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ヘブンズ・カンパニー -天国で運命の人に再会しました-  作者: さがわウェンディフェリシア
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おばあちゃんとしばしの別れ

 春の宴も無事終わり、マイクを含め関係者達と打ち上げと称した食事会をした。

スタッフ、演者を含めると結構な人数になるので、やっぱり広さのある3階のラウンジが会場になる。

 鈿女うずめ部長による乾杯の音頭の後は、自由に立食パーティーになった。

私は、お久し振りな佐藤としえに挨拶するために彼女を探した。佐藤は壁際で腰を据えてシャンパン片手にカナッペを頬張っていた。

「佐藤さん。お久し振り。」

「矢野さん。ほんとね。【聞き取り課】以来ね。」

「見ましたよ。モノマネ。凄く上手かった。ビックリしちゃった。」

「あれ、生前から私の十八番おはこでね。なにかっていうとアレで乗り切ってきたの。それより、マイク・アンダーソンとお知り合いなんて凄いわね。そっちの方がビックリよ。」

「うん。アメリカ支社に研修に行って、たまたまね。」

噂をすれば…マイクが拓実と連れ立って私を呼びに来た。

「あ、矢野さん。私にもマイクさん紹介して。」

「OK。マイク、こちら私の【聞き取り課】時代の同僚の佐藤としえさん。」

「ハーイ、トシエ。よろしくね。」

挨拶もそこそこに二人に伊勢課長の元に連行された。

「矢野さん。すいません、お友達とお話し中に。鈿女部長をご紹介しておかなければならないので。」

 舞台上で踊っている時と、乾杯の音頭を取っている時の彼女しか知らなかったが、こんなに近くで見ても美しい。美しすぎる。‘妖艶’という言葉がぴったりだ。吸い寄せられそうな魅力がある。女の私が見ても釘付けになるんだから、隣にいるマイクや拓実が釘付けになっていても仕方ない。

「はじめまして。矢野詩織と申します。」

「矢野さん。今年の宴会に素敵な企画を立ててくれてありがとう。また、宜しくね。」

「はじめまして。早瀬拓実です。お目にかかれて光栄です。」

「早瀬さんもありがとう。マイクさんのコンサートの演出素晴らしかったわ。」

「マイク・アンダーソンです。ウズメ、あなたはなんてビューティフルなんだ。こんな美しい女性を見たことがない。」

おい、マイク。私も一応女性なんだが。

まあ、鈿女部長とは比べ物にならないことはわかってるけどな。と思っていたら、拓実がこっちを向いていつくしむような顔をした。

おい、拓実。慈悲はいらん!

「矢野さんも十分美しいですよ。」

伊勢課長が優し気な笑みでフォローしてくれた。

「恐れ入ります。課長にフォローさせてすみません。」

 お前らのせいだ。と、拓実とマイクをキッと睨んだ。

拓実は、私の睨みには小さい頃から慣れていてスルーしていたが、マイクは、

「シオリ、ソーリー。君もマーベラスだよ。」

と、慌てて言った。今頃フォーローしたって遅いわっ。


打ち上げも終わり、マイクをホテルまで送った帰りに拓実とおばあちゃんの部屋を訪ねた。

「美代ちゃん、お疲れ様。MCも大変だったね。」

「うふふ。ありがとうねぇ。何もかも上手くいってよかったわぁ。」

MCに関しても上手くいったことになってるのは、触れないでおこう。

「いつ転生室へ行くんですか?」

「明日よぉ。」

「え?もう行っちゃうの?明日はマイクを見送ってから、一緒に食事出来ると思ってたのに。」

「明日の夕方にスケジュールを組んでもらったわぁ。」

「リスケにならないの?」

「しいちゃん。リスケは無理だよ。マイクのお見送りは午前中だから、午後は美代子おばあちゃんと過ごしたらいいよ。」

「拓実くん。おばあちゃんはやめてぇ。美代ちゃんだってばぁ。」

おばあちゃんは、いつものようにツッコんではいるけど、少し落ち着いたトーンだった。

「もう、時間がなさすぎる!何日か前から言ってよ。まだ、美代ちゃんに何もお返し出来てないじゃない!」

「しいちゃん。あなたがいい子でこっちの世界に来てくれただけで、私には大きな大きなプレゼントなのよぉ。私の孫は、こんなに立派に育ちましたぁって世界中に叫びたいくらいなんだからぁ。」

「おばあちゃん…」

「だからぁ、美・代・ちゃ・ん。」


 翌朝、泣き腫らした目で【宴会課】に出勤したので、伊勢課長に心配されてしまった。

「矢野さん、どうしました?大丈夫ですか?」

優しく問いかけられて、また泣き出してしまった私の代わりに、

「神崎美代子さんが…」

と拓実が言うと、伊勢課長も

「ああ、今日転生ですもんね。」

と察してくれた。

 

 【宴会課】の伊勢課長のデスクの後ろに虹色のドアが出現した。

私が迎えに行けなかったので、拓実がマイクを迎えに行ってくれていた。

「今日は悲しいお別れがあるんだね、シオリ。」

正直、マイクにはまた会えるだろうし、お見送りも投げやりな気持ちになってしまっている。

いや、でも私のお願いを聞いて、わざわざ日本支社に歌いに来てくれたんだった。

「マイクには感謝しきれないよ。本当にありがとう。また会おうね。」

まぶたは腫れてるし、目は真っ赤だし、泣きながらしゃくりあげてるけど、マイクは優しく頬にキスして抱きしめてくれた。

「タクミ、ごめんね。君のハニーにキスしちゃった。」

「俺にもしてくれれば許します。」

「おお、タクミ。いくらでも。」

と、マイクは拓実の両頬に吸い付くようなキスをした。

マイクは、振り返りながら手を振って、そして虹色のドアの向こうに消えて行った。


 午後、おばあちゃんと二人でまったりと過ごした。

「ねえ、しいちゃん。覚えてるぅ?七五三の時、あなた綺麗な着物を着てるのに、お漏らししちゃったのぉ。」

「それ、お別れ前に思い出すエピソード?」

「うふふ。可愛かったのよねぇ。私にとっても初孫だったから、目に入れても痛くなかったわぁ。あ、それから小学校の運動会。せっかくクラス対抗のリレーの選手に選ばれたのにゴールの手前で転んじゃってねぇ。」

「もおっ。もっといい事思い出してよ。」

「中学の入学式、制服を着たしいちゃんが、式終わってからお見舞いに来てくれたのよねぇ。」

「あの時はもう病気してたもんね。おばあちゃんが、私の制服姿見たいって言ってくれたから式の後すぐお見舞い行ったんだよね。」

あの時の別れは、病気とはいえ死ぬとは思っていなかったから、突然の別れになってしまった。けど、今回の別れは、あと数時間しかないことがわかっている。どっちがいいとか、悪いとかは分からないけど。


 「そろそろ時間だわぁ。行かなくちゃ。」

おばあちゃんは立ち上がり、ドアの手前で振り返って部屋に深々とお辞儀をした。

「長い間、快適に住まわせてくれてありがとう。また、来世の寿命が尽きたら来るから宜しくねぇ。」

そう言いながら、ストラップを一振りした。部屋の中は飾りのたぐいがすべて消えて、デフォルトの状態になった。

そして、ドアの前で一振りして開けると、そこは最上階の‘転生室’という部屋だった。


 部屋の中は、眩しいほどに光が満ちていて、魔法陣の書かれた円が下からのスポットライトのようにさらに明るい光を放っている。

伊勢課長が、私と拓実も見届けるように申請を出しておいてくれたので、立ち会う事が出来た。

 

 「それでは、神崎さん。準備はよろしいですか?」

伊勢課長が緊張した面持ちでそう言った。

「はぁい。いいでぇす。」

これで最後だというのに、おばあちゃんは緊張感がないのかな?

「しいちゃん。緊張ならしてるわよ。でもまた、あなた達には会えるし、次の人生もおじいちゃんと一緒になるし。きっと幸せな人生になるから、何も心配することはないものぉ。」

 魔法陣の光がさらに強くなった。

「神崎さん。それでは、魔法陣の円の中にお入りください。」

「はぁい。」伊勢課長に自分のストラップを返却した後、円の中心に立った。

「神崎美代子さん。72年の人生と20年間の社員生活、お疲れ様でした。来世もいい人生を。」

伊勢課長が、そう言うと魔法陣の光はさらに強くなり、眩しくて円の中に立つおばあちゃんの姿が見え難くなってきた。

「おばあちゃん!!」

「おばあちゃんじゃなくて、美代ちゃん。しいちゃん、拓実くん、またねぇ。」

おばあちゃんの最後の方の声は、やっと聞き取れるくらい小さくなっていった。


 時間にして5分程だっただろうか。20年も社員生活を送っていたのに、最後はあっけなかった。魔法陣の光が弱くなっていく中で、おばあちゃんの声がいつまでもいつまでも頭の中でこだましていた。

私はたまらず、その場に座り込んで泣いていると、それまでずっと黙って見守っていてくれた拓実が私の前にしゃがみ込み、

「今頃、美代子おばあちゃんの次の人生での母親のお腹の中に転送されたんだよ。寂しくてもまた会えるから。しいちゃんの事は俺が守るから。」

と強く抱きしめてくれた。私が顔を上げて拓実の顔を見ると、

「来世でも守るから…」と呟いた。

「え?よく聞こえなかった。何て言ったの?」

「何でもない。」

 本当は聞こえてたけどね。てか、伊勢課長の前でラブシーンはハズいでしょ…


次回、おばあちゃんにとって残念なことが…

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