SS 地獄からの使者
「無様なものだな。」
黒いマント、黒いスーツ、そして何やら黒い影を纏ったとにかく黒づくめの男が横たわる私に向かって、低くよく響く声でそう言った。
私は顔の4分の3を失って焼けるような激しい痛みと、ナイフで貫かれた胸の痛みと闘いながら、必死にその男に質問した。
「あんた誰よ?」
「私はお前を迎えに来た者だ。お前はこのままでは地獄の底に落ちる。私についてくれば悪いようにはしない。」
「その前に、この痛みと傷を無くして欲しいんだけど。」
「それは出来ぬ。その傷と痛みは、この先ずっとお前が背負っていくものだ。」
男は、私に向かって何かを投げてよこした。黒いマスクだった。
美しかった私の顔は、あの男のせいで爛れてしまった。左目はもう見えていない。鼻も口も以前のように機能しない。黒づくめの男が投げてよこした黒いマスクを、爛れた部分を覆い隠すように装着した。
そして立ち上がると、私の周りに黒紫の影が私を取り囲むように現れた。
「ヘルズ・コーポレーション?何よ、それ?」
私は男に聞いた。
「これから先、お前はまたここで働くことになる。営業マンとしてな。」
暗くジメジメとした不潔極まりない部屋に連れてこられた。
「いやよ、こんな汚い所。それに臭いわ。」
あまり機能していない鼻でも堪え難い匂いが充満している。
「ならば、地獄の底へ行くことになるのだぞ。すっかりあの世界の人間に成り下がって…」
どういうこと?ここは地獄じゃないの?あの世界って…?怪訝な顔で周りを見回していると、
「思い出すのだ。お前はこの会社から上の世界に派遣されていた営業マンだ。」
「上の世界?」
「先程までお前が生きていた世界のことだ。」
「ヘブンズ・カンパニー」それは、この会社のライバル会社の名前だ。私は、黒田澄香としてあの世界に生を受けるまで、ここの社員だった。
入口はすぐ近くにあるというのに、全く環境が違ってムカつく会社だ。なんだかのほほんとして、笑顔で暮らしているのが本当にムカつく。
「あの世界に行ってプロモーションをしてこい。出来るだけ多くの犯罪者を産むのだ。」
上司からの命令で、いざ、生を受けてあの世界で暮らしてみると、人々は「天国は善、地獄は悪。」と決めてかかって生活している。
地獄の何が悪いのよ。行ったこともないくせに。
成長していく過程で、ヘルズ・コーポレーションの事も上司からの命令の事も、徐々に記憶が薄れて行った。
この会社の社員として御法度だった恋をしてしまったのも計算外だった。
「早瀬拓実のせいだわ。あの男が私の成績を…」
「思い出したのか。お前の産んだ‘怨み’は、たかが数人という成績だった。地獄の底に連れ帰った人間はたった数人ではないか。恥ずかしくないのか?あの世界にもっと‘怨み’や‘嫉み’を増やさなければならなかったのに。」
「もう一度派遣してください。次はもっと…戦争でもおこして…」
「お前に何が出来るというのだ?お前の次の仕事はもう決まっている。」
心の弱っている人間を見つけて、その人間に入り込む。そして、連続殺人や愉快犯罪を起こさせる。私の次の仕事はそれだった。
時々、私の仕事を邪魔する奴が現れる。どうやら、敵会社ヘブンズ・カンパニーの【正導課】の人間らしい。やつらは、上の世界で「天使」と呼ばれ、私たちは「悪魔」と呼ばれている。この葛藤で勝利が出来ればヘルズ・コーポレーションのプロモーションにも役立つかもしれない。
やつらは本当にムカつく。私の邪魔をするな。やっと事件を起こさせたというのに、‘怨み’が生まれてないじゃないか!
一人一人取り憑いて行っても、なかなか成績は上がらない。割が悪い。
こうなったら…
次回の更新は未定です。なるべく早く出来るように頑張ります。すいません。




