SS 私のアイドル 1
芳澤ありさのSS前編です。
私の小さい頃の夢は、月に変わってお仕置きをするあの美少女戦士になることだった。
初めてテレビで見て以来、ずっと憧れていた。でも私には、タキシードを来たあの「彼」は必要なかった。ただ自分が強くなりたかった。
小学校の頃は、友達は皆男の子だった。掃除の時間にはよく箒と塵取りで戦っていた。大抵の男の子には勝ってたし、泣かせたこともあった。
でも、どうしても勝てない子がいた。律くんという子にはどうしても勝てなかった。
「ねえ、律くん。なんでそんなに強いの?」
「ボク、剣道習ってるんだ。だからだと思うよ。」
「ケンドウ?」
私はこの時まで、剣道というものを知らなかった。
家に帰るとすぐに、
「お母さん。私、剣道習いたい。」
と、お願いをした。
それまで自分から何かしたいと言ったことがなかったので、母は嬉しそうにすぐ近くの道場に連れて行ってくれた。
「あ、いた。律くーん。私も習うことにしたよ。」
入会するなり律くんの所へ飛んでいった私を見て、
好きな子と一緒に通いたかったのね。
母は勘違いをしたようだ。
剣道のお稽古は厳しいけど、とても楽しかった。どんどん強くなっている気がした。
そういう気持ちの持ち方をしていると、実力にも表れる。
私は、地区大会で準優勝するまでの力を身に付けた。
「ありさちゃん、凄いね。始めて間もないのに準優勝するなんて。」
「そういう律くんは優勝じゃない。」
悔しかった。どうしても、律くんには敵わない。
中学に入学すると、男の子の友達は意識をし始めて離れて行った。日々闘う遊びをしてくれる仲間が、アイドルの話ばかりをする女の子達に変わっていった。
「ねえ、昨日のLステ見た?」
「見た、見た。ケントくんかっこよかったよねー。」
女子中学生の私からみたら、20代も後半のアイドルはオジサンに感じる。私にはどこがいいのかさっぱり分からない。でも、友達を失いたくはないから適当に相槌を打っていた。
「ありさちゃんは誰が好きなの?」
「ええっ…選べないかなぁ…」
「そうなの?私はケントくん。」
「私もぉ。」
「私はリュウくんだなー。」
「ジョーくんもいいよね。」
なんか、ストレスが溜まる…そんな鬱憤を週に2回剣道で汗を流すことで発散していた。
相変わらず、律くんは強い。まだ一度も勝てたことがない。
「ありさ。俺、そろそろ受験の準備始めるから、剣道辞めるわ。」
そう言って律くんは道場へ来なくなった。
「なによ。辞めるならその強さ私に置いて行きなさいよね。」
私は受験生でも休むことなく道場に通っていた。
「ありさ、おめでとう。第一志望の公立高校に受かってよかった。剣道休まないから大丈夫かしらと思っていたけど。」
「剣道を休まなかったからこそ集中力があったんじゃない。」
まだまだ剣道を辞めるつもりはない。大学受験でも休まずに通った。
第一志望の大学に受かった。それもこれも剣道の精神で乗り越えたからだろうと私は思っていた。
大学生生活が始まると一人暮らしを始めて、サークルに入ったり、課題をこなさなければならなくなって剣道から足が遠のいていた。
そんな時、友達からミュージカルのチケットを貰ったので観に行った。
『闘剣士、舞い踊る』
そんなタイトルだった気がする。忘れてしまったけど。
正直、来なければよかった。時間の無駄だったと、思っていた。ジョリー事務所のタレントたちのアイドルミュージカルだった。
剣を冒涜するようにただ振り回している連中の中に、一人美しい剣筋の剣士がいた。
思わず、隣で見ていた友達に、
「あれ、誰?」
と聞いたら
「ああ、あれはストーム&ハリケーンのリュウくんだね。国民的アイドルなのに知らないの?」
と言われた。
ふーん、あれがストーム&ハリケーンか…いや、散々お喋りに付き合わされたから存在は知ってたけど。
その日以来、私はアイドル雑誌を買ってリュウくんの記事を読むようになった。
「やっぱり。彼も剣道やってたんだ。だから美しい剣裁きだったんだね。」
遅ればせながら、アイドル好きへとデビューを果たした。
リュウくんの影響もあり、久し振りに竹刀を振りたいし師範にも会いたいと思い、道場へ向かった。
「ありさ。久し振りじゃないか。汗を流しに来たのか?」
「はい。ご無沙汰していて申し訳ありません。お手合わせお願いします。」
「お前の相手なら、そこにいるぞ。」
ふと、見るとそこには高校受験で辞めて行った律くんがいた。
「あ、久し振り。また剣道始めたの?」
「そうなんだ。高校受験も大学受験もあまり上手くいかなくて。俺にはやっぱり剣道かなと思って。」
私は久し振りだというのに、律くんに圧勝してしまった。
小さい頃から、どうしても勝てなかった律くんにとうとう勝てた。嬉しかった。嬉し過ぎた。
大学からの帰り道、数日前から人が付いてくる気配がある。
気持ち悪いな。
時々、立ち止まったり電話をかける振りをしながら振り返る。
誰もいないか。
気のせいだった。そう思っていた。
次回芳澤ありさのSS後編は、明日の更新予定です。




