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ヘブンズ・カンパニー -天国で運命の人に再会しました-  作者: さがわウェンディフェリシア
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寛樹という男 2

 澄香の計画はまだ終わっていなかった。「寛樹、神崎詩織と結婚しなさい。」と、言われた。

何だよ、それ?何で好きでもない女と結婚までしなくちゃいけないんだよ。俺は澄香と一緒になるために早瀬の殺害に手を貸したんだ。

澄香は抵抗する俺に「計画がうまくいけば、次は私が結婚してあげる。」と言ってきた。

「結婚?」やっと俺のモノになる。俺は神崎詩織に猛アタックして、付き合い始めた。

そして、2年ほど付き合った後に、神崎詩織にプロポーズをした。

「俺と結婚してください。」

神崎詩織は即答はしなかった。俺の心が澄香にあることがバレているのか心配だった。

2週間以上経ったある日、やっと神崎詩織がOKしてくれた。

俺は、ほっとした。澄香の計画が頓挫とんざしなくてよかった。


 結婚生活は地獄かと思ったが、そうでもなかった。詩織は澄香程でもなくても、割と俺の好みだし、奥さんとしてやる事はキチンとやってくれていた。

 俺も詩織に少しずつ情が沸いてきた。決して抱かせてはくれない澄香の代わりに詩織を抱くこともあった。詩織は俺の事を愛してくれていたんだろうか?あいつも、俺に抱かれながら早瀬のことを思っていたかもしれない。


 結婚生活も4年ほどが経った。正直、詩織が可愛く思えて、澄香の計画の事は忘れかけていた時だった。

「もしもし、寛樹?お久し振りね。」

澄香から突然連絡があった。計画は続行していた。

 澄香は、暫く会わない間に一段と綺麗になっていた。俺は一瞬でまた澄香に魅了された。

「寛樹、詩織を殺しなさい。」

俺は耳を疑った。計画は詩織を殺すことで完了する。俺は、離婚して詩織を捨てればいい位の計画だと思っていた。

「俺が?」

「まさか、あの女に情が沸いたんじゃないでしょうね。」

「いや、でも…」

「私という女がありながら、詩織に肩を持つ訳じゃないでしょう?」

俺は頭の中で「計画がうまくいけば、次は私が結婚してあげる。」という澄香の言葉が何度も何度も響いていた。


 7月。記録的な猛暑だと、気象予報士はTVの中で言っていた。

俺は2階の寝室で詩織の動向を伺っていた。

よし。キッチンで料理を始めた。バレないように一旦外に出る。澄香から渡されて、隠しておいたサイズ大きめの靴を履き、外から入った暴漢を装って詩織の死角から頭を狙って鈍器を振り下ろした。

「もしもし、今決行した。」

「そう。ご苦労様。今、証拠品を引き上げに行くわ。」

澄香は前もって、近所にある防犯カメラを調べ、映らないようなルートを通ってやって来た。

「はい。全部この袋に入れて。処分しておくわ。」


 澄香が帰ってから少しして、俺は警察に電話した。

「妻が…」

警察は、第一発見者である俺のことを、しつこく取り調べた。あからさまに尾行もされていた。詩織の葬式を終えて、俺は堪らずに澄香に電話をした。

「警察の取り調べでも、私の言った通り暴漢のせいにしたんでしょう。」

「そのとおりだよ。でも、俺はもう耐えられない。警察へ行く。なんで詩織が死ななきゃいけないんだよ。未だに理解出来ないんだ。どうしてこんなこと。」

「あなたが殺したのよ。私を巻き込んだら承知しないわ。結婚してあげるって言ってたのも帳消しね。」

「あ、待ってくれ。俺が悪かった。これから行くよ。」


 喫茶店で澄香と待ち合わせた。澄香の前の椅子を引いて座る。

「全て終わったんでしょう。何を心配しているのよ。」

「誰かに監視されてる気がするんだ。」

「警察に?」

「わからない。」

「とにかく、捕まったり自首したりしたら承知しないわよ。」

俺が黙っていると、

「これが落ち着いたら結婚してあげるから。」

と、俺の手を握り澄香が囁いた。


 俺は、日が経つにつれ良心の呵責に苛まれていた。会社も休みがちになって、社会からどんどん取り残されているような気がしていた。

幸い、最愛の妻を亡くして気落ちしている夫、という目で世間の人達は見てくれていた。


 気付くと、年が明け、桜が咲きそして散り、詩織が死んでから9か月が経っていた。

朝も、ロクに起き上がらず、無精ひげのまま一日中家に引きこもっていた。

そんな時にまた澄香から連絡があった。

俺はもう、澄香が怖くて電話に出ることが出来なかった。

「今度は何を命令されるんだ?」

澄香との結婚なんて、もう望んでいなかった。たった一つ願いがあるとしたら、詩織に生き返って欲しいということだった。


 数日の間、連日の澄香からの連絡に答えずにいたら、とうとう家に押しかけて来た。

「寛樹、いるんでしょ。開けなさい!」

俺は、布団をかぶって息を殺して居留守を決め込んだ。

「寛樹!!」

まずい。近所の手前、この女との関係がバレたら…そう思い仕方なく玄関のカギを開けた。


 「こんな生活してたら体に良くないわよ。」

意外だった。俺を心配して来てくれたのか。

「そんな汚い恰好して。まず、髭剃ってお風呂に入りなさい。」

俺は言われた通りにした。

風呂から出ると、澄香がキッチンで食事の用意をしてくれていた。

「体に優しい物作ったから、食べて。」

その姿が詩織に見えてしまった。俺は叫んだ。どうしようもなく、ただ泣き叫んだ。


 「こんなこと位で、情けない男ね。」

詩織ではなく、澄香の姿に戻ると、キッチンに立つ女はそう言った。

「こんなこと位?俺はお前のせいで高校生のころからロクでもないヤツに成り下がったんだ。こんなこと位って。ふざけるな!!」

「何よ。あんたも、この私に向かってそういう態度取るのね。わかったわ。一生そうしてなさい。」

玄関に向かって歩き出した澄香が、ふと振り返り「あんたなんか死ねばいいのよ。」とだけ言って出て行った。


 そうか。俺はもう生きていても仕方がない。こんな酷い人生は終わらせてしまえばいい。

その日の夜、俺は、今まであったことを全て書き残し、首を吊った。


           ***


 「あれは…寛樹?」

エントランスに黒紫の影をまとった人がうずくまっている。間違いなく寛樹だ。

 「寛樹!」

「詩織。」

ヘルズ・コーポレーションの黒紫の煙で出来た手のような影は沸々と大きくなっていって、寛樹に向かってきた。

「寛樹、どうして?どうして私を殺したの?」

「詩織、本当にすまない。俺は黒田澄香に命令されていたんだ。いや、あの女のせいだけじゃない。俺自身が酷い奴だった。でも、俺は詩織のこと好きだったよ。本当にごめんな。謝って済むことじゃないけど、本当にごめんな。」

黒紫の影は寛樹を捉えた。寛樹はあらがうことなくヘルズ・コーポレーションに引き込まれていく。

「寛樹!」

私は寛樹を追った。私に向かってもう一つの影が伸びてきた。

「危ない。矢野さん!」


 影は光の矢によって打ち砕かれた。

振り返ると、そこには受付係の先輩の芳澤ありさが、ストラップで出来た弓を構えていた。


次回、拓実とデートです♡

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