番外編 転生後の二人
最終番外編です。
私、遠山翼
家族構成は、お父さん、お母さん、あと大学生でギャルのお姉ちゃん。
慶蘭高校1年生の15歳。軽音部所属。ピアノ担当。
なぜ、この高校の軽音部に入ったかというと、幼馴染みの峰岸涼太の影響だ。
峰岸涼太は高校3年生で私より2歳年上。隣の家に住んでいる。
小さい頃から気付くとずっと一緒にいる。
というか、私が涼太のする事を何でも真似してきた。
家族ぐるみの付き合いで、国内外の旅行なんかも一緒に行ったりするほど親同士も仲良しだ。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、性格良好と、悪いところがひとつもない。おまけに音楽的なセンスもめちゃめちゃある。
という訳で当然もの凄くモテる。
幼馴染というだけで、涼太のファンの女の子達から悪口や軽い嫌がらせを受けたりする事もあった。
そんな環境だったから、私は涼太を男として見た事がない。
というか、見ちゃいけないと思っていた。
「翼。この楽譜、明日までに暗譜しといて。」
「分かった。へぇ……これって涼ちゃんのオリジナル?」
「そう。明日皆んなで合わせてみたいからさ。」
と、抱えるギターをポロンポロンと鳴らす指がとても長くてセクシーに見えた。
やだ……なんで涼ちゃんの指見てセクシーとか思っちゃってるの、私?
急いで自分の考えたことを否定する私の表情を、親友の井上唯に見られていた。
唯はショートカットでボーイッシュだけど、美形な顔が目を引くモテ女子だ。中学の頃から彼氏がいて、その彼もまた美形で、軽音部でもアイドル的存在のモテ男子、竹内翔と付き合っている。
2人は誕生日が一緒で「私達まるで運命に導かれたようだよね。」とお互いに言い合い、私に「翼も素直になれよ」と言う。
私には2人が何のことを言っているのかが分からない。
「ねえ、これ明日までに暗譜しておいてって。」
と、2人にもバンドスコアを渡す。
唯はベーシスト。軽音部に入ってからベースを始めたのに、持ち前の根性で練習の鬼と化し、すっかりそこら辺のベーシストより格が上だ。
そして翔はドラマー。小さい頃から歌もダンスも大好きでスタジオに通っていただけあって、リズム感はピカイチだ。
「明日合わせるの楽しみー。」
「翼。私達帰るねー。」
「涼太先輩、また明日ー。」
「おう。じゃあ、翼。俺達も帰ろっか。」
「うん。」
いつもの帰り道、川沿いの土手を一緒に歩く。
立ち漕ぎする自転車の少年、犬の散歩をする女性。運動部の部活帰りの学生。
この人達にもこの人達の人生がそれぞれある。
なんだか、涼太と二人でのんびり歩いていると、生まれる前にもこんな事があった気がしてならなかった。
「なんか、今不思議な感覚。」
「ん?俺との関係の事?」
「え?何でわかったの?」
「秘密。」
涼太は夕日を浴びてキラキラ輝く笑顔で私の方へと振り向いた。
私はドキっとして涼太から目を逸らした。
「じゃあ翼、明日な。」
「うん。明日。」
玄関前で涼太と別れる。
あ、またこの感覚…
隣同士の家にいてお互いの家に帰っていく。
なんだろう…
凄く知っている、懐かしい感覚。
きっと気のせいだよね。涼ちゃんとは生まれた時からこうして一緒に帰って来る事が何回もあったんだし…
翌朝、玄関を出るとそこにはもう既に涼太が待っていた。
「遅ぇぞ、翼。走るぞ。」
「あ、待って涼ちゃん。」
「ほらっ。」と、私に伸ばしてきた手を何気なく掴んで走り出す。
なんか、恥ずかしい……
今までも手を繋ぐなんて沢山してきたのに……
放課後、軽音部の部室で昨日の涼太のオリジナル曲を合わせてみる。
部室の外には、涼太や翔目当ての女の子達が窓から覗いている。
「2小節目からもう一回やってみよう。」
「ごめん。俺、今ちょっと遅れた。」
「ごめん。私も間違えた。」
何度も繰り返し練習をする。
「最初に合わせた時よりも随分形になってきたな。この分なら学園祭に間に合うかも。」
「この4人で合わせるのは今年最後だもんね。涼ちゃん卒業しちゃうし…」
「また明日練習しよう。じゃあ、俺ら帰るわ。」
「涼太先輩、翼、また明日ねー。」
「ばいばーい。」
唯と翔は手を繋いで帰って行った。
今日も涼太と二人で土手沿いの道を帰る。
「ねえ、今日テレビでアメリカの話題の歌姫の特集やるって。」
「ああ、ジェニス・アンダーソン?」
「そうそう。彼女のおじいさんが超有名なシンガーだったんだって。彼女が生まれる随分と前に亡くなってるけど…」
「ふーん。」
「涼ちゃん、今日受験勉強で忙しい?一緒に観ない?」
「いいよ。じゃあ、俺の部屋に来いよ。」
「やった♡」
小さい頃から通い慣れた涼太の部屋にお邪魔する。
涼太は部屋のテレビを点けて招き入れてくれた。
テレビではすでにジェニス・アンダーソンが祖父の曲の「galaxy romance」を歌っていた。
最近はこの部屋には来てなかったので、随分と久し振りだ。
「なんか、涼ちゃんの部屋って全然変わらないねー。相変わらず涼ちゃんの匂いがする。」
「え?翼、ヘンな事言うなよ。」
「え?ヘンだった?
私、小さい時から涼ちゃんの部屋の匂い大好きだったなー。」
「おいっ。」
突然、涼太に手首を掴まれ引っ張られて、気がつくと涼太の腕の中にすっぽりと抱きしめられていた。
「涼ちゃん……?」
「お前……煽る様なこと言うなよ。」
と、見たこともない表情の涼太の顔が近付いて来た。
「煽るって?涼ちゃん、顔近い……」
最後まで言わせて貰えず、その代わりに涼太のキスが降ってきた。
「ごめん。イヤだった?翼のファーストキスは俺が貰うって勝手に決めてたから……」
男として見た事がないのに……
ううん、見ない様にしてきたのに……
「イヤ……じゃなかった……」
涼太は真っ赤な顔で私を突き放し、顔を背けた。
「翼……俺はいつもそのつもりだから……あんまり煽る様なこと言うなよ。」
もう一度、念を押されるように言われたけど、私には理解出来なかった。
煽るって?
涼ちゃんの何を煽ったの?
どの言葉が煽ったの?
そのつもりって、どのつもり?
「これ以上ここに居ると保証出来ないから、もう帰れ。」
私はまだ来たばかりなのに涼太の部屋から追い出されてしまった。
涼ちゃんとキスしちゃった……
何となく気不味くて、玄関を入るとお父さんやお母さんの顔を見れずに自分の部屋がある2階まで急いで駆け上がった。
「翼?もう帰ってきたの?」
階下からお母さんの声が聞こえる。
「う、うん。」
私は振り返らずに答えた。
「随分早かったじゃない。涼ちゃんと喧嘩でもしたの?」
「してないよ、別に。ちょっと宿題あった事思い出したから……」
そう言って部屋のドアを急いで閉めた。
同室のお姉ちゃんは今日も15歳も年上の彼の部屋に入り浸っていて帰ってこない。
今日、お姉ちゃんがいなくてよかった……
部屋で一人、お気に入りのぬいぐるみを抱きながら、さっきのキスと涼太の言葉を反芻した。
思い出す程に顔が赤くなるのが自分でも分かる。
私、涼ちゃんのこと……好きなんだ。
ずっと好きだったんだ。
そう自覚した途端に胸の辺りがほんわりと温かくなった。
何これ?
こんな感覚初めて。
こんな風に胸の辺りが温かくなったことない。
翌朝、いつもの様に玄関前で待っている涼太と登校する。
二人とも気不味さのあまり何も話せなかった。
教室では、相変わらず唯と翔が一緒にいる。
私は二人に近付き、
「おはよう。ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
と、昨日の涼太の発言について聞いてみた。
「涼太先輩の匂いが大好きって、それヤバいよ、翼。」
「男には殺し文句だね。私をどうにでもしてって言ってる様なモンでしょ。」
「そ、そうなの!?」
「で、翼。何も無かったとは言わせないわよ。」
「あ……」
「ふーん。キスはしたんだ。」
昔から親友の唯には何でもお見通しだ。
「何でわかるの?」
「やっぱり。カマかけてみただけなんだけど。」
唯はカラカラと笑った。
「それでね、涼ちゃんのこと考えると胸のこの辺が温かくなるの。」
「それ、俺も唯の事考えたり、キスしたりするとなるよ。」
「私もなる。」
「皆んななるものなの?」
「皆んなはならないみたいだよ。だから、私達だけかと思ってた。多分これ運命の二人だからじゃないかって翔と話してた。」
「じゃあ涼ちゃんは私の運命の人?」
「翼。素直になれよ。とっくに分かってたでしょ。」
「早く自分の気持ちに正直になれって。」
この日も、放課後に文化祭に向けての練習をする。
「コピー曲は形になったね。後は俺のオリジナルだな。じゃあ今日はこの辺で解散しよう。また来週な。」
「ねえ、涼太先輩。」
突然、唯が今朝の続きを話し出した。
「私と翔って二人でいると、胸のこの辺が温かくなるんだけど、涼太先輩もなる?」
「ああ、なるな。昨日の夜、いつもよりも強くそれを感じた。」
「ほらね。やっぱり。 だってよ、翼。」
「お前らもなるの?他のヤツに聞いても誰一人ならないって。」
「翼も昨日なったって。勘のいい涼太先輩ならどういう事か分かるでしょ。」
私は真っ赤な顔を悟られない様に涼太に背を向けていた。
涼太の視線は真っ直ぐに私の後ろ姿を捉えていた。
帰り道、朝に続いて気不味い二人はいつもより距離を取って歩いていた。
涼太を意識し始めた途端に恥ずかしくて仕方がない。
いつもは並んで歩いているのに、涼太の後ろからついていくように歩いていた。
「危ない!!」
突然、振り返った涼太の顔が黒く塗り潰されていく。
「涼……ちゃ……ん……」
私は事故にあい、意識を手放してしまった。
真っ白な空間で目が覚めた。
「ここは……どこ……?」
「お久しぶりです。神崎さん。
あ、今は遠山さんでしたか。」
「え?あなたは誰ですか?
神崎って……?」
「私は伏見と申します。神崎さんはあなたの前世のお名前です。早瀬さんとはもう逢いましたか?あ、今は峰岸さんでしたね。」
「涼ちゃんのこと?」
その時、涼太の事を考えると温かくなるところに、制服には似つかわしくない鎖に繋がれた美しく輝く石のネックレスがある事に気付いた。
石は半透明の白色に、薄いピンクと水色のマーブル模様の石をベースに、周りには細かい細工の金色の模様が縁取られている。
「何これ、綺麗。」
「それはベターハーフの石ですよ。その石の片割れは峰岸さんが持っています。早く結ばれるといいですね。
でも、あなたはまだ此処に来るべきではありません。
このドアを通ってお帰り下さい。」
さっきまでは無かった場所に光るドアが現れていた。
「さあ、早く。皆さん心配していますよ。」
私は言われるがままドアをくぐると、その時突然何千何万という画像が物凄い衝撃と共に脳に刷り込まれていった。
「うわっっ……」
その後目の前が真っ暗になった。
「翼!! 翼!!」
誰かが私の名前を必死に呼んでいる。
ゆっくりと目を開けると涼太の顔が真っ先に確認出来た。
「涼ちゃん……」
「ごめん。一緒にいたのに守れなくて……俺……」
涼太の目から安堵の涙が溢れた。
「心配かけてごめんなさい。」
「翼。あぁよかったわぁ。どうせあんたボーッと歩いてたんでしょう。涼ちゃんがすぐ救急車を呼んでくれて助かったわぁ。」
妹が事故にあって意識不明だったのに、この姉ってば……
「お姉ちゃん、お母さんとお父さんも……」
「唯ちゃんと翔くんも来てるわよ。」
「翼……よかった。」
唯が珍しく大泣きしている。
「翼……」
翔も堪え切れず涙していた。
「皆んな……心配かけてごめんなさい。」
数日の入院の後、私は無事退院した。
大盛況だった文化祭も終わり涼太の部屋で二人きりで打ち上げをした時、思い切ってあの出来事を涼太に打ち明けてみた。
「涼ちゃん。私、意識不明の間に不思議な体験したの。」
「真っ白な所に行った?」
「何で知ってるの?」
「俺、6歳の頃に高熱で死にかけたことがあって、その時にそこに行ったことがあるんだ。
帰る時にドアを通ったら、凄い量の記憶がインプットされて…だから俺、前世の記憶があるんだ。」
そう言えば、私も凄い量の画像が脳にインプットされた…それって…
ふと涼太の顔を見ると、知らないはずの、だけどなんだか懐かしい顔がダブって見えた。
「…拓ちゃん…?」
「やっぱり翼も前世の記憶が刻まれたんだね…
胸に石のネックレスをしてなかったか?」
「してた。半透明の白色に、薄いピンクと水色のマーブル模様の石だった。凄く綺麗だったよ。」
「それ、俺も同じ石を付けていた。ベターハー…」
「ベターハーフの石って伏見《《課長》》が言ってた。早く峰岸さんと結ばれるといいですねって…」
涼太に最後まで言わせず、被せる様に言った。
彼は柔らかく微笑んで、悟る様に呟いた。
「俺達、運命の相手なんだよな。俺は6歳の頃からずっと翼が俺のベターハーフって知ってたから、ずっと意識してたよ。」
「涼ちゃん…でも、涼ちゃん凄くモテるから…」
「翼…好きだよ。大好きだ。
……やっと言えた。」
涼太の飛び切りの笑顔に反射的に彼に抱き付き、我に返って急いで離れた。
「翼は?俺の事どう思ってるの?」
「わ、私も…好き…なんだと思う……」
消え入りそうな声でそう答えた。
「じゃあ俺、もう我慢しなくていいよな。」
そう言う涼太のキスの嵐を浴びてしまった。
10年後の今日、私は峰岸翼になる。
真っ白なドレスを着て、お父さんとバージンロードを歩こうとしている。
数メートル先に涼太が白いタキシードを着て待っていてくれる。
そんな私達を少し大きなお腹になった唯と、妊婦の奥さんをあたふたと気遣う翔が寄り添いながら見守ってくれている。
ギャルだったお姉ちゃんも、15歳年上の彼と幸せな家庭を築き、今や3人の男の子を持つママだ。やんちゃな甥っ子達をなだめながらバージンロードを歩くお父さんと私に笑顔を向けている。
私達もこの先何年も何年も一緒に歩んで行く。涼太と共に。
そして、この人生が終わってもまたあの真っ白な世界で一緒に過ごせるんだ。
私達の永遠の愛と共に---
-END-




