SS 美代子の初恋再び
私と正次郎さんが結婚したのはもう何十年も前の話。私が24歳、正次郎さんが32歳の時だった。
親にすすめられて、特に嫌な感じもなかったので、言われるがまま結婚したの。
2年後、私が26歳の時長男を出産、29歳の時に次男を出産して、二人の子を持つ親になったわ。
決して裕福とは言えなかったけど、お金に困ったことはないし、正次郎さんはタバコも吸わない、博打もしない、浮気もしない、お酒は時々適量飲む人だったので、家庭に波風がたったことはなかったわ。
長男の友則は仕事人間でなかなか女性の影もなく、結婚は次男に先を越されていて親としては少し心配だったわね。でも、友則突然が「結婚したい」と由紀子さんを連れてきた時は驚いたわ。
次男は3女に恵まれ、長男は1女に恵まれたの。私には4人の女の子の孫がいるのよ。
息子たちが結婚して所帯を持ってからは、正次郎さんと二人だけの生活だったけど、由紀子さんが出来たお嫁さんだったから、年を取る私たちのことが心配だと同居を申し出てくれたわ。
私も正次郎さんも、有難くその話を受けたの。
でも、友則たちと同居し始めてすぐに、正次郎さんは「頭が痛い。」と言って倒れてしまった。あっけなかった。結婚して39年間苦楽を共にしてきたのに、私をおいて逝ってしまった。
孫の詩織は私によく懐いていたわ。一緒に歌番組を見たりして、アイドルの話もよく教えてくれたわね。
ある日、孫の詩織と一緒にテレビを見ていたら、ものすごく可愛い男の子が出演していたの。
「しいちゃん、あれ誰?」
「あれはね、最近デビューしたストーム&ハリケーンのケントくんだよ。」
まだ年端も行かない14歳の男の子に恋をしてしまった。
それ以来、ライブのチケットを必死に取って団扇を持って出かけたり、イベントがあると調べて赴いたりしたわ。今でいう推し活っていうのかしら?
年甲斐もなく部屋にポスターを貼ったりもしたの。
私は、なんとかジョリー事務所にコネを作りたいと思ったの。でも、うちの孫たちってば皆、女の子じゃない?
だから、詩織の家庭教師に来てくれていたお隣の拓実君が結構イケメンなので、写真を勝手に撮って履歴書を書いていたら、本人に見つかってしまったの。「美代子おばあちゃん、俺、芸能人になるつもりはないですよ。」とハッキリ言われてしまったわ。
だから、拓実君の事は諦めて、ストーム&ハリケーンのチケットを取ることに燃えたの。
今思えば、正次郎さんがいなくなった寂しさを紛らわしてたのかしらね。
正次郎さんが亡くなって7年後、私は病気を患って1年近く入院をしていたの。でも、治療の甲斐無く8年ほど先に亡くなった正次郎さんを追ったわ。
ふと気付くと、ここヘブンズ・カンパニーに来ていたの。入社式で、私の隣にお世話係として正次郎さんが立っていた時には本当に驚いたわ。
鏡を見ると私は若返ってるし、正次郎さんも私と結婚した時よりも少し若くなっていたし、嬉しかったわ。言葉も若くしなきゃと思って、語尾を伸ばしてギャルになりきったりもしたの。
そりゃあもう、毎日デートしたり、一緒に食事したり、ラブラブで楽しかったわ。二人で青春を謳歌したの。
正次郎さんは生前一緒に生活していた時より数倍も優しかったわ。
でもね、一緒にいられたのは5年程だった。正次郎さんは私にベターハーフの石を渡して転生室へ行ってしまったの。
泣いたわ。何日も、何日も、泣いて、泣いて、もう体中の水分が全部出ちゃったんじゃないかと思うくらい。
私もすぐに転生したかった。でも【トク】が足りなかったのよ。
正次郎さんがいない寂しさをまたケントくんで埋めることにしたの。下の世界にライブに行ったり、グッズを集めたりって結構お【トク】がかかっちゃうのよ。なかなか貯金が貯められなかったわ。
そんな生活をしていたら、ある時、お隣のイケメンの拓実君がこっちに来たことを知ったの。「若いのに…」と同情したわ。
しいちゃんは大丈夫かしら?と思っていたら、しいちゃん本人も来ちゃったのよね。
私は、お世話係を任命されたわ。
しいちゃんの入社式の時、お世話係控室に呼ばれて、合図があったら一斉にドアを出して各人の隣に立つように指示をされたの。
しいちゃんが隣に立つ私を見て、心底驚いていたわね。「ドッキリ大成功」みたいだったわ。
正次郎さんが転生して15年も経ってしまったから、少し彼に対する気持ちも薄らいでいたのかもしれない。
そんな時、しいちゃんと拓実君が並んでいるのを見て、私の首から下げているベターハーフの石がじんわりと温かくなるのを感じたの。はっきりと何かがはじけたわ。
それからというもの、私はとにかく真面目に働いたわ。気持ちを入れ替えると、面白いように【トク】って貯まるのね。
先に転生した正次郎さんとは、随分年が離れちゃったけど、そんなの関係ないわ。
また来世でも初恋から始めるの。
きっと正次郎さんは私を見てこう言うわ。
「遅かったじゃないか。さぁ、また一緒に歩いて行こう。」って。
今回は、おばあちゃん目線のSSでした。次回もSSです。




