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ヘブンズ・カンパニー -天国で運命の人に再会しました-  作者: さがわウェンディフェリシア
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振り分け課

高山が【見守り課】に異動して1か月程経った。下の世界では12月に入り、街中がクリスマスイルミネーションに彩られる頃だ。

ここ、ヘブンズ・カンパニーでもあちらこちらにイルミネーションが飾られている。

「ねえ拓ちゃん。クリスマス一緒に過ごすの久し振りだね。」

なんとなく周りがキラキラしていると、心もウキウキしてくる。

「クリスマスディナーが楽しみだね。」

「しいちゃんって、いつも食べ物の事考えてない?」

なんかムカついたので拓実の背中をパシンと叩いてやった。

「痛いなぁ。」いつものじゃれ合いをしていると、私のストラップが光った。

「何これ?ストラップが光ってるんだけど。」

拓実は驚いたように振り返って、

「しいちゃん。今まで連絡に使ったことないの?」

「連絡?」

「それ、宙に向かって振ってごらん。」

言われた通りにストラップを振ると、空中に半透明のモニターのような物が出現した。

「おばあちゃん?え?これってテレビ電話みたいにも使えるの?」

「あらやだぁ、しいちゃん。教えてなかったっけぇ?ごめんねぇ。」

「今まで、わざわざおばあちゃんに連絡するのに48階まで行ってたのって何だったの?」

「あ、そういえばそぉねぇ。うっかりしてたわぁ。」

「うっかりって…他に教え忘れてることない?」

「うーん…どうかしらねぇ。」

 …頼りない。

「ところで、しいちゃん。私異動が決まったわよぉ。たぶん、これが最後の異動になると思うわぁ。」

「【トク】貯まったんですか?」

「色々我慢して物凄く貯めたわぁ。」

「じゃあ、お祝いしなきゃね。明日はみんなでスペシャルディナーよ。」

「ありがとうねぇ。じゃあ、また明日ぁ。」

連絡ツールを切って拓実に「かける時はどうすればいいの?」と聞いてみた。

「同じだよ。宙に向かって連絡したい人を思い浮かべながら振ればいいんだよ。」

私は立ち止まってストラップを振ってみた。同時に拓実のストラップが光った。

「もしもし。出来たね。」

半透明のモニターに映る拓実と、実際の拓実がこちらを向いてそう言った。

「ふーん。便利だね。」


 翌朝、出勤すると春日課長に呼ばれた。春日課長の傍らには熱田主任も立っていた。

二人に呼び出されると、何かやらかしたのかな?と心配になる。

「矢野さん。異動が決まりましたよ。」

渡された書類には『矢野詩織 本日付で【振り分け課】に配属とする』と書いてあった。

「【振り分け課】?」

「【振り分け課】は伏見課長のところです。34階です。早速支度してくださいね。」

 また段ボールに身の回りの物を詰めて34階へお引越しだ。春日課長の暖かな雰囲気でこの課が好きになってきた所だったので少し残念に思った。

「矢野さん。お疲れ様でした。初日から大変な業務だったのに、よく頑張ってくれました。【振り分け課】に行ってもその調子で頑張ってね。」

聖母のような笑みを浮かべる春日課長に、この人のような空気感になりたいと憧れを持った。


 34階。

「本日よりお世話になります、矢野詩織です。宜しくお願いいたします。」

ドアを入るなり段ボールを抱えたままで挨拶をした。すると、伏見課長が歩み出てくれた。

「私が【振り分け課】課長の伏見です。宜しくお願いします。」

今度の課長はメガネをかけた[THE課長]という見た目だった。

「こちらの課では、裁判で真実と違う判決が出されても、真実に基づいて振り分けをします。冤罪や、罪を犯しているのに無罪になるような、間違った判決をきちんと分け直すのです。その他に案内係や、受付の業務なども、この課の仕事です。」

 ああ、私がここに来た時にしてもらったアレか。

「そうです。それです。ですが、今日はまず、刑務所に行ってもらいます。」

「け…刑務所?」

馴染みのない場所の名前に少々面食らってしまった。

「刑務所で、今日寿命の尽きる方がいますが、この方冤罪です。長く刑期を課せられていましたが、全くの無罪の方です。」

「それは…お気の毒ですね。出所したかったでしょうね。」

「そうですね。無念でしょう。」

そう言いながら伏見課長は、執務室を出たところに、さらさらとドアを出した。

「まずは、業務に慣れるまで櫛田チーフと一緒に回ってください。」


 リストの場所は雪景色の北の刑務所だった。ドアを開けるとそこは一面銀世界だ。

「櫛田チーフ。私、刑務所なんて来るの初めてなので緊張しちゃいます。」

「大丈夫ですよ。ここは刑務所ではなく病院ですから。」

あ、そういえば鉄格子の類が見当たらない。ちょっとだけ牢屋を見てみたかったな、と思っていると、なにやら、廊下の方で騒がしくなってきた。

「広川さーん。聞こえますかー?」

ドアが開いてストレッチャーに乗せられた患者が入ってきた。号令と共に看護師数人でストレッチャーから寝台へと移動させ、テキパキと挿管や心電図の準備をしている。つながれた心電図のモニターは、かなり不規則で弱々しい心音を印していた。

続いて白衣の医師が入ってきた。点滴から何か薬を注入しているようだ。バタバタとしている現場で、しばし様子を見ていたが、櫛田チーフが、

「時間ですね。」

と呟いた。

 寝台の上に寝ていたはずの受刑者は、むっくりと起き上がりこちらを向いた。

「長い間お疲れ様でした。あなたが無実だという事は存じ上げていますよ。どうぞ、やすらかに。」

「ああ、やっとこの苦しみから解放されるんだ。…やっと…」

冤罪でありながら受刑者だった広川は、ほっとした顔をしながら、ふわふわと浮き上がった。

「大丈夫。ヘブンズ・カンパニーは快適なので今までの辛さは吹っ飛びますよ。」

私は堪らず広川に声をかけた。

「ありがとう。」

そう言って広川は光と共に消えて行った。

残されたむくろの周りでは、医師が脈をとり時計を見ながら死亡時間を述べていた。


 櫛田チーフが、社に帰ろうとドアノブを捻りながら

「一度エントランスに寄って、案内係や受付のお仕事を覗いて行きましょう。」

と言ってくれたので「それは助かります。」と笑顔で返した。

しかし、この会社には嫌な人が一人もいない。デリカシーのない高山のような人はいるけど、彼も基本いい人だ。そんなことを考えながらドアを通り抜けようとすると、

「みんな【ゴウ】より【トク】の方が高い人ばかりなので当然ですよ。」

と、櫛田チーフがニヤリ顔でこちらを向いて、そう言った。

…あ、久々に[思い]の駄々洩れ、やってしまった。


 エントランスでは今日もたくさんの人が行き来している。

そういえば、私がここに初めて来た時には周りの景色は真っ白だったけど、こんなにカラフルだったんだね。この前ここに強制送還された時も眩しい光に包まれてたし、あの禍々しい黒紫に気を取られてたから気が付かなかったよ。

「ぽつりぽつりとしゃがみ込んでいる人がいらっしゃるでしょう?」

櫛田チーフのその声で、仕事中だったことを思い出した。

「あの方々は、転送されてきたばかりの方々です。」

説明を聞いて合点がいった。案内係がしゃがみ込んでいる人に話しかけに行っている。

先程、臨終に立ち会った広川も案内係に受付番号のふだを渡されて、書類を書き込んでいる。

 あれ?広川さんの奥の方の人、しゃがみ込んでいるので今転送されたばかりみたいだけど、様子が他の人とは違う。

「櫛田チーフ、あの男性、今転送されたばかりなのに光じゃなくて影をまとってますね。」

「ああ、あの方はあちらの会社の内定者ですね。見ていてください。ヘルズ・コーポレーションが彼を迎えに来ます。」

 先日、私が好奇心に負けそうになって覗きに行こうとした禍々しい受付から、黒紫の煙のような影が沸々と湧き出て、次第に大きくなってきた。やがて、大きな手のような形になり男をひと掴みした。掴まれた男は必死に抵抗してもがいている。泣き叫び、大きな手に嚙みついたり殴ったりしていたが、抵抗空しく受付の向こうに引きずり込まれ消えて行った。

「あの黒紫の影に巻き込まれたら、お終いですよ。」

そう言われて、出雲課長に助けられた時の事を思い出していた。

「もしかして、あの時、出雲課長に助けてもらわなかったら、私も引き込まれていたかもしれないんですね?」

「矢野さんに何が起こったかは知りませんが、ヘルズは容赦ないですから。絶対に関わってはいけませんよ。」

櫛田チーフってば、絶対出雲課長にあの一件聞いてるよね。で、知っててあの光景を私に見せたよね。


次回、おばあちゃんの転属が決まります。

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