アミューズメントパーク
寛樹はヘルズ・コーポレーションに吸い込まれていった。
私は振り返り、芳澤ありさに駆け寄った。
「ありがとう。お陰で命拾いしたわ。」
「命拾いね。ま、命はとっくにないけどね。うふふ。」
芳澤も、可愛い顔してこの世界ならではの寒いギャグを言うんだ。
「芳澤さんも、護身研修を受けていたんですね。」
「もちろん。だって、私ストーカー殺人でこっち来てるから。」
相変わらず、とびっきりの可愛い笑顔だ。
「私、ストラップ・ボウが一番苦手だったけど、芳澤さん凄いね。」
「まあね。才能?」
そう言って笑った。
課長に報告するために、芳澤と34階の【振り分け課】の執務室へ戻った。
「課長、すいません。私、また問題を起こしてしまいました。」
伏見課長は驚いてこちらに向き直り、事のあらましを聞いてくれた。
「そうですか。あなたを殺した旦那さんが…」
「芳澤さんの護身術で助かりました。」
「そんな。私は何も…」
謙虚なカワイ子ちゃんである。
「矢野さんには、始末書を書いてもらわなくてはなりませんが、今回の事は仕方のない事だと私は思います。ただ、前にも出雲課長や櫛田チーフに言われたと思いますが、ヘルズ・コーポレーションには絶対に関わってはいけません。それだけは肝に銘じておいてください。」
寛樹の一件で、私が落ち込んでいると思ったらしく、拓実が3階にあるアミューズメントパークへ誘ってくれた。
3階のフロアにレストラン街があるにもかかわらず、同じフロアにあるアミューズメントパークが広いわけないと高を括っていたが、入場してみるとめちゃめちゃ広い。
「どうなってんの?これ?3階のフロアってどんだけ広いの?」
「質量を下の世界と一緒にしたら理解は出来ないよ。別物だから。そもそも…」
始まってしまった。拓実による御託講座。こうなると、私の耳は機能しなくなる。
「はいはい。しいちゃん聞いてないね。」
拓実も、こんな私に慣れたものである。
「広いけど、思ってたアミューズメントパークとはちょっと違うね。ジェットコースターとかはないんだ。」
「うん。この世界の人達は実体がないようなものだから強い風に弱いからね。観覧車はあるよ、ほら。」
「3階のフロアで観覧車に乗って見える景色じゃなぁ。」
「そりゃそうだね。じゃあ、回転木馬は?」
こういうロマンチックな乗り物は私より拓実の方が好きなんじゃないだろうか?
「乗ろっか。」
上下するだけの固い馬の模型に乗って同じ所をグルグル回るのって楽しいのかな?
「しいちゃん。せっかくなんだから楽しむ努力をしてよ。」
「楽しむ努力って。」
回転木馬を降りて、次に向かったのはソフトクリームの売店だった。チョコレートとバニラのミックスのソフトクリームを持って、やっと笑顔になった私を見て、
「結局、しいちゃんは食べ物だね。」
と、爆笑していた。私もそう思う。
「ねえ、あれ何?」
「お?やっと興味のあるもの見つけた?」
「桃源郷?桃源郷って書いてある。どんなライドなんだろう。」
「あれは、文字通り‘桃源郷’だよ。楽園的な、温泉的な?」
「え?お風呂なの?遊園地に?拓ちゃん行ったことあるの?」
「ないよ。一緒に行く人もいなかったし。」
拓実が慌てて否定したってことは…
「如何わしい所なの?」
「しいちゃんの言う‘如何わしい’がどういうのかは分からないけど、男だけが行く‘アレ’とは違うよ。」
「ふーん。行ってみよっか。」
私は拓実を置いていく勢いでズンズンと桃源郷に向かっていった。
中に入ると、湯煙で煙っていたが、古代ローマのお風呂を描いた映画があったなぁと思い出すような造りだった。
拓実がストラップを一振りすると、裸になった。
「まっぱにストラップってなんかシュール。」私がそう言って笑うと、「自分だって。」と言った。
「え?いつの間に?私も脱がしたの?」
他にも入浴している人が何人もいるのに恥ずかしすぎる。
「大丈夫だよ。他の人からはシルエットしか見えない様になってるから。」
「もしかして、これ目的で私をここに誘ったの?」
「先に歩いてきたのはしいちゃんでしょう。俺はついてきただけ。ま、噂は聞いてたから、いつか一緒に来たいとは思ってたけど。」
と、拓実は裸で私を抱き寄せた。
ふと、二人共動きが止まった。
「あれ?イチャイチャしようと思ったのに、性的な欲求が全く起きないんだけど。」
「本当。何で?」
桃源郷って…楽園って…
公的施設での性的行為はご遠慮くださいってことか…
次回は、地下13階にお使いです。




