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ヘブンズ・カンパニー -天国で運命の人に再会しました-  作者: さがわウェンディフェリシア
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番外編 離れ離れの2年間

拓実のいない間のお話です。

拓実が転生して1年近くが経った頃。

私は早く転生をしたくて毎日がむしゃらに仕事をしていた。


「芳澤さん。神崎さんは最近頑張り過ぎているようですが、大丈夫でしょうか?」

過労死など無いこの世界で伏見課長に心配されるほど私には余裕がなかった。

頭では分かっている。転生さえすれば、今のこの気持ちは忘れる事が出来る。そして後は、来世の拓実とベターハーフの石で惹かれ合う運命は決まっている。

でも、拓実は今いない。また拓実に触れる事が出来るとしたら、来世に生まれて、成長して、出会って、関係を築いてと段階を経ないといけない。


「詩織さん。伏見課長が心配してましたよ。少し肩の力を抜いてみましょうよ。」

「ありさちゃん、ありがとう。でも、私……早く拓実に会いたくて……」

「気持ちは分かりますよ。一緒に転生するはずだったのに、システムの不具合で引き離されちゃったんですもんね。」

拓実の転生を見送った直後はまだ前向きな気持ちでいられた。

でも、やはり時が経つにつれ寂しさが増してくる。


拓実に触れたい。


気を遣ってくれてはいるものの、芳澤ありさとケントくんを見ていると羨ましくなる。

私も隣に立っていてくれた拓実の存在の大きさを改めて感じていた。


「神崎さん。」

伏見課長に呼び止められた。

「はい。」

「あの……最近、神崎さんの仕事に対する姿勢は素晴らしいと思います。ですが、もう少し視野を広げてみませんか?」

伏見課長はいつも優しい。時々的を射ない発言もあるけど、基本的には見守ってくれていて感謝しかない。

「視野を広げるとは……?」

「もう少し気楽にお仕事に向き合って頂ければと思うのですが。」

「ご心配お掛けして申し訳ありません。ありがとうございます。」

「いいえ。お礼を言って欲しいのではなくて……その……」

伏見課長は少し躊躇ってから

「神崎さんに私の補佐という役職をお願いしても宜しいですか?」

「私が? 課長補佐に……ですか?」

「はい。」

「でも、【振り分け課】には櫛田チーフがいらっしゃるし、管理職の人手が足りていないようには思えませんが……」

「あ、いえ、その……課長補佐になればお給料の【トク】が多少なりともアップしますよ。」


なるほど。課長は私の気持ちを汲み取って1日も早く転生出来るようにと考えてくれたんだ。

そう思うと有り難さで涙が頬をつたってこぼれ落ちた。

「課長。ありがとうございます。でも……」

「心配には及びませんよ。仕事内容は今までと変わりませんから。」


 

翌日、受付ブースに座るとすかさず隣に座った芳澤ありさから

「詩織さん、出世おめでとう。今夜はお祝いしましょ。」

と、言われた。

この世界には芳澤ありさの方が先に来ていたのに、課長の気遣いとはいえ、私の方が先に出世というのは順番的に申し訳ない。

「またぁ、そんな事考えて……そんなの関係ないですよー。

上司とか部下とか、どうでもいいじゃないですか。私と詩織さんの仲でしょう。」

「……ありがとう……ありさちゃん。」

また危うく泣きそうになって、ふと顔を上げると芳澤ありさの驚いた顔が目に映った。


「早瀬さん……」

芳澤ありさの視線の先に目をやると、そこには拓実が立っていた。

いや、正確にいうと、拓実によく似た人が立っていた。


「拓ちゃん……」


呆然とする私達二人に、彼は書類を差し出し

「あの……窓口は、ここで間違いないですか?」


芳澤ありさが担当したその男性は、生前ケントくんがいた事務所に所属していたが、ライブのリハーサル中に落下した照明機材の下敷きになるという痛ましい事故で亡くなったという売り出し中のアーティストだった。


自分の受付区分の呼び出しをするのも忘れ、芳澤ありさが説明しているその相手の男性に釘付けになっていると、

「あの……俺の顔に何か付いてますか?」

と聞かれてしまった。

「あ、ごめんなさい。あまりにも知り合いによく似ているものですから……」

「そうでしたか。では。」

と言って、彼は2階の入社式へと向かった。


「詩織さん。あの人、めっちゃ早瀬さんに似てましたね。」

私は衝撃を受け過ぎて上手く返事が出来なかった。


その日の終業後に芳澤ありさとケントくんがお祝いに3階の居酒屋さんで出世祝いをしてくれた。

「詩織ちゃん、おめでとう! 聞いたよ。課長補佐だって?」

「ありがとう。でも、課長が気を遣ってくれた結果で、実力ではないの。」

「そんな事ないよ。早瀬さんが転生してから詩織さん凄く頑張ってたもん。」

3人で乾杯をしてほろ酔いになってきた頃、芳澤ありさが話しだした。

「そういえばね、今日受付した人で早瀬さんにそっくりな人がいたの。その人ね、歌手の人でケントと同じ事務所だったみたい。」

「へぇ。なんて人?」

山之内(やまのうち)(ひろ)って人。」

「山之内紘?知らないなぁ…俺の後輩だよね?」

「新入社員の子達がキャーキャー言ってたから、そこそこ有名人みたいだよ。私達が死んだ後に有名になったんだろうね。」

私は二人の会話を黙って聞いていた。

嫌でも拓実を思い出してしまうあの容姿。「でも彼は別人」と自分に言い聞かせていた。

 

それからさらに2か月が過ぎようとしていた頃、【振り分け課】に山之内紘が配属されてきた。

案内係の仕事に就いてもらうために、課長補佐である私に指導係(メンター)を任された。

「神崎です。今日から案内係のお仕事に慣れていただくためにメンターを任されました。分からないことは何でも聞いてください。」

「宜しくお願いします。あの…早速ですが…」

「はい。なんでしょう?」

「下のお名前を教えてください。」

「え?」

「神崎さん、俺がここに来た日に俺の事ジッと見てましたよね?俺も神崎さん、綺麗な人だなと思ってました。」

彼は拓実と同じ目をして私を見つめた。

「あの…待ってください…困ります。」

戸惑う私ににじり寄り手を握ってきた。

「止めてください!」 

手を振り払うと同時に、胸元のベターハーフの石が凍り付くように冷たくなった。


「なんだよ!俺の事好きなのかと思って切っ掛けを作ってやろうと思ったのによ。」

「止めて!拓ちゃんと同じ目をしてそんなこと言わないで!!」

私はその場から逃げてしまった。


仕事なのに…戻らなきゃいけないのに…


「神崎さん…申し訳ありません。」

ふと声を掛けられ振り返るとそこに伏見課長が立っていた。

「すいません。私…職場放棄してしまって…すぐに戻ります…」

伏見課長は

「私の配慮が足りませんでした。申し訳ありません。彼に早瀬さんの面影を抱くことは容易に想像が出来ましたのに…」

「始末書…書きます…」

と、私の反省の弁に

「必要ありませんよ。彼にはすぐに別部署に移って頂くように申請します。」


数日と置かずに、彼はべつの課へと異動していった。


後で聞いたところ、伏見課長が長い長い始末書を書いて申請してくれていたらしい。


次は二人共転生後のお話になる予定です。

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