ベターハーフの石
こちらの世界には、下の世界で生活していた時の「誕生日」という名の、下の世界に産まれた日を祝う習慣がない。というか、忌日を経ているのに、誕生した日は最早何の意味もない。かといって、死亡した日を祝うという事なんかありえない。
じゃあいつお祝いをするかというと、個人的な日ではなく、年末の干支交代の日、お正月やクリスマス、(クリスマスは日本では祝う対象ではなかったが、近年、下の世界には元来の意味とは全く変わってはいるものの、家族や恋人たちで過ごす大切な日として根付いているので、この世界でも何となく祝うようになっている。)桜の咲く頃に行う春の宴の日、秋の実りの日を祝ったりもする。
秋の実りの日のお祝いというのは、下の世界の農作物を頂くことで五穀豊穣の喜びを感じるというだけのものだ。
いつもながら、どの食事も美味しく頂いているとは思うけど、さすがに取れたての山の幸は格別だと思う。こてこての味付けが無くても、素材の旨味だけでも感動物だ。米や麦、豆や山菜、それから茸。
「ねえ、拓ちゃん。これ美味しいよ。一口食べてみる?」
「茸のホイル焼き?美味しそうだね。あーん。」
拓実は私の方を向いて口を開けて見せた。
「何それ?食べさせて欲しいの?」
「うん。食べさせて。あーん。」
甘えモードの拓実の口に舞茸を放り込んだ。
「しゃきしゃきしてて美味しいね。詩織にもほら、これ。あーん。」
そう言いながら山菜おこわを一口差し出してきた。
「あーん。」
なんか、食べさせるよりも受け手の方がよりハズい…
このところの拓実は、生前付き合っていた頃より数千倍甘々な人になっている。私も甘々は嫌いじゃないけど、人前ではバカップルに思われるので困る。
20代前半に付き合っていた時は、むしろもっと大人な付き合い方だった気がする。何が拓実を甘々に変えたんだろう?
「詩織。俺は詩織とずっとこうしていたい。転生しないで一緒にこっちの世界に残るのもいいかもな。」
拓実の何気ない呟きで、ふとこんな穏やかな生活がずっと続くのもいいかもしれない、と思っていた。
「あのさ…」
珍しく拓実が言い淀んでいる。
「何?どうしたの?」
すると、ポケットから何やらゴソゴソと小さな箱を出した。
「これ…開けてみて。」
受け取った小さな箱は、赤いベルベットの布が貼られ、その上から金のアラベスク模様が施されて、上面の中心部分にはクラウンのような飾りが付いている。
「これって…」
どう見ても、下の世界でプロポーズの時に跪いて、パカッと差し出すあの箱に見える。
「あ、待って。やっぱり返して。」
取り上げられた…期待させといて「やっぱ、やぁ~めた。」と言われたような気がした。
拓実は椅子から立ち上がり、私の傍らにやって来て、徐に跪いた。
「この世界にずっといるにしても、来世に転生するにしても、これから先の詩織の人生、俺とずっと一緒にいてください。」
そういうと、さっき取り上げられた箱を開けて見せた。
左手の薬指を差し出す気満々だったのに…ダイヤの指輪…じゃない…?
「え?何これ?」
「ベターハーフの石だよ。」
「ベターハーフの石って、おばあちゃんがおじいちゃんから貰ったって言ってた、あの…?」
拓実は私の目を真っ直ぐに見つめて頷いた。
半透明の白色に、薄いピンクと水色のマーブル模様の石をベースに、周りには細かい細工の金色の模様が縁取られている。
「ペンダント?チェーンが二つ付いているけど…」
「詩織がOKしてくれたら、この石は二つになるんだ。」
何のことやらさっぱり分からなかったけど、この先ずっと拓実といることは私の希望でもあったので、思いっきり頷いた。
「よかった。じゃあ、これ。」
拓実が両手に1本ずつチェーンを持って、その片方を私に持つように促した。
2人で持った石は、キラキラと光り出し七色に乱反射を起こしたかと思ったら、二つに割れた。
「この石の片割れは、他には絶対にぴったりと合うものは存在しない。この二つで一つの石になるんだよ。」
拓実は立ち上がり、私の首にベターハーフの石の片方をかけてくれた。
「詩織も俺にかけて。」
言われるがまま、私も拓実の首にもう片方をかけた。
店にいた他の客は、二人のこの出来事に拍手をしてくれていた。
椅子に座ったままだった私の頭をそっと抱きしめながら、耳元で
「ああ、緊張した。断られたらどうしようかと思ったよ。」
と、小声で言うので
「断るわけないじゃない、バカッ。」
と涙目でツッコんでやった。
前回の宣言通り、拓実満載でお送りしました。
次回の更新はまたまたまたまた未定です。




