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ヘブンズ・カンパニー -天国で運命の人に再会しました-  作者: さがわウェンディフェリシア
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年明け

 ヘブンズ・カンパニーも年末年始はしっかりお休みになる。お休みした分の仕事は日時調整で他の日に回される。

朝、いつもより遅めに起きて、ストラップを振り紅色に菊柄の入った着物に着替えて、おばあちゃんの部屋を訪ねた。

「明けましておめでとう。」

「しいちゃん。おめでとう。でも下の世界では、しいちゃんの喪中だからおめでたくないわねぇ。」

「あ、そっか。本人はこんな派手な色の着物着てるのにね。今年もよろしくね。」

「今年って言っても、春にはお別れだけどねぇ。」

…ああ言えばこう言う。おばあちゃんてば、ピンクの振袖着てるし。

「じゃ、予約してた和食屋さんに行きましょ。」

おばあちゃんに連れられて、3階の和食屋さんにやって来た。

店内は、黒塗りの重厚なテーブルと、赤い布を敷いた縁台のような椅子で、琴のの『春の海』が流れていた。

「なんだか、こんなしっとりとした雰囲気って、死んでるのが嘘みたいね。」

「そおねぇ。なぁんか、幸せよねぇ。」

テーブルには、お節やお雑煮、刺身やお吸い物などが所狭しと並べられた。

「美味しそう。食べよ、食べよ。」

「しいちゃんは、食べる時、本当に幸せそうな顔するわよねぇ。」

「それ、拓ちゃんにもよく言われる。」

誰と食事してもそう言われるのは、子供の頃からだ。

「見ているこっちまで幸せになるから、いいのよぉ。それ一種の才能よぉ。」

…褒められた気がしない。


 「ところで、この前頼んだ春の宴の参加、何をするか決めたぁ?」

「あ、まだ何も。拓ちゃんと相談しなくちゃ。例えば、どんなことすればいいの?」

「自分で芸を披露する人もいるけど、何か企画する人も多いわねぇ。色々よぉ。」

「ふーん。考えてみるね。ね、このトコブシ美味しいよ。」


食後店を出て、お正月用の提灯ちょうちんの飾られた通路を散策した。

この世界には神社が存在しないので、初詣というものはないけど、通路には夜店のような露店がひしめく様に軒を連ねている。

「へえ、お正月は露店が出るんだね。」

露店と言っても、店番をする人が存在しない。お祭りの時によくあるようなお面屋さんや、ヨーヨー釣り、射的や綿飴、たこ焼きやベビーカステラなんかもあるけど、お店の人がいないのだ。

「これ、どうやって買い物するの?」

「いつもの要領よ。」

と言いながら、おばあちゃんは店のひさしの下に行き、本来お店の人がいるであろう所に向かってストラップを振った。

露店のカウンターにふわっとたこ焼きが現れた。

「はい、しいちゃん。食べたそうだったから。」

「いや、さすがの私も、今和食をしこたま食べてきたとこだし。ま、貰うけど。」


おばあちゃんと別れて、拓実の所へ新年の挨拶に向かう。

チャイムを鳴らすと、拓実は秒で扉を開けた。

「あけましておめでとう。いいね、着物。可愛い。似合うじゃん。」

「ありがとう。あ、あけましておめでとう。今年もよろしくね。」

部屋に招き入れてもらって、さっきおばあちゃんに買ってもらったたこ焼きを差し出した。

「これ、一緒に食べようと思って。」

「じゃあ、お茶淹れるよ。」

そういいながら拓実はお茶を淹れに行ってしまった。私はソファに座り、部屋の様子をまじまじと見ていた。

 お茶の入った湯呑を持ってきた拓実が、着物に着替えていた。

「しいちゃんが着物だったから、俺も。」

「いいね。似合う。」


 たこ焼きをつまみながら、さっきおばあちゃんに言われたことを思い出した。

「そうだ。春の宴どうする?おばあちゃんに聞かれたんだけど。」

「考えないとな。何にしようか。しいちゃんとよく行ったプラネタリウムってどう?」

「ああ、いいかも。ホールに星座を映すんでしょ。きっと綺麗だと思う。」

「でも、2人だけでやるには厳しいかもな。」

そう言いながら拓実は壁際においてあるローチェストに向かってストラップを振った。

ローチェストはステレオのように大きなスピーカーに変わった。

「あ、マイクの曲ね。」

つい2週間くらい前なのに、もうマイク・アンダーソンの事が懐かしい。毎日生で聞いていた曲がこうして拓実の部屋で聞いてるのが不思議だ。

「そうだ。宴の企画ってマイクに来てもらって、コンサートって出来ないのかな?」

「さあ、どうだろう。日本支社に来てもらわないといけないし、【宴会課】の伊勢課長に聞いてみないとな。」

「私、早速マイクに聞いてみようかな。」

ストラップを宙に向かって振り、マイクに電話をした。

「シオリ、元気かい?おお、キモノ着てるじゃないか。」

「久しぶり。ねえマイク、もし日本支社でコンサートやってって言ったらやってくれる?あまりギャラは払えないけど。」

「もちろんさ。シオリのお願いならギャラなんていらないよ。ニホンシシャに遊びに行きたいし。案内してくれるだろう。」

これ、実現したらすごくない?マイクのコンサートの企画なんて。詳しいことが決まったらまた電話をすると伝えて電話を切った。


 仕事始めの日、業務終了後に拓実と一緒に、伊勢課長に話を聞いてもらうために一席設けてもらった。おばあちゃんも同席してくれたので、ちょっといい料亭に繰り出した。


「そうですか。矢野さんは神崎さんのお孫さんでしたか。」

「はい。祖母がいつもお世話になっております。」

「神崎さんは、夏の終わり頃から急に仕事に対して、人が変わったようになられて。助かっているんですよ。」

「うふふ。この二人を見てたら、早く次の人生を歩みたくなったんですぅ。」

伊勢課長はおばあちゃんの様子を微笑ましく見ていたが、思い出したように言った。

「ところで、お話というのは?」

「実は…」

私は伊勢課長に、護身研修でマイク・アンダーソンと一緒だったこと、仲良くなったこと、

もしOKが出たらコンサートのために来てくれるということを順を追って説明した。


「ほう。マイク・アンダーソンですか。私でも存じ上げている有名なアーティストですね。彼が歌ってくれるとなると、みんな喜びますね。」

思いの外、好感触だった。

おばあちゃんだけは、「ストーム&ハリケーンのコンサートだったらいいのにぃ。」とブツクサ言っていた。いや、だってストーム&ハリケーンのメンバー達は生存中だから、こっちの世界には来れないし。

「でしたら、【宴会課】でマイクさんの渡航費とホテル代は持ちましょう。【宴会課】始まって以来の大宴会になりそうですね。楽しみです。」

伊勢課長のその一言に、拓実と私はハイタッチをして、早速マイクに連絡しなくてはと思っていた。


次回、受付嬢デビューです。

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