誘拐
今週も金曜日の終業後に護身術部活動のため、12階の第3会議室へと向かった。
「下鴨課長、先日は視察の件でお世話になりました。」
「いえいえ、こちらこそ。今日も練習頑張りましょうね。」
なんとなく、拓実にお姫様抱っこをされたアレがあったので、下鴨課長にニヤニヤされている気がする。気まずい…
「矢野さん。」
呼ばれて振り返ると、声を掛けてくれていたのは春日課長だった。
「春日課長、【仕分け課】の時はお世話になりました。毎週お顔を合わせているのに、ご挨拶せずにすみませんでした。」
「とんでもない。私の方が矢野さん達の作った護身術部にお邪魔させて頂いてるんだもの。こちらからご挨拶するのが筋でしょう。ご挨拶遅くなってごめんなさいね。」
相変わらず柔らかい雰囲気で温かい母性溢れるお人柄だ。
「私、春日課長に憧れています。」
「いやあねぇ。こんなおばさん。武器の扱いもヘタッピだし。」
「いえ。春日課長は素晴らしい女性です。」
心の底からそう思っているけど、あまり言い過ぎると嘘っぽくなるのでここら辺にしておこう。
本人の言う通り、春日課長もボウの扱いが苦手なようだ。
「一緒に練習しましょ。」
春日課長と一緒に練習することにした。課長クラスでも今までこんなに毎週練習することはなかったらしく、伏見課長や下鴨課長ですらそれほど得意そうではない。
最近は、ケントくんの所属している【天候課】の浅間課長も参加している。その他にも、熊野課長、猿田彦課長、塩竃課長、諏訪課長、氷川課長、八坂課長など、課長クラスのメンバーもすっかり増えた。それだけ、ヘルズ・コーポレーションへの緊張が高まっているということだろう。
「得意な人に教わるのもいいけど、今度護身研修の講師をお招きするのはどうかしら?」
春日課長にそう言われて、
「そうですね。是非お願いしたいです。」
なぜ、今までお願いしなかったのか…と今頃気付いた。
「じゃあ、私から申請出してみるわね。」
ありがたい。こういう所、仕事が出来るし尊敬出来る。
今日もあまり上達しないまま部活動は終わった。
翌週、受付のカウンターに座っていると、影を纏った人がやって来た。
当然、ヘルズ・コーポレーションのオンブロに連れて行かれるだろうと思っていたが、なかなか迎えに来ない。
嫌な予感がしたので、隣のカウンターに座る芳澤ありさと相談した。
「どうする?これ。」
「課長に連絡してみようか。」
私は、ストラップを振って34階【振り分け課】の伏見課長に連絡をした。
「あの、伏見課長。今、受付にオンブロを纏った人がいるんですが…」
「すぐに参ります。」
課長は少し慌てた様子で連絡ツールを切るや否ややって来た。
「あの、あなたはこちらの入社ではないと思うんですが…」
伏見課長がそう声を掛けると、オンブロを纏った人は伏見課長を一睨みして消えた。
「なんだったんだろうね。」
と芳澤ありさと話していると、伏見課長の様子がおかしいことに気が付いた。
「課長?課長、大丈夫ですか?」
課長は固まったまま微動だにしない。
「どうしよう。伏見課長が…」
私はすぐに春日課長の事を思い出し、連絡を取ってみることにした。
「春日課長、受付にオンブロを纏った人が来て、対応してくれた伏見課長が…」
と、春日課長に説明をすると、春日課長も連絡ツールを切った途端に来てくれた。
「固まっちゃってるわね。じゃあ、119階の愛昏主任に所に運びましょう。」
春日課長は、ストラップを振って119階へのドアを出した。
「愛昏主任。ちょっと診てくださる?」
案内係から数名を借り出し、固まっている伏見課長を119階の救護室のベッドへと運んだ。
「あー、これは石化されていますね。ヘルズ・コーポレーションの人と目を合わせちゃったんでしょう。ラモリールの液を少し飲ませれば2~3日で戻りますよ。」
「2~3日ですか。困りましたね。振り分け課長が不在になってしまいます。私で伏見課長の代わりが務まるかしら?」
「基本的に、私達で何とかします。でも、課長対応が必要な時だけお願いします。」
芳澤と私で、春日課長にそうお願いをした。
「春日課長、大変お世話になりました。ありがとうございます。」
私たちはお礼を言って、受付業務に戻ることにした。
自分たちで何とかすると言いながら、さっそくオンブロを纏った人がまたやって来た。
「春日課長、またオンブロを纏った人が来ているんですが…」
春日課長はすぐに来てくれた。
「課長、気を付けてくださいね。」
私と芳澤はいつでも武器が出せる態勢で見守った。
春日課長はストラップを外して、少し離れたところから声を掛けた。
「申し訳ありませんが…」
途端にオンブロがどんどん大きくなり、手のような形に変わり春日課長は捕らえられてしまった。
私と芳澤はストラップボウを作り出し、光の矢を作っている間に、オンブロは春日課長ごと消えてしまった。
「春日課長――――!!!!」
「どうしよう。私がお願いしたから…春日課長が…」
私は、エントランスで跡形もなくなってしまった春日課長に責任を感じて途方に暮れていた。
次回の更新はまたまた未定です…が課長救出のお話です。




