おばあちゃんのお祝い
おばあちゃんの出世祝をするために3人でディナーの約束をしていたので、終業後急いで3階に向かうと、もう拓実が来ていた。
「急いで来たから1番かと思ったら、拓ちゃん早いね。で、おばあちゃんは?」
「まだみたい。」
「ちょっと電話してみよっかな?」
やり方を教わった昨日から、ストラップテレビ電話を活用したくてウズウズしている。
「止めた方がいいんじゃない?辞令おりたばっかりで忙しいのかも。」
「そっか。」仕方なくストラップから手を離した。
「ごめん、ごめぇん。待ったぁ?」
エレベーターのドアが開くなり降りて来たおばあちゃんは、満面の笑みだった。
「今日は、お祝いだから高級フレンチ食べに行くわよぉ。」
店の中は落ち着いた大人の雰囲気で、各テーブルには手触りの良いテーブルクロスが掛けられ、花と蝋燭が飾られている。背の高いイケメンのギャルソンがにこやかに引いてくれる椅子も、高級感たっぷりで座り心地も最高だ。
「何課に配属になるの?」
「【宴会課】よぉ。124階なのぉ。」
「【宴会課】?それって何をするところ?」
「うぅーん。上手く説明出来なぁい。拓実君、代わりに説明してぇ。」
「毎年、春の桜の咲く頃に各課から何名かの代表者が出て、春の宴をするんだ。【宴会課】はその宴を取り仕切る課だよ。」
「宴!?」
「そうよぉ。ねぇねぇ、来年は二人とも参加してよぉ。」
「俺は、しいちゃんが一緒ならいいですよ。」
「一緒って、何をするの?」
「それは、二人で相談して決めるのよぉ。じゃっ参加でいいわねぇ。」
「なんか、いいように丸め込まれてる?」
「大丈夫よぉ。しいちゃんは拓実君がいれば何でも大丈夫でしょお。」
「でも、宴が終わったら、仕事納めになりますよね?」
拓実が少し寂し気にそう言った。
「仕事納めって?年末じゃなくて?」
「違うわよぉ。仕事納めはヘブンズ・カンパニーでの仕事が最後ってことよぉ。それが終わったら、私とうとう転生しちゃうんだからぁ。」
「え?そうなの?待っておばあちゃん。いなくなっちゃうの?」
べそをかく私の手をそっと取って、
「おばあちゃんじゃなくて美代ちゃん。そうよぉ。この前も言ったけど、来世でも縁が繋がってるから、これが最後じゃないわよぉ。また来世でも家族になるからねぇ。」
と、優しく撫でてくれた。
「だからね、今日はこの高級フレンチフルコース、美代ちゃんの奢りよぉ。」
そう言って、ストラップを振ると、ふわっと前菜とグラスに注がれたワインが現れた。
あれ?イケメンギャルソンやソムリエが給仕してくれるんじゃないんだ…
前菜から始まって、サラダ、スープ、フォアグラのテリーヌ、白身魚のポワレ、オレンジのソルベ、鴨肉のコンフィ、クレームブリュレ、最後に上品な量しか入らないカップに注がれたカフェオレ、どれをとっても超一流の料理だった。
「大満足。とっても美味しかった。美代ちゃん、ご馳走様。」
「俺までご馳走になっちゃって…ありがとうございます。」
「いいのよぉ。みんなで美味しいもの食べて幸せねぇ。」
「美代ちゃん、何だか少し前とは人が変わったように見える。悟りを開いたような…じゃないな。うーん。なんて表現したらいいのかな。」
「徳が高くなった?」
拓実のアシストに
「そう、それ!」
と、思わず叫んでしまった。
周りにいる客がチラチラこちらを見ている。
「…ごめん。」
おばあちゃんは笑いながら、
「文字通り、残り少ないここでの生活では使いきれないほどの【トク】預金が出来たからねぇ。」
「すごい!本当に頑張ったんですね。」拓実は関心してそう言った。
「だってぇ、生まれ変わってまた、おじいちゃんと過ごしたいなぁと思ってねぇ。」
と、しみじみと話した。
「あんなに『ケント君、ケント君』だったのに、やっぱりおじいちゃんを好きだったんだね。」
「当り前じゃないのぉ。ケント君よりおじいちゃんよぉ。私のお世話係はおじいちゃんだったのぉ。久し振りに会えて、あなた達のように毎日待ち合わせをして、一緒に食事したり、デートしたりして、そりゃあ楽しかったわぁ。おじいちゃんが転生しちゃった時はすごく寂しかったんだからぁ。」
おばあちゃんは、そう話しながら胸元から鎖に繋がれたキラキラと七色に輝く半球の石を出した。
「これね、おじいちゃんが転生する前にくれた物なの。」
拓実は身を乗り出して、「それって、ベターハーフの石ですか?」と興味津々だった。私は意味が分からず、「ベターハーフの石って何?」と二人に聞いてみたが、おばあちゃんからは「そのうちわかるわよぉ。」と濁されて、拓実はただ目を輝かせてその石を見つめているだけだった。
次回、案内のお仕事になります。




