課長会議
春日課長が消えてしまった数分後には、時間調整で全課の業務がストップされた。
各課長が集まって会議が始まる。
私と芳澤ありさもその場に居たことから、会議に参加することになった。
私たちは下鴨課長の隣に座り、緊張していた。
「下鴨課長…私が春日課長を巻き込んでしまったんです。責任は私にあるんです。」
私が泣きそうな顔をしていると、下鴨課長は
「春日課長なら大丈夫ですよ。誘拐されているだけです。」
「誘拐されているだけって…それが大問題じゃないですか。」
「だから奪還するために、これから会議なんですよ。大丈夫です。」
議長を務めるのは【正導課】の洒桝課長だ。
「それでは、これより春日課長救出のための会議を始めます。」
まず、私と芳澤に受付で何が起きたのかの説明を求めてきた。
「オンブロを纏った人が来て、伏見課長が石化されたんです。私たちはどうしていいか分からず、春日課長にお願いをして来ていただきました。伏見課長の件は愛昏主任に頼んでいただいて大事に至らなかったのですが、もう一度オンブロを纏った人が来た時に…
私と芳澤とでストラップ・ボウをかまえたのですが、あっという間に消えてしまったんです。」
「あなた方は武器を扱える方々なのですね?」
「はい。毎週金曜日の終業後に練習していました。」
「その件はわたくしから説明させていただきます。」
下鴨課長が、立ち上がり、護身術部活動の件を補足してくれた。
「そうですか。届出もあり、正当な活動のようですね。素晴らしいと思います。」
下鴨課長は、アミューズメントパークでの松下の件も補足してくれた。
「それも報告がありますね。その時の早瀬さんと芦谷さんと松下さんは、この場にはいらっしゃらないのですか?」
下鴨課長が3人を呼ぶために連絡ツールを使った。
「申し訳ないのですが、今すぐ87階【正導課】の会議室までお越し頂けますか?」
拓実が来てくれる。私は少し緊張が和らいだ。
少しすると、拓実とケントくんと松下啓介がやってきた。
「失礼いたします。」
3人は下鴨課長の手招きにより、私たちの近くの席に着いた。
「それでは、代表で早瀬さん。先日の松下さんのオンブロの件を手短にご説明頂けますか?」
「はい。」
拓実は立ち上がり、松下が婚約者と無差別殺人によって離れてしまったこと、そのことを少し恨んでしまったこと、オンブロに取り憑かれてしまったこと、桃源郷に逃げ込んで事なきを得たことを順を追って簡潔に説明した。
「そうでしたか。大変でしたね。松下さん、オンブロに取り憑かれたのは、どんな時でしたか?」
「よく覚えていませんが、護身術部の練習中に、早瀬さんと矢野さん、芦谷さんと芳澤さんを見ていたら羨ましく思ってしまったのは覚えています。その日の夜に指先が冷たくなっていくのを感じました。今思えば、その辺りからオンブロの餌食になっていったんじゃないかと思います。」
「分かりました。言いにくい事を発表して頂いて申し訳なかったですね。」
「いえ。自分の弱い心がそうなったんだと自覚しております。早瀬さん達には本当に申し訳なかったと猛省しています。」
「それでは、春日課長を救出する方法について話し合いたいと思います。八幡課長、何か手はありますか?」
「矢野さんや芳澤さんは誘拐される所を一部始終見ていらしたんですよね?でしたら、ラヨンラゼールの一択でしょう。」
「なるほど。愛宕課長はいかがですか?」
「私もラヨンラゼールを使用するのがいいと思います。」
「では、決を取ります。ラヨンラゼールの使用で救出する方法がいいと思う方?」
ほぼ満場一致だった。手を上げていないのは、課長クラスではない私達一般社員だけだった。
「それでは、ラヨンラゼール使用のため、矢野さんと芳澤さんに詳しい場所を聞くために、皆様エントランスへの移動をお願いいたします。」
課長達に囲まれてぞろぞろとエントランスへやって来た。
「矢野さん。春日課長が消えたのはどの辺りでしたか?」
そう聞かれて、私はその辺りを指差した。
「この辺りです。」
課長達は代わる代わるその辺りを見ていた。
「あ、ここですね。」
一人の課長がピンポイントで指し示した。
よく見ると、その場にはうっすらと小さく黒く焦げたような跡が残っていた。
「このように、オンブロに誘拐されると後が残るんですよ。あとは、八幡課長や妙見課長、建御課長達に任せておけば大丈夫です。」
と下鴨課長が私達に説明してくれた。
「あの、下鴨課長。ラヨンラゼールとは何ですか?」
私の質問に下鴨課長は
「先日地下13階に視察に行った時、課紋がたくさん刻まれたドアに向かう途中の狭い通路に、たくさんの筒状のカメラのような装置が設置されていたのを覚えていますか?あれがラヨンラゼールです。オンブロに有効な強い光を発出します。春日課長はすぐに戻ってこられますよ。」
春日課長が消えてしまってからずっと震えが止まらなかったが、下鴨課長のこの言葉と、拓実が肩に置いてくれた手の温もりで、やっと少しだけ震えが小さくなった。
「早く、春日課長を助けてください。お願いします。」
私は課長達に深々と頭を下げた。
次回の更新は未定です。←毎度で申し訳ない。




