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ヘブンズ・カンパニー -天国で運命の人に再会しました-  作者: さがわウェンディフェリシア
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仕分け課

 翌朝、朝礼で出雲課長から辞令の言い渡しがあった。

「本日付けで、高山登さん、矢野詩織さんの両名は25階【仕分け課】に異動といたします。

同期の中で1番手は、このお二人でしたね。」

「あの、課長。どうして俺と矢野さんなんですか?もしかして飛ばされる?」

「あ、私は問題を起こしたから…」

「いえ、そうではありませんよ。お二人ともスキルを身につけたからです。」

例のスキルか。高山さんと私だけなんだ。ちょっと試してみちゃおう。

高山さんも[思い]読み取れるようになったんですね。

高山は驚いた顔でこちらを振り返った。

このスキルって、みんなが身に付いてるものだと思ってた。

と、[思い]で返してきた。

「お二人とも、もう完璧ですね。」と出雲課長と先輩方は笑っていたが、佐藤さんをはじめ、同期の人達は何だか分からずにキョトンとしている。

「お二人は、デスク回りの荷物をまとめて25階に向かってください。」

は…早い、言われてからものの5分でもう異動ですか。

「あ、でもその前に、挨拶はして行ってくださいね。」

「高山です。今までありがとうございました。また他の課でもご一緒出来ることと思いますが、その時はまた宜しくお願いいたします。」

うん。完璧な挨拶だね。こういうのは、言う事早い者勝ちみたいなとこあるよね。何て言えばいいかな。

高山が、こちらを見てニヤリと笑った。

ムカつくわぁ。この人ほんと、こういうとこあるよね。

高山が、こちらを見て

あ、ごめん。

と謝ってきた。

この人意外と素直なんだよね。

高山と[思い]だけで、やりとりしていたら、クスリと笑う出雲課長から

「矢野さんも、一言どうぞ。」

と言われてしまった。

「皆様、お世話になりました。25階にお越しの際は是非お声がけください。」

と、‘THE社交辞令’を述べて挨拶にかえさせていただいた。


デスクの片付けをしていると、佐藤がやってきて「寂しくなるわぁ。」と半べそをかいていた。

「すぐ、異動になりますよ。待ってます。」

「でも、私の移動先が【仕分け課】とは限らないから。」

今にも泣き出しそうな佐藤に「今度、3階で一緒にご飯食べましょ。」と、約束をした。

 段ボールに身の回りの物を詰めて、抱えながらストラップを振った。同じようなドアだったが、そこは間違いなく25階の【仕分け課】に変わっていた。


 「本日付けで、こちらに配属になりました、矢野です。宜しくお願いします。」

今度は先に言ってやった。ふふんと思ったら、

「同じく本日付で配属されました高山です。宜しくお願いします。」と、続けられた。

なんか、負けた気がする。なんとなく高山がこちらを見てドヤ顔をした気がした。


「【仕分け課】へようこそ。私は課長の春日と申します。宜しくお願いしますね。」

【仕分け課】の課長は女性だった。20歳位の容姿の人が多い中で、40代前半位の見た目で母性溢れる感じの、じんわりと安心する空気感がある人だった。


「さっそく、こちらの業務内容をお知らせしますね。こちらでは、まだ死ぬ予定ではない人が手違いで死ぬことがないように仕分けます。各地で事故や事件があったら必ず調べる事が必要です。分からないことは、こちらの熱田さんに聞いてください。」

「主任の熱田です。宜しくお願いします。」

「「宜しくお願いします。」」高山とハモってしまった。


 熱田に付いてOJT(On the Job Training)をすることになった。

「ではまず、今日東京都心部で通り魔殺人事件がおこります。私について来てください。」

「え?通り魔殺人事件?」

 3人で外出用のドアを通ると、懐かしい東京の景色だった。休みの日に、拓実と一緒に駅に程近いこのショッピングモールに来たことがあったな、と考えていた。たくさんの人が買い物を楽しんでいる。ふと、私の横を目の血走った男が右手を左の脇に挟むような不自然な恰好で通り過ぎて行った。

「見たくなかったら目を背けていてください。」

熱田主任がそう言った瞬間に、男は左脇に隠していたサバイバルナイフを出し、通行人を次々と襲っていた。

「うわ…見ちゃった。」

そう呟いた時に、私の脳裏に何か別の映像が映った。

 なんだこれ?うちのキッチンだ。

一瞬でその映像は、今おきている惨状に戻った。

何人もの人が、通路に横たわっているこの酷い状況で[死ぬ予定の人]と[まだ予定ではない人]の選別をしなければならない。

 この仕事キツい。【聞き取り課】の仕事は楽しかったのに。

そう思って、一緒に行動していた高山の方を見ると

 俺も。

と思っていた。


 熱田主任に従って、リストを見ながら、倒れている方々の足首に、赤い布、黄色い布、青い布のどれかを巻き付けていく。

赤い布は残念ながらすでに寿命の尽きた方、黄色い布は病院へ搬送後に治療の甲斐無く寿命が尽きてしまう方、青い布は重症でもまだ回復できる方。

こんな仕分けをする位なら、この事件を未然に防げなかったのか。そう思ったら涙が出てきた。

「矢野さん、残念ながら私共では寿命は決められないんです。こういう現場に来ると私もそう思うんですけどね。」

赤い布を足首につけた方の魂がふわふわと体から抜け出して、少しすると消えていく。きっと、あのエントランスへと転送されているんだろう。

私は高山に、

「私、この仕事続ける自信がない。」と弱音を吐いた。

高山も、疲れた顔で

「俺も。」と言った。

「一通り終わったので、社に戻りましょう。」

熱田主任はそう言いながらドアを開けた。


 【仕分け課】の執務室へと帰ってきた。熱田主任は、

「今日の業務はすごくヘビーな内容でした。私もあまり経験がないほどの酷さでした。初回にこの内容ではお疲れでしょう。」

と言って労ってくれた。

 春日課長が奥から、お盆に乗せたカップを3つ持ってきてくれた。

「3人とも、大変だったでしょう。これ飲んで。」

と、出されたのはホットココアだった。

「課長にココアを淹れて頂くなんて。」と恐縮していると、「早く飲んでごらんなさい。」

と優しい笑顔でそう言った。

 一口飲んで、私と高山は顔を見合わせた。

「何これ?」

驚く二人に春日課長は、

「私の特性ココアよ。鎮静効果があるから、ゆっくり飲むといいわ。」

と微笑んだ。なんだか、体の芯からじんわりと優しい気持ちが溢れてくるような不思議な感覚だった。

 春日課長のお陰で、さっきの辛い記憶が少し薄らいだ。この課の課長が女性で、しかも40代前半の容姿の春日課長であることが分かった気がした。


 その後は、特に大きな事件を取り扱う事もなく、高山とバディを組んで二人で病院や事故現場に仕分けをしに行く日々が続いていた。

「初日がアレだったから、こんな感じだとだいぶマシだよな。」

という高山に、私も激しく同意した。


今日も終業後、拓実と3階で待ち合わせをしている。そういえば、この所朝ごはんも拓実と一緒なので、おばあちゃんに会っていない。

3階に行く前にちょっとおばあちゃんに会って来よう。

そう思って、48階の【企画課】にいるおばあちゃんに会いに行った。

社員達が、どっとエレベーターに向かって出てくるのを待って、おばあちゃんを探した。

「しいちゃん。久し振りねぇ。【仕分け課】はどぉお?」

私が見つけるより先に、執務室から出てきたおばあちゃんが私を見つけてくれた。

「うん。ちょっと慣れてきたよ。おばあちゃんはどう?元気?」

「久しぶりに会ったのに、おばあちゃんはやめてぇ。」

「あ、そうだった。美代ちゃんは元気?」

「元気に決まってるじゃないのぉ。拓実君はぁ?今日もデートぉ?」

「うん。おばあちゃんも一緒に行かない?」

「遠慮しておくわぁ。あ、しいちゃん。私もうすぐ異動になるわよぉ。」

「え?どこに?」

「まだ内緒ぉ。出世するわよぉ。」

おばあちゃんから「出世」なんて言葉が聞けるとは。本当にお仕事頑張ってるんだな。

「決まったら、お祝いしてちょうだぁい。」

「もちろん。ちょっと贅沢なディナー食べようね。」


 おばあちゃんと別れて、3階へ向かった。そこには、もう拓実が待っていた。

「遅くなってごめん。おばあちゃんに会ってきたの。」

「大丈夫。そんなに待ってないよ。」

今日のディナーは韓国グルメだ。プルコギやサムギョプサル、チーズダッカルビ、サムゲタン、カンジャンケジャン、ユッケビビンバに、もちろんキムチの盛り合わせも。

「随分いっぱい頼んだね。でも私ヤンニョムチキンが好きなの。頼んでいい?」

「もちろん。」

「食べきれるかな。」

「しいちゃんなら余裕だよ。」

「またぁ。私のこと大食いモンスターとか言わないでね。」

「言わない…ように気を付ける。」

二人で笑っていると、ふわっと料理の数々が現れた。

「美味しそう♡」

「本当だね。さあ食べよう。」

 オーダーした量にちょっと心配はしたけど、食べ始めてみたら本当に余裕だった。

「ああ、お腹いっぱい。もう食べられない。」とお腹を擦っていると、

「しいちゃん、その後何か分かった?」

と聞かれた。

「何かって、私の死因?」

頷く拓実が、心配そうな顔をしている。

「実は、【聞き取り課】の最後の日にあったことを話していなかったんだけど、旦那と職場の先輩が会っていて…」

と、あの日の出来事を、順を追って全て話した。

「すぐに言わなくてごめん。心配かけると思って。」

 拓実は、下を向いて考え込んでしまった。

「ちょっと、俺の出来る範囲で調べてみる。大した事は出来ないけど。」

「ありがとう。」

拓実の真剣な表情が不安を呼び起こした。

「でも待って。調べなくても、私なんとなく分かってきたから。」


次回、高山が事件をおこしちゃいます。

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