手を引かれる形で私の部屋へ移動する。

 私の部屋は、私が好きらしい黄色にまとめられていてシンプルではあるけれど華やかにセットされていた。孤児院の私の部屋と造りが似ている。これも先生のこだわりなのだろう。

「光音、どう?」

 私は少しも表情を変えずに言う。

「まぁ、不快ではないかな。」

「あ、そういえばわたしたち、高校休学中だったらしいのは知ってるよね。先生が言ってた。」

「そうみたいだね。明後日からだっけ?」

 高校。記憶を消してから登校していないから、そもそも学校という場所がどんな場所なのか分からない。

「あのね、わたしたち、同じクラスなんだって!一緒にいられるね。嬉しい。」

「そうなんだ。うん、私も優音ちゃんと同じクラスで良かった。」

 『嬉しい』がどんな感情か分からないけど、優音ちゃんが良い表情をしているから悪くないんだろうな。

 これからの生活がどうなるのか、なんて考えながら優音ちゃんの『嬉しい』表情を眺めた。

 うん、不快ではないな。

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