拓実のお【トク】預金
このところ私には心配事が一つある。
おばあちゃんには、ケントくんという心の拠所があったけど、ぶっちゃけた話、私には何もない。生前から趣味と呼べるものがないのだ。
拓実がこっちに来たのは、私よりも9年も前。おばあちゃんは20年もいたけど、もしかしてそろそろ…?なんて思っちゃったりする。
拓実がいなくなったらどうしよう…
私はこんな快適な世界でも、おばあちゃんのように一人でやっていく自信がない。思い切って本人に聞いてみるか。
沖縄料理の美味しいお店で、ラフテーを頬張る拓実にストレートに聞いてみた。
「拓ちゃんって今、お【トク】預金ってどの位あるの?」
「何それ?俺がいなくなるか心配なの?」
…図星だ。分かり易過ぎた。
「だって、拓ちゃんいなくなったら私、どうしたらいいか分かんないもん。」
拓実はクスリと片口を上げて笑った。ドヤ顔一歩手前のやつだ。
「可愛い事言うじゃん。そんなに俺の事好きなんだ。ふーん。普段そういうこと言わないから。もっと言ってくれていいのに。」
言うもんか。だって恥ずかしすぎるし。アドバンテージ取られたくないし。
「ふーん。」
結局その日は、拓実の懐事情は聞けなかった。
翌日、同僚の芳澤ありさや元エステティシャンの小杉、元銀行マンの野中に懐事情を聞いてみた。
「みんなは、お【トク】預金ってどのくらいあるの?」
芳澤ありさは躊躇なく、
「私は、ここに来てまだ3年位だから、そんなには貯まってないよ。」
と、答えてくれた。
小杉は少し躊躇して、
「私もあんまり。転生はまだまだね。」
と答えた。
野中は元銀行マンらしく、
「それは、プライベートな質問だね。金銭的事情なんてそうそう答えられないな。」
と、言った。
「もしかして、野中さんって転生近いの?」
と芳澤ありさが躊躇なく質問した。
「だから、そういう質問には…」
野中の言葉を途中で遮るように
「やっぱりそうなんだ。」
と、芳澤ありさは言った。
今の発言のどこにヒントがあったのか、私にはまるで分からなかったけど、芳澤は確信していた。
「わかったよ。俺はたぶん今年中には転生すると思う。まだ、決心はしてないけどね。」
と白状した。芳澤ありさは心理学でも勉強してたのかな?
「正解!私、心理学専攻だったの。」
私の感は、こういう所にだけいいらしい。
私の懐事情はというと、まだここに来てもうすぐ1年という所だし、転生するためのお【トク】までは程遠い。
拓実にも、これと言ってお【トク】がかかりそうな趣味があるとは思えない。やっぱり結構貯まってるんだろうか?
「ねえ、芳澤さん。さっきの話だけど、なんで分かったの?私、転生する時期を知りたい人がいるんだけど。」
「うふふ。カマかけただけよ。だって、否定するとか、黙秘するとかって怪しいじゃない?」
やっぱりそうか。拓実ももうすぐ転生するだけの【トク】が貯まってるんだろうか。
「そんなに気になるなら、ちゃんと聞いてみるべきだよ。いきなり愛しい彼とお別れは寂しいでしょ?」
「え?なんで彼って…あ。」
「うふふ。カマかけちゃった♡」
「うう…カマかけられちゃった。」
その日の夜、山菜蕎麦をすする拓実にもう一度同じ質問を投げかけてみた。
「で、拓ちゃんって今、お【トク】預金ってどの位あるの?」
「詩織、大丈夫だよ。俺は詩織をおいて行かない。ちゃんと前もって言うよ。心配するな。
もう転生出来るだけのお【トク】は貯まってて、そろそろって考えてたけど、詩織がこっちに来たから。詩織が貯まるのを待ってるよ。」
なにそれ?めっちゃ殺し文句。うっかり感動しちゃったじゃないの。
「詩織の頭の中駄々洩れだよ。」
「そういう拓ちゃんって、私の事大好きじゃん。待っててくれなんて、私頼んでないけど。」
「ふーん。そういうこと言っちゃっていいの?俺、先に転生しちゃうけど。」
「ウソです。ごめんなさい。まだ一緒にいたいです。」
結局、アドバンテージを取られる私だった。
次回、私の一周忌のお話です。




