護身研修 2
研修2日目、ストラップ・ソードとストラップ・ウィップのおさらいからスタートだった。昨日の復習なのでみんな難なくクリアした。
「それでは今日は25ページのストラップ・ボウを扱ってみましょう。」
講師はストラップを首から外し、紐をピンと張った状態で一振りすると弓になった。
「ああ、ボウって弓のことか。」
講師は出来た弓を構え、指で宙に一筋の線を描いた。描かれた線は光を纏って矢になった。
矢を射ると、キラキラと輝きながら的に向かって真っすぐに飛んで行った。
昨日より難しそうな実習に会場がどよめく。
見たとおりに弓を作ってみる。昨日のストラップ・ソードやストラップ・ウィップでコツは掴んだので、割と早くに習得出来た。問題は矢の方だ。宙に描いた線がそのまま矢になるので、真っ直ぐ引かなければならない。これが意外と難しい。少しでも線が曲がってしまうと、矢は真っ直ぐ飛ばない。出来た矢を射ってみても、的には全く当たらなかった。さすがのマイクも苦戦している。周りの研修生達もなかなか上手くは出来なかった。
お昼休憩を挟んで午後も引き続きストラップ・ボウの研修が続いた。
「みなさん、焦らなくても大丈夫ですよ。ストラップ・ボウは技術的に高度なので、何日もかかって当たり前なんです。」講師のその一言に少し安心した。
稀に真っ直ぐの矢が出来たと思っても、射る技術もないので的を捉えることが出来ない。
段々イライラしてきた。周りもそうらしい。キーーーッて言いたくなる。会場の空気が重くなってきたので、今日の研修は早めに終わった。
「シオリ、ディナーに行こう。」
昨日の場違い事件があったので、今日はホテルに着替えのために帰らずに、そのままマイクについて行くことにした。
「今日の研修はハードで疲れたから、ステーキでも食べよう。」
よかった、ドレスアップしなくて。店に入ると、やはり他の客がチラチラとこちらを見ている。
「マイクは、いつもこんな風にみんなから注目を浴びてるんだね。」
気の毒だなという意味のつもりで言ったのに、
「うん。そういう仕事だったからね。ありがたいよ。みんな僕の事を忘れないで、歌を聞きたがってくれる。素晴らしいことだね。」
出来た人だな。死んでまでプライベートが晒されるって、私だったら堪えられないけど。
「テキサスステーキでいいかい?」
「うん。嬉しい。お肉大好き。」
マイクは笑顔でストラップを振り注文してくれた。
フワッとステーキが現れた。さっそくフォークとナイフでステーキに挑む。
「固っ。」この世界に来て初めて、期待値より低いメニューに当たった。
「そうかい?アメリカのステーキはこんなものだよ。ジャパンツアーで日本のステーキを食べたことあるけど、歯ごたえがなかったなぁ。」
「日本のステーキは柔らかいからね。これも美味しいけど、私は日本のステーキの方が好きだな。」
ご馳走している相手からこんなことを言われているのに、マイクは大声で笑うだけでご機嫌にステーキを頬張っていた。
食事を終えると、今日も客のリクエストによりミニライブになってしまった。会話は余り出来ないけど、生前にチケットを取りたくても取れなかったビッグアーティストが連日、目の前で歌ってくれているのだ。
「拓ちゃんがいたら喜ぶだろうな。一緒に聞きたかったな。」こんなに幸運な状況の中、そんなことを考えて拓実に会いたくなってしまった。
研修3日目、昨日に引き続きストラップ・ボウの扱いの実習だ。昨日よりマシになってきたなと思っていたら、あちらこちらで的の中心を射る人が出てきた。
「シオリ、見ていて。あの的がシオリのハートだと思って射るから。」マイクが訳の分からないことを宣って弓を構えた。ギリギリと音を立てて弓がしなると、光った矢が放たれて見事に的の中心を貫いた。
「見た?シオリのハートを射止めたよ。」
「いやいや、凄いけど…何言ってんの?」
マイクは相変わらず、私の毒舌に大声で笑うだけで怒りもしない。いい人だ。
「私マイクに失礼なことばっかり言ってるね。ごめんね。」
「それでいいんだよ、シオリ。僕は名の売れたアーティストだったばかりに、周りのみんなはイエスマンばっかりだったんだ。気ばかり使われて自分が無くなりそうで怖かったんだよ。」
珍しく、神妙な顔でマイクがそう言うので、
「怒ってないならよかった。」と、マイクの肩を思い切り叩くと、ビタンといい音が響いた。
「痛いよシオリ。」マイクは思い切り大声で笑った。
マイクに負けていられないと只管練習を繰り返していると、それなりに的に当たるようになってきた。
「よしっ。」
的に当たるようになってくると、イライラも消えて楽しくなってくる。みんなが当たるようになってきたので、チームAとチームBの二手に分かれて紅白戦が行われることになった。私もマイクもチームBのメンバーになった。
チームAとチームBの一人ずつが前に出て、代わる代わる的を狙う。
マイクが前に出た。周りもシンと水を打ったように静かになった。
放たれた矢は見事に的の中心に刺さった。さすがに誰もが認める大スターが成功したので、敵のチームAからも歓声が上がった。
「マイク、凄い!もう完璧だね。」
「これで、シオリのハートも頂ければね。」マイクは私にウインクしながらそう言った。
今の所、チームBが優勢だ。私の順番が来てしまった。
緊張感MAXの中、矢を描き出す。真っ直ぐな矢が出来た。ボウを構える。
「集中、集中。」
深呼吸を一つして矢を放った。無情にも矢は的の外に刺さってしまった。
結果はチームAの勝利だった。負けた原因は決して私のせいではない。決して。
「残念だったね、シオリ。」恒例のディナータイムのミニライブの合間にマイクが労ってくれた。
次回も護身研修は続きます。




