部長階級の存在
小杉かなは、その日眠りが浅く、これ以上横になっていても眠れないと諦め、野中の腕を解いて薄いガウンを羽織ってベッドから立ち上がった。
「かな?」
野中健太郎も同様だったようで、二人で過ごせる最後の朝を楽しむことにした。
キッチンとは名ばかりのスペースにあるカウンターでストラップを一振りすると、カップが二つ現れた。
コーヒーメーカーにカップ二つを差し込んで、またストラップを振る。
「かなは、カプチーノでいい?」
「うん、ありがとう。」
カーテンを開けると、まだ薄明るい。ヘブンズ・カンパニーでは、日の出や日の入りという概念はないが、下の世界の日本時間とともに明るくなったり暗くなったりするシステムになっている。
二人で窓際のソファに座り、コーヒーを飲みながら少しずつ明るくなる窓の外を見ていた。
「健太郎。ありがとう。私、悲観的なことは言わないで、送り出すね。」
「かな。俺、何もしてやれなくてごめん。」
野中は立ち上がって、リビングのローチェストの引き出しから何か出してきた。
「これなんだけど…受け取ってくれるかな?」
野中が差し出してきたのはベターハーフの石だった。
「え、いいの?だって奥さんは?」
「いいんだ。俺にとっては、現世での妻より君の方が大事だから。次の人生もかなと生きたいと思っているんだよ。」
「でも、奥さんに悪いから…」
「彼女にはずっと、俺よりも好きな人がいたんだ。ずっとそれを知ってたけど気付かない振りしてきたんだ。俺が死んだあと、彼女は再婚したと思う。」
野中の選んだ石は海のような青い石だった。
「綺麗…」
「OKしてくれるなら、そっちの鎖を持って。」
「もちろん。」
ふたりが持った鎖が二本付いた石は、美しく輝いてから二つに割れた。
「これで、これからもずっとかなと俺は二人で一つだね。」
「嬉しい。ありがとう。私もすぐに後を追って転生するわね。」
「無理はするなよ。待ってるから。大丈夫だから。」
翌日、案内の仕事を晴れやかな顔でしている小杉を、芳澤ありさと私は捕らえた。
「小杉さん。大丈夫なの?今日もお仕事お休みすればよかったのに。」
「ご心配ありがとう。これ貰ったから大丈夫なの。」
と、胸元から鎖を引き上げて海のような青い石を見せてくれた。
「きゃーーーー♡ 綺麗!!野中さんってばやるぅ♡」
「私も、【トク】貯めて、1日も早く転生するわ。お仕事頑張らなくっちゃ。」
小杉は笑顔で石を握りしめて、案内の仕事へ戻って行った。
「ありさちゃんもベターハーフの石が欲しくなっちゃったんじゃないの?」
「ああ、私は重いからいらないかなー。縁があるなら来世でも会えるだろうし…ケントくんは【トク】貯めて購入しようとしてるみたいだけど。」
ケントくん…立場弱っ…国民的アイドルだったというのに、完全にアドバンテージとられてるし…
「そうだ。私達が磐長部長にお話しをしてもらったことって、伏見課長に報告しないとダメじゃない?」
「そうだね。報告しに行こう。」
34階のドアを開け、伏見課長を探した。
課長はいつものように自身のデスクで書類に埋もれていた。この世界ではこれだけ散らかせる方が大変だと思う。
「伏見課長…この書類片付かないんですか?整理整頓しましょうよ。ストラップ振れば簡単に…」
「ああ…待ってください…大事な書類が…何が何だかわからなくなっちゃうんで…やめてください…」
芳澤ありさは本題よりも先に伏見課長に難癖をつけ、その上、伏見課長に懇願された。
「伏見課長…お話が…」
私は、改めて本題に入る。
「それは、磐長部長との懇談の件ですか?」
「あ、ご存じだったんですね。」
「はい。磐長部長から報告がありました。」
ヤバい…報告が遅れたのに、よりによって更に上から上司へ報告って…
青ざめる私達に伏見課長は、
「あ、大丈夫ですよ。磐長部長から、ご立腹とか叱責の意味で報告されたのではありませんから。」
「ほんとですか?」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫です。」
「伏見課長のいつものズレてる感覚とかではないですよね?」
…ありさちゃん…言い過ぎ…
「よかったー。 っていうか、部長って鈿女部長以外にもいらしたんですね。」
「もちろんです。他にもたくさんいらっしゃいますよ。よく知られているところで言うと、武力のエキスパートの八幡課長や妙見課長を取り仕切っている日本部長とか、それから伊邪那岐部長や、伊邪那美部長も有名ですよね?」
え? ええっ? ええええええーーーーっっ!?
部長クラスってもしかして…神様と呼ばれる方々?
日本部長ってヤマトタケルノミコト???
伏見課長の一言で、芳澤ありさと私は腰を抜かしてしまった。
元、銀行マンの野中は無事転生しました。
っていうか、ヘブンズ・カンパニーって神々がいらしたんですね。。。
次回は、来週月曜日AM7:00更新予定です。




