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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編ホラー

狭所

作者: 壱原 一

狭所が苦手です。原因は歴然としていて、子供の頃に2度、圧迫と閉塞を体験したからです。


1度目は親で、敷布団でした。昼に寝室でテレビを見ていた背中にそっと手を添えられ、部屋の対岸の敷布団の上へ促されました。


お昼寝と推量して大人しく横になったところ、両膝を突いて待ち受けていた親に、敷布団の長辺と垂直になるよう、かつ短辺の片端へ寄せて置き直されました。


親は機嫌よさそうに著名な童謡を歌って、敷布団の端から巻き転がしました。それで遊びだと分かって、きゃあきゃあ笑いつつ敷布団の回転に身を任せていましたが、巻き方がとてもきついのです。


穏便に止めてもらうべく、くるしいいと大袈裟に表現しました。親はにこにこ歌って端まで巻き切り、押し入れへ収納しました。


親は歌って襖を閉めてゆきました。狭まりゆく隙間から笑顔を覗かせ、了見を得ず親を窺うこちらの姿を目に焼き付けるように見詰め、挙句ぴったり閉め切ってしまいました。


何事か怒らせてしまったが故の罰かと過ぎって、何も言えませんでした。他の敷布団の上に乗せられたので沈み、巻かれた敷布団の終端の厚みを越えられず、身動きできません。


何について怒られているのか考えながら、ひしひしと迫る窮屈と息苦しさの不快感が堪らず、激しい癇癪を催しかけました。


いじけた泣き声を聞き付けたのか、閉めた覚えのない寝室の戸が開く音がして、血相を変えた親に驚き呆れられながら解放されました。


1人で出来そうにない悪戯に不審を感じつつ、深く追求したくない表情で叱り付けられましたが、構いませんでした。


寝室でテレビを見ていた背中にそっと手を添えられ、部屋の対岸の敷布団の上へ促されている時、行く手の対岸で敷布団を敷いていたのは親です。


どちらも親ではなかったと分かったので、とてもほっとして、当時はそれ以上の問題を感じませんでした。


*


2度目は友人達で、友人達の生体とラグでした。


休日に友人達の内の1人の家へ数名で遊びにゆき、その友人の自室で銘々に漫画を読んだり、ゲームをしたり、スマートフォンを弄ったりしながら駄弁っていました。


ラグに俯せてぼんやりしていたところ、友人が腑抜けた調子で呼び掛けてきて暇だと訴え、こちらの体と垂直に腹這いで被さってきました。


気軽になじって退くよう求めましたが、別の友人まで悪乗りします。腑抜けた調子で呼び掛けてきて暇だと訴え、こちらの体と垂直に腹這いで被さってきました。


流石に重いので、怒気を込めて威嚇し体を起こそうとしました。しかしまるで申し合わせたかのように別の友人と別の友人が腑抜けた調子で呼び掛けてきて暇だと訴え、こちらの体と垂直に腹這いで被さってきました。


肋骨や腰骨が床面に当たって痛く、胴を押されて息を吸えないので苦しく、頭部に血液が集まって段々かおが熱くなってきます。


動けないので見えませんでしたが、唯一かぶさっていない筈の友人に助勢を求めると、腑抜けた調子で呼び掛けてきて暇だと訴え、ラグの端をこちらへ覆い被せて無理矢理きつく包んできました。


僅かな息を駆使して思い切り罵倒した少し後、廊下から複数の足音がやってきて、血相を変えた友人達に驚き呆れられながら解放されました。


皆がリビングで飲み物やお菓子を見繕っている間に、1人でラグに包まって騒ぎ笑いを取ろうとする今いちな良識と感性を散々にあげつらわれ、囃されましたが、甘受しました。


*


2度目の時に1度目を思い出し、忘れた頃を見計らって狙い続けているのではと閃いて、狭所が苦手になりました。


実際、以降も忘れた頃に圧迫と閉塞を体験し、今ではそれがおよそ特定の年数置きと推測できています。


親も友人達も敷布団も押し入れも生体もラグも平気です。


でも狭所は苦手です。


できるだけ長く持たせられるよう、忍耐力と心肺機能の維持向上に少し気を遣っています。



終.

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