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ヘブンズ・カンパニー -天国で運命の人に再会しました-  作者: さがわウェンディフェリシア
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案内係のお仕事

 おばあちゃんの出世祝ディナーの数日後、人手が足りてない案内係の仕事をすることになり、櫛田チーフから『お声がけマニュアル』という冊子を渡されながら、二人の先輩を紹介された。

「野中健太郎です。生前は銀行マンでした。宜しく。」

見た目は30歳前後、54歳で病死だったらしい。さわやかな青年といった感じだ。

「小杉かなです。生前はエステティシャンでした。宜しくね。」

見た目は20歳前後、38歳で交通事故死だったらしい。さすが元エステティシャンなので美意識が高い。見た目も若いし、身綺麗にしている。

「矢野詩織です。商社で普通のOLでした。宜しくお願いします。」

自己紹介が終わったところで櫛田チーフから

「まず、そのマニュアルに目を通しておいてください。それからエントランスへ行く前にドアの出し方を教えておきましょう。」と言われた。

そっか、今まで課長や主任やチーフに出してもらってたもんね。

「これを振ればいいんですか?」と私はストラップを持ちながら言った。

「それはそうなんですけど…」と言いながら何やら名刺のようなカードを渡された。

「それは、ドア出しの際に必要ですのでストラップに挟んでおいてください。」

渡されたカードを見ると、私の名前と『ドア出しカード』としか書いてない。質素…

 早速ストラップに入れ込み、執務室を出たところでドア出しチャレンジしてみた。

 エントランスへ向かうドア…エントランスへ向かうドア…

そう念じながらストラップを振るとシャラシャラと砂が固まるようにドアが出現した。

「おおっ。出来た!」ちょっとやってみたかったから、感動した。

「このストラップって凄いですよね。何でも出来ますね。これって、おでこに稲妻の傷のある、あの少年の魔法の杖みたい。」

「最初の頃は、本当に感動するよね。でも何年も使ってると慣れてきちゃうんだよね。当たり前の日常になっちゃってるなぁ。」

と野中が微笑ましい顔で私を見ながらそう言うと、小杉は、

「慣れても、ありがたい物はありがたいと思わなくちゃ。ね、矢野さん。」と言ってくれた。

二人とも‘あの少年の魔法の杖’に関してはツッコんでくれなかった。


 エントランスに行くと、今日もたくさんの人の往来がある。半分は案内係などの社員だとしても、残りの半分は日本のどこかで寿命の尽きた方々ということになる。

「そりゃ、人手が足りないよね。」そう呟くと、小杉が「忙しくなるよ。頑張ろうね。」と励ましてくれた。

 新しくこの世界に転送された弊社側の新入社員は、このエントランスに光に包まれて現れる。やがて、光が薄くなってきた時に、書類を持って説明をするために声をかける。

『お声がけマニュアル』によると、

「お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」と記入できるデスクまで連れて行く。

「こちらの用紙に記入していただけますか?」と書類を渡す。

書類に記入する際に質問されることも多い。質問されたら、先輩としてしっかり答えなければならない。よくある質問に答えられるようにFAQもしっかり記載されている。私が、質問に答えられずにまごまごしていると、野中さんと小杉さんが、かわるがわるヘルプに来てくれる。ありがたい。

 そして最後に、「それでは、こちらの番号札を持って、呼ばれるまでお待ちください。」と、番号札を手渡しながら受付へと向かわせる。と書いてある。

 ああ、そういえばそうだった。私もこうして案内されたんだったな、と入社1日目の様子を思い出していた。

こうして、案内係側の立場になってみると、中には私のように、まだ亡くなったことが分かっていない人も数人いる。病気にしても、事故にしても、まだ寿命がつきるなんて微塵も思っていなかったら、そりゃあ気付かないこともあるだろう。でも、説明しているうちに「あ、私は死んだんだ。」と気付いてくれる。書類への記載も多くの人は死因を記入することが出来ている。ということは、私の場合は病気でも事故でもない気がする。それに、通り魔殺人事件の時にあったフラッシュバック…私も殺されたのかもしれない。拓実は死因を調べようと言ってくれるけど、私は知りたくない。知らなくてもいい気がする。というより知ってはいけない気がする。


また、光に包まれた人がやって来た。急いで駆け寄って「お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」と声をかける。光のなかから出てきたのは、品のいい老婦人だった。

「お嬢さん、ちょっと車いすを押してくれるかしら?」そう言って私の顔を見上げた。

リストを見ると、この方は馬渕照子という名で、病気で足を切断しなければならなかったため、23年間に渡って車いす生活だったと記載されていた。

「馬渕さんですね?もうご自分で歩けますよ。」

「え?あら、本当だわ。私、足がある。歩けるのね。」と、涙していた。

「ご苦労されましたね。」そう言いながら、寿命が尽きるってことも悪い事ばかりじゃないと思っていた。


昼休憩で、野中と小杉と社食へ向かった。天ぷらそばをすすりながら、野中からこんな話を聞いた。

「俺の生前働いていた銀行の副支店長が2週間くらい前にこっちに来たんだけど、なんと黒紫の影をまとってたんだ。ヘルズ・コーポレーションへ引き込まれていったよ。何をやらかしたんだろうな。」そう言って笑っていたが、それを聞いてぞっとした。

銀行での不正な着服とか融資とか…そういった類だろうか?お金に魂を売って文字通り地獄へ落ちるんだな。私は真っ当に生きてきて本当によかった。


 午後、光の纏い方が尋常じゃない人が転送されてきた。

「お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」と声をかけてみる。なかなかまとった光が収まらない。ま…眩しい。

リストを確認すると、名前は藤本和馬。最初から莫大な【トク】貯金がある。

…何者?と思いながらその先を読むと、『国境なき医師団、中東にて患者を治療中に銃で撃たれて死亡』と書いてあった。なるほどそれは【トク】が高いよね。住居もAランクになっている。海外で亡くなっても日本支社へ転送されるらしい。さすがに、これだけ光を放った【トク】の高い人は珍しいらしく、かなりの注目を集めていた。


 ふと見ると、小杉が対応している人が光も影もまとっていない。不思議に思い、小杉が案内を終えて戻ってきたところを捕まえて聞いてみた。

「さっきの人、光も影も纏ってなかったけど、あれは何?」

「ああ、あれは自殺した人ね。受付が済んだら、入社式ではなく直接地下13階に行くことになるのよ。」

と教えてくれた。


次回、アメリカ支社に研修に行きます。

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