拓実の転生
拓ちゃんが転生しちゃう…
隣にいる芳澤ありさが心配して何か言ってくれているけど、私の耳には全く届かない。
仕事が全く手につかなかった。
というか、伏見課長から
「神崎さん、仕事している場合ですか? 早く早瀬さんと話をしに行ってください。」
と言われ、37階の【開発課】へと向かった。
下鴨課長と真剣に話している拓実を見つけると、下鴨課長が私に気付き彼に知らせてくれた。
拓実は私の方に振り向いて、下鴨課長に軽く会釈をしてから執務室から出てきた。
「詩織。」
私の名前を呼んで、ぎゅっと抱きしめられた。
「ちょっ…皆見てるよ…」
口ではそう言ったものの、私も拓実に思いっきりしがみつくように抱き付いた。
包み込むように抱きしめてくれている拓実が小刻みに震えている。
違う……震えているのは私の方だ。
「拓ちゃん……拓ちゃん……」
人目も憚らず泣き叫ぶように拓実の名前を呼んだ。もう涙を押さえることは出来なかった。
拓実は私の両肩に手を置き、顔を覗き込むように静かに言った。
「詩織、ごめん。
下鴨課長が許可してくれたから場所をかえて話そう。」
私が号泣することを踏まえて、住居棟の拓実の部屋へ行くことにした。
「拓ちゃん…私…どうしたら…離れたくないよ…」
「詩織…俺だって…俺も詩織ともう暫くここで過ごしたかった。」
二人共抱き合ったまま暫く言葉が出なかった。
震える手を拓実の胸に置きながら、やっとの思いで声を絞り出す。
「どうにか出来ないのかな…」
「…たぶん無理だと思う…」
「いつになるの?」
「俺だけじゃなくて、結構な人数が転生することになるから、順番的に2日後になるらしい。」
「そんなに早く……」
それ以上はもう何も言えなかった。
ただただ二人で抱き合って眠り、抱き合って話をし、たくさんのキスをして、二人だけで過ごしているうちにその日を向かえてしまった。
二人でベッドの上でコーヒーを飲んでいると、拓実のストラップが光った。
おそらく転生室へ行かなければならない時が来たという連絡だろう。
「はい。早瀬です。
はい…はい…わかりました。」
行かないで…
行かないで…
行かないで…
拓実には声に出さずとも伝わってしまっているが、私は決して口に出さずにいた。
絶対に口にしてはいけないと思っていた。
拓実は私の腕を引っ張り、きつく抱き寄せた。
「詩織、好きだ。ほんの少しだけ離れるだけだ。どんなことがあっても、これが俺たちを引き寄せてくれる。」
と、首元からベターハーフの石を取り出した。
私も同じように首元からベターハーフの石を取り出し、拓実の石に合わせてみる。
途端に、石が二つに分かれた時と同じように、キラキラと乱反射をしてまばゆい光を放った。
「石が…光った。」
「この石がお互いに引き寄せてくれる。 俺たちは大丈夫だ。」
拓実は自分に言い聞かせるようにそう言うと10年ほど過ごした自分の部屋を見渡した。
「今までありがとう。またこっちに来たら宜しくな。」
そう呟くと、ストラップを一振りして、快適だった自分の部屋をデフォルトに戻した。
そして部屋のドアの前でストラップを振ると最上階の転生室への扉と繋がった。
おばあちゃんが転生した時に一度来たことがある眩しいほどに光が満ちたこの部屋は、私の心臓を早打ちさせた。
いよいよ…
そう思うと、涙が止まらない。でも、笑顔で拓実を送ろう。そうしよう。
部屋の中央にある魔法陣の円が下からスポットライトが当たるように光を放っている。
拓実がお世話になっていた下鴨課長が転生見届け人として同席してくれている。
「早瀬君。今回の事は本当に申し訳ない。システムの不具合で強制となってしまったことをお詫びします。」
「謝らないで下さい。今回の戦い自体、黒田澄香に恨みを持たれた自分のせいです。他の強制転生の方々に申し訳なく思います。」
「早瀬君のせいではありません。それは決して気負わないで下さい。」
魔法陣の光はどんどん強くなっていた。
次回最終話です。
次回更新は明日3月31日7:00の予定です。




