今昔物語
出雲課長救出作戦開始前に、全課に住居棟の自室に籠るよう通達があった。
社内の館内放送では、繰り返し同じ文言が叫ばれていた。
「住居棟への扉は、どんなに攻撃されても敵には開くことが出来ません。安全です。
万が一の事態に備えて自室で待機願います。 部屋からは決して出ないようお願いいたします。
繰り返しお伝えいたします。
住居棟への扉は、どんなに攻撃されても敵には開くことが出来ません…」
地下13階の例の扉は、敵襲来を予測してのセキュリティ強化システムが間に合わなかったため、大至急ラヨンラゼールを増やすというアナログな強化を試みた。と、同時に出雲課長の救出作戦も実行された。八幡課長達はいつものように、いとも簡単に救出し、出雲課長も事なきを得た。
「セキュリティのアップデートのために、ドアの機能は一時凍結しています。ですが、多数で襲来されるとそう長くは持ちません!」
課長達は各自、光の鎧を身に着けラヨンラゼールを携帯して戦闘態勢を取っていた。八幡課長や妙見課長のそれは何度も見ているが、伏見課長や下鴨課長、そして春日課長までもが光の鎧に包まれていた。
それどころか、私達護身術部のメンバーまでもが何故か光のコートを着せられている。
「あの…課長…私達も戦いに参加するってことですか?」
私は伏見課長に聞いたのだが、横にいた芳澤ありさに、
「詩織さん、当たり前じゃないですか。何のために護身術部で練習してきたと思ってるんですか。」
と、なんだか怒られた。
「神崎さん。危険な目に合わせて申し訳ないです。私達課長クラスが最前線で戦いますが、皆様にはサポートに付いて頂くことになります。」
伏見課長は、鎧の中にかけている眼鏡を押し上げながらそう言った。
私は、常々思っていたことがあった。
「あの、伏見課長…私達は病死や事故死の方たちと何が違うんでしょうか?
なぜ、護身研修があったり、このような非常事態に駆り出されるんでしょうか?」
私の疑問に、横にいた芳澤ありさも
「そう言えばそうよね。」
と、可愛らしく小首を傾げて同意していた。
伏見課長は、
「早瀬さんから聞いていないんですね?」
と驚いた顔で、聞き返してきた。
「そうですか。
話せば長くなりますが…
昔、ヘブンズ・カンパニーとヘルズ・コーポレーションには垣根が全くありませんでした。
というより、一つの会社、いえ、会社という認識もない時代の話です。
当然、現世から送られてくる人々は一つ所に集められていました。
そんな中、段々と派閥という物が出来上がってきました。悪の力に対し、脅しに屈する方々が現れ始めました。
この世界は荒廃し、悪を振りかざす力の強い者が、全てを手に入れられる事が当たり前の時代になりました。
そして、いつしか『これではいけない』と、知恵のある方々の派閥が出来上がりました。その派閥には、弱気を助け、悪しきを撃つという真っ直ぐな正義がありました。
悪しき者達は、知恵の派閥を疎ましく思い、あらゆる悪事を尽くし、知恵に抗いました。
しかし知恵の派閥は悪には屈しませんでした。
その派閥の魂こそがあなた方です。
悪しき者達の勢力拡大を抑えるために、古くからの神々によって、ヘブンズ・カンパニーが設立されました。ギリシャ支社のゼウス支社長や、日本支社では天照支社長ですね。
ヘブンズ・カンパニーに対抗して作られた会社がヘルズ・コーポレーションです。この会社設立で分断されたために、力に屈する方々の存在を無くすことが出来ました。徐々に各国にも支社が置かれるようになり、この会社も随分と整備されてきました。そして派閥という認識も無くなったんです。
ですが、ヘルズ・コーポレーションでは、未だにその知恵の派閥が許せずに、現世で殺されてしまう事案が繰り返されているんです。」
「繰り返される?私達は生まれ変わっても、また殺されるという事ですか?」
「はい。残念ながら……しかし、そうならない手立てもあります。」
「手立て?」
「はい。魂のリセットです。
お二人は、3階にあるアミューズメントパークに赴いたことはありますよね?その中にある桃源郷にも赴いたことはありますね?」
「はい。」
私も、芳澤ありさも、ショッピングモールの無差別殺人の被害者である松下啓介に襲われた時に行っている。ま、私の場合はそれが二度目だったが。
「その桃源郷にある温泉の一つに、魂をリセットする泉があるんです。」
「なんだ。そんな簡単な方法でリセット出来るんですね?」
私も芳澤ありさも、どんな無理難題が来るのかと構えていたが、意外な程の簡単なリセット方法に拍子抜けした。でも、これには続きがあった。
「ただし、リセットというには来世からの魂の過ごし方もリセットされるという事です。
ご縁のある魂もリセットされるので、例えば神崎さんで言えば、お世話係だった神崎美代子さんや、ベターハーフの石のお約束をされた早瀬拓実さんとの来世での接触もリセットされてしまうんです。」
「そ…それは…」
私の顔色がみるみると青くなっていったんだろう。芳澤ありさに
「詩織さん、大丈夫?」
と顔を覗き込まれ心配された。
「私もリセットはイヤ。一人になりたくないし。詩織さんもだよね?だったら来世も殺人でこっちに来ても仕方ないと思っちゃうな。」
来世も殺人事件に巻き込まれての死因確定とは…
拓実ってば、知ってたんなら言ってよね
次回は、来週月曜日AM7:00更新予定です…たぶん←




