作戦
毎週金曜日終業後の部活動も参加者が300人を超えて、大所帯になった。
私のボウの腕前はというと、まだまだ今一つだが、みんなが楽しそうに練習する様子で当初の目的を忘れかけていた。
ケントくんは、芳澤ありさといい関係になったのかと思いきや、私の気のせいだったようだ。
「矢野さーん。一緒にボウの練習しましょうよぉ。」
最近のケントくんは、やたら私に纏わりついてくる。いや、懐かれるのは悪い気はしないけど…なんだか拓実の機嫌が悪い。
「じゃあ、構えてみて。」
拓実が私のボウの先生だったはずだが、このところケントくんに取って代わられている。
「そうじゃないよ。ここをこうして…」
後ろから抱きつかれるように、手取り足取り教えてくれている。
「ねえ、ケントくん。他の人を見てあげたら?」
私の提案は瞬殺で断られた。
拓実が睨んでるんだけど…こ…怖い…
「詩織ちゃん。もう一回構えてみて。」
おいおい、ケントくん。名前を呼ぶのはどうかと思うぞ。
「だって、詩織ちゃんだって俺のことケントくんって呼ぶでしょ。」
「そ…それは、ケントくんはアイドルだったからみんなそう呼んでるし…」
「詩織。」
拓実が我慢の限界点を超えてやってきた。拓実に強く腕を引っ張られて私は転びそうになってしまった。
「早瀬さん。危ないよ。詩織ちゃんが…」
「詩織の事は俺が見るから。」
結構な勢いで引っ張られたので腕が痛かったが、それよりも拓実がヤキモチを焼いてくれていることにキュンとしてしまった。
「わかったよ。じゃあ詩織ちゃん、後でね。」
練習後、ケントくんが近付いてきて誰にもバレないようにこう囁いた。
「早瀬さんのヤキモチ、嬉しかった?俺、わざとだからね。だから、俺にも協力して欲しいんだ。」
なるほど。やっぱり私の気のせいではなかったようだ。
「芳澤ありさちゃんとのこと、ギブアンドテイクでさ…」
「私にとってはギブしかないんだけど…?ていうか、国民的アイドルなんだから男らしく正攻法で行ったら?」
「ええーっ…協力してよー。」
と、やりとりしていると拓実と芳澤ありさがやって来た。
拓実はあからさまにムカついた顔をしている。芳澤はというと、気にも留めていない様子だ。
「矢野さん、ご飯食べに行きません?」
と、可愛く首をかしげた彼女からお誘いを受けた。
「俺たちは帰るよ。二人で食事に行ったら?」
拓実が無表情を決め込んで私の肩を抱いて、二人をおいて帰ろうとすると、
「じゃあね、詩織ちゃん。」
と、ケントくんはご機嫌で手を振っていた。
私を部屋まで送ってくれるのかと思っていたら、
「詩織、さっきはごめん。」
と、しおらしく後ろから抱き着いてきた。
「俺、詩織のこととなると自我が保てない。腕、痛かった?」
と、さっき引っ張った私の腕に頬を寄せている。
急に甘い。拓実ってこんな人だっけ?もしかしてケントくんの思惑ってば大正解なのか?
「じゃ、ごはん食べに行こうか。」
あ、いつもの拓実に戻った。
ケントくんに協力してみるのもたまにはいいかな…とこっそり思っていた。
3階のよく行くイタリアンレストランに行くと、
「あ、矢野さーん。」
と、芳澤ありさの呼ぶ声がした。
振り返ると、可愛らしく手を振る芳澤と、急に不機嫌になるケントくんがいた。
私は、踵を返し、
「他のお店行こう。」
と、拓実の腕を引っ張るようにイタリアンレストランを後にした。
もちろん拓実も同感だったようで、私の肩を抱きながらケントくんに睨みを利かせていた。
次回の更新は明日の予定です。




