草薙の剣
地下13階の大扉を突破される少し前、光のコートを着込みながら、伏見課長に『知恵の派閥』の話を聞いていた時。
もう少しで大扉のセキュリティのアップデートが間に合わなかったことについて、
「セキュリティのアップデートは、時間調整でやり直すことはできないんですか?」
と聞いてみたが、時間調整というのは現世に対してのみ発動できるもので、こちらの世界には有効にならないとのことだった。
残念ながら、もう間もなく大扉が突破されるのは時間の問題確定である。
「あの…もっと強い武器ってないんですか?
ラヨンラゼールとストラップの武器だけで大丈夫なんでしょうか?」
「あるにはあります。たった一つだけですが。八幡課長が手配していると思います。
それは、素戔嗚尊専務がヤマタノオロチを倒した時に使われた剣で、天照日本支社長から瓊瓊杵尊本部長へと受け継がれ、現在は熱田神宮に祀られている物をお借りしてきているはずですが…
『みくさのかむだから』、またの名を…」
「三種の神器」
「そう、その通りです。よくご存じですね。その草薙の剣を八幡課長が用意しているはずです。」
「さ…三種の神器をお借りしちゃうんですか…?」
「はい。ですが、敵の襲来はどの位の人数で来るかは分かりませんし、アザゼルがどのような作戦を持っているかも分かりません。たった一つの剣でどの位の抵抗が出来るかは分かりませんが…」
伏見課長は、鎧を身に纏っているの忘れているのか、メガネを押さえようとする仕草をして慌てて止めた。
「私達、どうなるんでしょうか?」
不安気な私を見て、
「大丈夫ですよ。私達は絶対に勝てます。」
そう言ったのは芳澤ありさだった。
エントランスでは、化け物と化した黒田澄香に一斉に攻撃をしかけている。
妙見課長をリーダーに、伏見課長も、春日課長も、諏訪課長やその他の課長達、そして、護身術部のメンバーである芳澤ありさやケントくんも、松下も。大勢で敵に向かって同じ思いで攻撃をしていた。
「鱗が剝がれてきた。効いてる。このまま一気に押すぞ。」
絶対に勝つ。
何度弾き飛ばされようとも悪に屈しない正義がそこにあった。
「やばいな…早瀬君の意識が朦朧としてきている。
でも、あの傷口が鱗で塞がれる前に攻撃しなくては…」
エントランスでの攻撃が効いてきたのか、拓実を抱えたままの黒田澄香が苦しみ出し、もがき暴れ始めた。
執務室で暴れているので、書類が散乱したり、色々な機器を破壊している。
「ヤバいですね。よりによってここは寿命管理課なので機器が壊されると後々支障が出ます。」
黒田澄香がもがき苦しみながら、最奥にある一番大きな機器に体当たりをした衝撃で煙が濛々と立ち始めた。
その隙をついて、拓実が朦朧としながらも黒田澄香の蜷局から逃れ、草薙の剣を手にした。
一瞬剣が光を帯びた後、拓実は黒田澄香の頭の一つを確実に斬り落としていた。
うぎゃああああああああ!!
残り一つの頭しかない黒田澄香はもがき苦しみながら、またも拓実を捕えてしまった。
「かなり弱っているが、早瀬君を捕えられていると攻撃が出来ない。」
八幡課長や下鴨課長が作戦を考えようとしていた時、
「詩織…撃て…」
拓実は絞り出すように言った。
「でも、私ラヨンラゼールを壊されちゃったし、ストラップボウ苦手だし…
拓ちゃんに当ったら…」
「俺は大丈夫だ。」
「しかし…早瀬君。君の身が危ない。」
「俺は…詩織を…信じ…ています…
詩織…思い出せ…俺たちは何度か生まれ変わる前…知恵の派閥で戦ったこと…」
今にも意識を失いそうな拓実が私の目を真っ直ぐに見てそう言った。
「生意気な!!そんな小娘に何が出来るのだ!!」
黒田澄香はもがきながらも拓実を締め上げ、私に向かって冷たく凍りそうな視線を向けている。
「詩織!撃て!!」
私は首元に何か温かい物を感じて、気が付くとストラップボウを構えていた。
次回は、来週月曜日AM7:00更新予定です。




